閑話②「哀れな罪人を収容する塔」
【コシュマール塔】。
それは、1000年前に教皇アリアが造ったとされる罪人の収容所であり、
神に対し冒涜を働いた者を、
罰するために造られた要塞とも言われている。
その塔は第二聖騎士団が防衛と警備を担当し、
第三教会の司教ナシアが罪人を裁く任を与えられている。
コシュマール塔に連行された以上、
王族も貴族も修道士も聖女も関係ない。
この塔に収容された者は皆全て、”罪人”なのだ。
「おいっ!!エリア王国の第二王子である、
この俺になぜこのような下働きなどやらせる?!!」
「はぁ……何度も言ったでしょう?
お前はもう王族ではないのよ、フーリヒ。
口を動かす暇があるなら手を動かす!」
ここは、コシュマール塔で使用した食器などを洗う場、
──つまり、台所だ。
エリア王国”元”第二王子フーリヒは、
この巨大な要塞とも言える広さをもつコシュマール塔の、
使用済みの食器洗いを担当することになっている。
理由は簡単だ。
人手が足りないからである。
このコシュマール塔には、警備にあたる、
第二聖騎士団及び収容された5000人以上の罪人、
そして第三教会から、
罪人を裁くために派遣された修道士が300人ほどいる。
故に、食料も大量にいれば、
こうした食器も沢山いる。
部屋に関しては、
まだまだ空きが余りまくっているから問題はないのだが、
このコシュマール塔に働くもの達は、
日々怒涛の仕事量をこなし続けている。
だからこそ、コシュマール塔に働く者の給料は、
他の職業と比べて高いのだが。
ここで働く使用人は800人を超える。
しかしそれでも、収容人数よりも少ないのだ。
フーリヒの父、エリア王国”元”国王フィリップは、
力仕事、宰相のシモンは書類整理を任されている。
もちろんこのコシュマール塔は実力主義だ。
故にここで働いた年数と、
その実績が長けているものほどここでは上官として扱われている。
無論名誉なことではある。
毎年実績を挙げたものには第一司教から直々に、
勲章を与えられるのだから。
そして今年は教皇が目覚めている。
つまり、今年勲章を授与される者は、
教皇から手渡されるということなのだ。
この世でこれほどの名誉はない。
それがこの世界における常識。
──それを覆すことは、絶対にできないのだ。
■
「エリア王国の罪人たちが無事、
コシュマール塔に収容されたそうです」
皇居に住み込みで働く使用人の女性が、
コシュマール塔を管理している第三教会からの報せを、
世界中に起きた様々な問題や事件の報告書を空中に、
無数のスクリーンとして映し出しそれらを読んでいるアリアに報告する。
「そうですか。逃げることはしなかったようですね」
「逃げるという真似をすれば、
それこそ彼らの名誉が地の底に堕ちることを理解していたのでしょう。
そして、新しくエリア王国の国王となられたアクア国王より、
罪人たちに加担していた貴族たち、
王宮の国庫を私用に使っていた上位貴族達を処分したとの報せが、
レーナ王太后より届きました」
報告書を読んでいた視線を、
アリアは自分に報告に来てくれた使用人に向ける。
どうやら、エリア王国民も前国王には良い印象を持っていなかったようで、
アクア王子が国王として即位したことには大賛成だったようだ。
民から絶大な人気を誇り、
信頼を寄せられているアクア王子にならば、
あの国を立て直すことができるだろう。
「報告、ありがとうございます。
これからは彼ら次第ですがきっと上手く立て直せるでしょう」
「えぇ、私もそう思います」
使用人は手に持っていた書面を懐に戻し、
アリアに対して深く頭を下げる。
「お疲れ様でした。
寮に戻り、疲れを癒してくださいね」
「ありがとうございます、教皇聖下」
にっこりと柔らかい笑みを浮かべたアリアに対し、
使用人はもう一度深く頭を下げ、
アリアが現在いる〖神聖の間〗と呼ばれる王の間から去る。
「国内の問題は、
その国の王族にしか解決できないことですが……。
彼らはあの罪人たちとは違い、民を想う心がある。
地の底に落ちつつあるエリア王国の評判を、
一代で最高評価までのし上がれそうですね」
アリア以外誰もいない、静寂が漂う広い場所で、
アリアは小さく息を吐き出し、薄く微笑む。
太陽の光が差し込む玉座に座るアリアの姿は、
とても神秘的な姿をしていた────。
今回で第一章完結になります。
次回から新しい章に移ります。
現在当作品と同時にノベルアップ+にて
「強引に婚約破棄された最強聖女は愚かな王国に復讐をする!」
という作品を投稿しています。
そちらも是非、よろしくお願いします!(* .ˬ.)"