第2話「愚かなる王国」
教皇聖下、アリアがエリア王国の王の間へと移動する数十分前──。
「ふんっ!
あのカスティージョ王国とかいう小国めが、
調子に乗りよって……」
エリア王国、今代国王フィリップは宣戦布告を言い渡した、
カスチィージョ王国の現国王ファーストの態度に嘲笑う様子を見せた。
「フィリップ国王!
創世神アリシアに対し誓った対立凍結の契約を、
無視するのですか!!」
「うるさいぞ、
そもそもお前は司教だかなんだか知らないが、
この国王に向かって減らず口を申すとは!!」
「父上、そのようなくだらないことは無視して、
早く本題に戻りましょう」
第二王子フーリヒが、
ちらりと第二十二司教を嘲笑うような顔をしたあと、
ササッと本題に入るようにと国王である父にそう促す。
「では、我らの支配下に置き、
我々の領土と利益拡大を目的として手始めに、
カスチィージョ王国を侵攻するということですね?」
「うむ、流石はシモス宰相!よく分かっておる!」
「ありがたきお言葉」
シモス宰相は、フィリップ国王に対して恭しく頭を下げる。
「それに、まだ第一司教様が気付かれていないからな。
我らの領土を広げるには絶好のチャンスだ」
「流石は国王陛下!
やはりあのような小国よりも我らエリア王国の方が、
地位も権力も上であるということですね!」
フィリップ国王を慕っている貴族達は、
すぐさま賞賛の言葉を口早に騒ぎ立てる。
一方の王妃であるレーナ、第一王子であるアクアは、
そんな奴らを憐れむかのように見つめている。
「(馬鹿なことだ……。
そもそも、契約違反を犯したということは、
第一司教様だけでなく、
教皇聖下までもを敵に回したことと同義だというのに……)」
「(アクア、彼らの愚行は今に始まった事ではないわ。
今回、契約違反を犯したことで、
自分たちのしたことの愚かさを実感するでしょう)」
周りには聞こえないように、
口の動きだけでこっそりと、
王妃レーナと第一王子アクアは会話をする。
「母上、兄上、これで何も問題ないですね」
「フーリヒ、何が”問題ない”のだ?」
「兄上も母上も、民の為と質素なものにしか身を包んでいない。
それは、民たちがキリキリと働かないからでしょう?」
「民たちが、”働かないから”、ですって?」
レーナは怒りと哀れさを含んだ表情をしている。
アクアももちろん、民たちがこの愚かな王室のために、
日々時間を削りながら働いているのを知っている。
だからこそ、民たちの助けになれればいいと、
高値のものは売りさばいて、
民たちが日々貧困や食べ物に困ることのないよう、
日々やれることをしてきた。
だと言うのに、フィリップもフーリヒも、
この王室が、この国が、
誰の手によって支えられているか全くもって知らないのだ。
王族でありながら、その恩恵に毎日身を浸していながら。
フィリップとフーリヒは金遣いが荒い。
全て己の私利私欲のために使っているのだ。
贅沢三昧をして、己が絶対の王者であると、
馬鹿な妄想に身を浸している。
これには、アクアはもちろん王妃であるレーナも、
怒りを感じずにはいられなかった。
「王妃よ、どうかしたか?
そのように不機嫌そうな顔をして」
「いいえ、なんでもありませんわ。陛下」
「愛しい我が妻よ、
そのようなことを言わないで遠慮などせずに、
我に話しておくれ」
「大したことではありません。
わざわざ陛下のお手を煩わせる訳には参りませんわ」
フィリップ国王は、
どうやら王妃が険しい顔をしていることに気付いたようで、
あせあせと理由を伺っている。
「……?陛下、『聖なる扉』が光っております」
騎士長の言葉に、フィリップは面倒そうに、
『聖なる扉』のある方へ向きながら、
青白くなりながらも驚愕の声を上げる。
「っ、なんだと?!……まさかっ」
『聖なる扉』とは第一司教、第二司教もしくは、
聖騎士団総司令、そして教皇聖下にしか、
開くこともくぐることもできない神聖なるもの。
その扉は各国の主要人物が集まる王の間にひとつずつある。
そうして、全員が光り輝く扉を見つめながら、
皆の顔に徐々に驚きの表情を浮かび上がらせていく。
国王フィリップも第二王子フーリヒも、
王妃レーナも第一王子アクアも、
驚きで目を見開くしかなかった。
何故なら、『聖なる扉』から姿を現した人物が───。