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22.彼女の紋章のこと



 ゴン、と、

 一音。岩場を蹴る音がする。

 クリスタルに舞う、美しき白い羽と剣技。

 鎧という鈍重さを感じさせない、麗しき絶技だった。


 あれから。

 シャルエールは本調子を取り戻したのか、鎧をまとわないスタイルで洞窟内をところ狭しと飛び回る。

 元々一階層の天井が高めなせいもあってか、その速度に歯止めはない。


「ふっ!」


 宙を舞いながらの一閃が、入口に居たオーガと同系統のモンスターの身体を切り裂く。

 あのときよりも一段鋭く、速い。

 更に、返す刀で一撃。

 長身の身体から繰り出される剣戟は、流麗な舞そのものだった。


「速い……な。最高速はワタシよりも上だ」

「やっぱそうなのか? すげえな」

「さすがは鳥獣族とのハーフだ。

 同じ翼を持っていても、筋肉の使い方の……、意識が違いやがる」


 なるほどなとぶつぶつ言いながら、メアは何かをインプットしている。


「…………、」


 このあたりも、メアの恐ろしいところだ。

 もうすでに十分強いのに、更に貪欲に強さを求める。

 まぁ俺は逆に、もう強いから十分ジャン♪ と胡坐をかいていたから負けたんですけどね……。


「しかしシャルエールの羽ってさ、片翼でも飛べるもんなのか?」

「正確には飛んでるンじゃァなく、跳ねてンだありゃあ」


 顎で見るよう指示し、メアは続ける。


「土台、片羽での飛行は構造上無理だ。

 だからたぶんあの羽は、空気なんかを切り裂くのに使ったりして、滞空時間を伸ばしているンだろうよ」


 身軽に剣を振るうシャルエールは、四斬してもまだ中空にいる。

 魔法で浮いているわけでもないのに……、すごいな。


「空間把握に空間認識。それと、ボディバランス。――――ギャギャ! 羽アリだと、かなりやるじゃァねえか!」


 こんなにも嬉しそうなメアは久しぶりだ。

 そもそも『戦う者』として、強者を見るのは好きなのかもしれない。


「ふぅ……、こんなものかな」


 道を塞いでいたオーガ三体を難なく撃破し、彼女はこちらに戻ってくる。

 入り口で見せた動きとは比べ物にならない。

 これが、しがらみ(・・・・)などを一切気にしない状態の……、彼女のチカラか。


「僕はもっともっと強くなる必要がある。どんなスタイルだろうと……、必ずね」


 一人黄昏れるように言葉をこぼす彼女。

 ……うん、かっこいい。かっこいいんだけど……、なんかゲームの勝利ボイス聞いてる感じになるな。

 キメすぎているからだろうか。


「基本のチャンネルが、スタイリッシュになってるヤツだからなぁ」


 ともすれば、ちょっとナルシストにも見えなくもない。


「というか……、すげえ身長伸びてるなシャルエール」

「ん? あぁ、そうみたいだね?」


 もう俺たちの前では気にすることもなくなったのか。自由に羽を広げてシャルエールは言った。

 身長も、平常時は俺と同じく百七十前後くらいだったのに。

 現在は胴体や手足がすらっと伸びて、百九十近い身長になっている。

 スタイルもいいので、なんだかテレビで見る、海外の女子バレー選手みたいだった。


「自分でもここまでのスタイルになるなんてね……。フフ、興奮するね!」

「自分自身に興奮するな」


 胸にかすかに手を当て、恍惚の表情を浮かべるシャルエール。

 しがらみから解放されつつある彼女は、自由で、……ちょっと変態度が増していた。


「パンツ趣味も、亜人とか関係なく本人の趣味だったしな……」


 そこにも何か深い理由があるのかと思ったのだけれども。……ほら、下腹部の羽毛が邪魔してパンツを履けないから執着してた、とかなんとかさ。

 違ったみたいだけれども。


「ちなみにさっき話してた感じだと、男女両方ともイケるらしいぜ豚ァ。とても良いことだ」


 うんうんとメアは頷き、にやりと笑う。

 コイツもコイツで何考えてるのかわかんねーな。


「まぁいいや……。さーてそれじゃあ、一気に行くか」


 本気になった俺たちに。

 基本的に敵うモンスターなどいない。


 俺とメアは休憩を挟めば、基本的には魔力は回復するし――――、


「今となっては。シャルエールへも魔力を分け与えることができるしな」









「なるほど……。紋章、というやつだね、コレは」


 シャルエールは自分の腹部まじまじと確認しているようだ。

 俺はまじまじと見るわけにはいかないので、背中を向けた状態で説明を続けることに。


「どうやらその……、メアの紋章が移っちゃった? みたいでな……」


 彼女がクリスタルゴーレムに取り込まれていたとき。

 シャルエール入りのゴーレムに対して、メアは呪いの髪の毛の魔力を押しつけた。

 そこに対してのフィードバックが、変な形で表れてしまった結果だろうと、メアは言う。


「ワタシのものと全く同じなんだ。おそらくそうだろうなァ」


 言葉と同時に、ぺたと、肌に触れる音がする。

 たぶんメアが、シャルエールの腹に触れたのかな?


「体内を流れる魔力にちょっと変化があるんじゃねェか?」

「ううむ……、確かに。

 言われてみると、そのような気もするね」


 ふむと、彼女は考えて言う。


「つまりこれは……、僕もアールメイアと同じような強さを得ることが可能ということだろうか?」


 まっすぐな言葉だった。

 見えてはいないけれど。一切の邪念を持たない瞳をしているであろうことが予想できる。


「……はぁん、面白いじゃねえか」


 純粋な言葉。

 強く意思を持った言葉に、メアは笑った。


「良い……、言葉だ。

 ワタシと同種の強さを求めたいと思うやつが、まさか存在するなんてなァ……?」


 ギャッギャッギャと。

 悪魔のように笑って。

 メアは言う。


「死ぬ気で全力を出し続けろ、シャルエール。

 なぁに、ヤバくなったらあの豚が、魔力を補ってくれるだろうからよ」

「オイ!?」

「死にやしねえよ。あとこっちは気持ちイイし、良いことだらけだ」

「なるほど。頑張ろう」

「オイ!!?」







 そう言って女性陣二人は意気投合し。

 強さの高みを、目指すことに。


 メアの紋章がうつったのは……、まぁ、この際仕方がないとして。

 シャルエールへ、再びあの行為を。

 またぞろ行わなければならない日が来るのだろうか。


「というか、エロい効果は抜いてくらたんだよなぁ……!?」


 それでもアイツら、勝手にそういう感覚だと思って受けやがる。もしかしたら違うかもしれねぇんだからな!?

 それに――――


「もう、疑似セッ……とか言い出しても、俺は突っ込まないからな……!」


 そう心に決めて。

 でも結局突っ込むことになりそうだなと予感しつつ、後を追いかけるのだった。






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