中途半端な半人半鬼
私はナナ……吸血鬼の専門家、そして半人半鬼に対しても理解がある。自分はそうお思っていたが、それはあくまでも自分を自分で見た主観的な物でしかない、客観的人見た場合はどうなるのか?それは第三者にしか分からないし、第三者がどう思おうが直接私に伝えない限り私が気づくことはない。結局のところ、人は他人の心の内を正確に読み取ることなんて出来ない……予想することは出来るけどアテにはならない。
私は昔から人が避けるものに近づく癖のある人間であった。吸血鬼に興味を持ったのもこの癖によるものだ。吸血鬼研究の権威である先生の下で吸血鬼を学び、そして研究をしていくさなか、私は人間の醜さを思い知った。当時、西の国では吸血鬼の暴走は社会問題となり多くの人が犠牲となった。人々は必死だった……必死であったからこそ人の醜さが現れた。私や先生の研究成果は取り合い、半人半鬼が現れた時も半人半鬼を殺すか生かすかで揉めた。人は必死になると……そして敵が現れると醜くなる。私は吸血鬼越しでそれを知った。
私も結局、醜き人間と同じだ。私は半人半鬼に理解があると自称していた。ハッキリ言ってコレを自称するからにはそれなりの自信があった。だって半人半鬼を私は知っているし半人半鬼がどういう目に遭うのかも知っている。だから私は半人半鬼に対して理解がある……そう思っていた。
だけど実際は違っていた。私は半人半鬼に対する理解があったわけではない、ただ単純に半人半鬼を知っていただけだったのだ。それは理解したとは言えない……知っているだけだ。私は半人半鬼を知っている、だけど半人半鬼にはなりたくない……だけどそれでも私は半人半鬼に理解があると言っていた醜い人間だ。
「はぁ、はぁ……ナナさん!ここに居たんですね!」
息を切らしながらやってきたのはハンだった。彼女は半人半鬼らしく息がそう長くは続かない、そんな彼女が追いかけて来れたのだから距離はあまり離れていなかったということだ。私的には結構な距離を走ったつもりだが、思ったよりも走っていなかったようだ。
「どうしたのハン……私なんかを追いかけてきてさ」
ハンは半人半鬼だ。だから私はてっきり、メイと一緒に行動すると思っていた。だけど彼女は私の所に来ている。
「私は……メイさんの考えていることが正しいとは思えないんです。だけど間違っているとも思えないんです」
そうか、メイのやり方が違うとハンは思うのか……半人半鬼も色々、結局人間と変わりはない。半人半鬼は皆一緒と考えていた私が恥ずかしい。吸血鬼に加担した人間がいるように、人間に加担する半人半鬼もいるのだ。
「そう、メイの考えていることが正しいとは思えない、そして間違っているとも言えないねぇ……それを言いたいのなら自分の意見くらいしっかりと固めなさいよ」
と、ハンに説教をしているが私自身も結局は中途半端な意見しか持っていない、ハンに説教をする筋合いは持っていない……だから私はハンに説教をしているわけではない、ハンの回答を通じて私の回答を導き出そうとしているのだ。これはかなり憎ったらしくて卑怯な戦略だ。
「私は……うん、そうですね。自分で答えを見つけなきゃ」
私は素直に、素直な子だと感じた。ハンは素直で私はその素直に寄生する人間だ。ハンと私は五歳くらいしか年が離れていないが、その五年だけで人は十分に汚れる。
「行きましょう……」
ハンが何処に行くかなんて聞かなくたって分かる、メイの所だ。ハンは考えるのを始めてから歩き出すまで一分と経っていない所を見ると完全に答えを見つけたとは思えない……見つけたとしても度の強すぎるメガネをかけた時のようなボンヤリとした物だ。だけどハンにとってはそれだけでも十分なのかもしれない、複雑な答えではなくシンブルなものだ。
「貴方はメイをどうしたいの?」
「説得します。私の考えを伝えて止めます」
人って強くなるんだなと感じた。少なくともハンと初めて会った時に比べれば彼女は一回りも二回りも大きく、強く感じる。私はそんな彼女に”興味”を抱いた。私が興味を持った時の行動は毎回同じのワンパターンだ。興味を持った対象に対してトコトン付き合う、だから彼女の行く末を見続けてやろうではないか……だから私もハンの後ろをくっついていくように歩き出す。ハンは足音でそれを察したようだが特に何を言うことも、何をすることもなく、前進を続けた。
私は以前、吸血鬼を従えていたフォンとメイにこう言ったことがある。「このまま行くと潰れる」だ。この言葉は出まかせで言ったわけではない、統計的、そして一人間としての考察によるものだ。第一に姿形が違う半人半鬼を人間はそう簡単には受け入れない、だから半人半鬼はどうしても人間社会から孤立する。半人半鬼という人間と吸血鬼の中間のような存在で人間から憚れたら行く場所は吸血鬼側しかない、だから半人半鬼は皆、吸血鬼側についてしまうのだ。半人半鬼は他動的にも能動的にも人間から遠ざかっていく、そしてもう下に戻れなくなる。底なし沼に捕まってズブズブと埋まっていくようなものだ。
ハンも一瞬とは言え、あの吸血鬼軍団に加担した人間だ。少なくとも沼に片足は浸かっている。そしてメイは恐らく首まで浸かっている事だろう、そしてあろう事かメイは自ら、さらに奥へ、奥へと浸かりに行っている。ハンは自分の考える最良というロープでメイを引き上げるつもりだ。さて、そのロープはどういうものなのだろうか?そしてそのロープをメイは掴むのか?ロープを引き上げる先は?
私が以前、出くわしたあの吸血鬼をめぐる衝撃……多分これから起こることはあの時に匹敵するものだろう。私はこれから起こる物語を単純な興味として見に行くことにしよう……




