98, 怒ってもいいのでは?
(アルト視点)
「というか、何で相手を怒らせたんですか?」
「え?」
アルトは一口サイズに切ったリンゴをシャリっと食べる。膝の上のハルカゼもモシャモシャとリンゴを噛んでいる。口元に手を当てているのが可愛らしい。
「えっと⋯⋯。」
「相手さん、ハーディちゃんが号泣するまで怒ったってことですよねぇ〜。」
「いえ、本人の前では泣いてま」
「結果論ですよ。今だって、ハーディちゃん目の周り真っ赤っ赤で。相手のお名前出せとか、私がその人に復讐とか、そんなことはしませんよ。ただ、少し気になって。」
(まぁ、昨日の今日でのこれだから、意図せずともなんとなく相手さんは予想できるんですけどねぇ〜。)
「えっと、⋯⋯。」
言うのを渋っているのは、ことを大きくすることへの抵抗だろうか。言葉を誤ることでアルトが相手に抱く感情が悪いものにならないか、第三者に話したとその人にバレたときさらに嫌われないか、そんな心配。
「私、意外と口が堅いんですよ~。」
「⋯⋯。実は⋯⋯⋯⋯。」
そして聞いた内容にアルトは思わず呟いてしまった。
「それ、ハーディちゃん悪いところ無いですよね?」
「え?」
途中から思い出し泣きしてしまったハーディが震えた声を出した。
「え?だって、体調不良な人のお見舞いに行ったら、たまたま居合わせたその人の友達に怒られたんですよね?」
「はい。」
「しかも、その本人もハーディちゃん悪くないって言ってたのに。」
「いや、でも私が気を使ったりできなかったので」
「いやいやいや。事情知らないのに怒られてもって話ですよねぇ〜?」
「まぁ、それはちょっと思ってしまったんですけど⋯⋯。」
ハーディの小さくなる語尾につれて視線も泳ぐ。
「ハーディちゃん。あなた、いい人すぎるけど理不尽なことはしっかり言わないと。」
「え?」
「ハルカゼ〜。」
「何?」
両頬パンパンにリンゴを頬張る妹が自分を見上げた。
「相手が悪いときに理不尽を伝える手段は?」
「けんか〜!!喧嘩するしか無いですよぉ〜!!」
「!?!?」
「ハーディちゃん。」
「は、はひ!?」
アルトはハーディの腕を掴んだ。
「我が家伝来のケンカの極意を学びましょう。ケンカは悪いことではありません。そのケンカを通してどう相手と気持ちを交わし合えるか、それが重要なんですよ。」
「ひぇ⋯。」
大通りの一本それたところ。閑静な住宅街にはしばらく、可愛らしい悲鳴が響いたという。
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