54, 自覚と決意
「お久しぶり、月の聖女。いや、ハーディ。」
「あーう、あ?」
シャルルが声をかければ、ハーディは舌が回らなくて言葉になり損ねた声を出す。
(⋯、意識はあるみたい。)
シャルルは最悪の事態は免れたと少し安心しつつ、彼女に問いかけた。
「どんだけキツいの盛られたの?」
「ぅぁーう。」
「⋯なんて言ったかさっぱりわかんないや。
今から鎖を切るよ。こっちに倒れておいで。受け止めてあげるから。」
シャルルは腰の鞘から剣を抜いて、ハーディに繋がれた鎖を切った。
最初に足の鎖を、次に手首の鎖を。支えが無くなったハーディの身体は勝手にシャルルの方へ倒れてくる。それを優しく受け止め、
「偉いね。」
その場にゆっくりと座り込んで、労わるように彼女の頭を撫でた。先ほどまでの拷問のせいか、じっとりと汗ばんでいるハーディの額を持ってきていたタオルでぬぐってやる。ハーディが気持ちよさそうに目をつむるのを見ながら、シャルルはしばらくその作業をつづけてやった。
「⋯君があの日助けた月の聖女だったなんて思わなかった。」
自然と、言葉が出た。
「?」
「あのときの君は、すごく幼く見えたし、髪が長かったから。」
魔力を彼女に流すようにイメージしながら魔法を発動する。少し目に光を取り戻した彼女は、俺の服をぎゅっと握った。
「⋯シャ、ルさん?」
「2回も守れなくて、ごめん。」
シャルルはハーディを抱きしめると、掠れた声でそう言った。
(騎士は、国民を守るために存在している。なのに、身近な一般人に、守られてしまった。)
イヴの言葉を思い出した。ハーディが魔法騎士団の人には、消えたことを言うなとお願いしてきたのだ。と、言っていたのを。
(信頼されていなかったわけじゃないだろう。でも、気を使わせてしまった。その結果、こんなにもハーディを傷つけてしまった。)
人が手を伸ばせば届く距離に居るのは、特別なことなのだと、知っていた筈だったのに。
(消えないで⋯。ハーディ。)
自分の中で、いつの間にか大きくなっていた存在。
近くにいるだけで気持ちが安らいで、自分を見つけてくれる度に、気持ち悪いくらいに嬉しくなれた。
(ずっと、そばに居て⋯。)
最悪なことだが、今回の事件でシャルルはようやく、自分の気持ちに気付いた。
(二度と、君を危険な目に合わせないから。)
腕の中の存在が、消えてしまいそうで怖かった。そこにいるのに、居なくなりそうで、恐ろしかった。居なくならないで欲しい。居座り亭のカウンターで、また、笑いかけて欲しい。
(好きだ。)
シャルルは、腕の中のぬくもりを確認するように、抱きしめる力を強めた。
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