40, トトの実のジュース
「シャルルさぁーん!!待ってくださいー!!」
「待てって言われて待つ人なんて居ないよ。」
「きょ、今日は本当に仕事じゃなくて⋯。ちょ、待ってー!!飲んでみてほしい物があるんです!!シャルルさんのサボりの現場を見つけたのは事実ですけどー!!」
ハーディはもつれそうになる足をなんとか動かしてシャルルを追う。しかし、悲しきかな。現役の軍人に純粋な追いかけっこで勝てるはずもなく。彼の姿は一瞬で人混みの中に消えていった。
「トトの実のジュースを飲んでみて欲しかっただけなのに⋯。」
(あと、できれば感想も欲しかった⋯。)
約数分前、買い物に出ていたハーディは道ばたで偶然サボり中のシャルルと出くわした。ハーディは丁度新作ジュースのお試しをしてくれる知人を探していた。喜んで声をかけたものの全力で逃げられてしまい⋯今に至るわけだ。
「⋯あれ?」
諦めて向きを変えて帰ろうとした時だった。目の前を歩いていた女性がふらりとよろけて、力が抜けたみたいに地面に座り込んだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「⋯⋯。」
ハーディは慌てて女性に近付いた。正面から顔をのぞき込めば、首が緩く横に振られた。
「あ、あそこの広場に噴水があります。そこに、座るところもあるので、一緒に行きましょう?少し頑張れそうですか?」
「⋯。」
ハーディは女性と少しずつ、本当に少しずつ進みながら、広場に向かった。
「どうぞ。トトの実のジュースです。」
「⋯あ、ありがとう、ございます。」
「トトの実は夏バテにもってこいですので。ゆっくり飲んでくださいね。」
誰かに飲んでもらおうとして水筒に入れていたトトの実のジュースを彼女に手渡す。
「⋯ふぅ。」
「⋯。」
(この人、見覚えがある?)
ハーディは横でジュースを飲む女性を注意深く観察した。よく分からないが、昔、本当に昔、どこかで見たことがあるような気がするのだ。
「⋯。」
「あ、あの。何か私の顔に付いていますか?」
「い、いいえ?!すみません。なんでか貴女をどこかで見たことがある気がして⋯。」
「⋯⋯!?」
少し体調がマシになったのか、女性は顔を上げて私を見た。そして、茶色の瞳が驚きに見開かれる。彼女はハーディの両肩に手を置いて、恐る恐る口を開いた。
「もしかして、月の聖女様ですか?」
「⋯!?」
(何で、その呼び名を知ってるの?)
○△○
『貴女は何も考えなくて良いのです。』
『我々に全てお任せください。』
『月の聖女様』
『月の聖女様』
○△○
(い、嫌だ。何で)
「我々はずっと貴女を探しておりました。醜きこの国の罪人どもに貴女様を奪われ、多くの同士を失っても諦めることなく。さあ、帰りましょう?」
ここまで読んでいただきありがとうございます。




