1-08.海賊退治(1)
対策を考えるに当たって、先ずはマリア様と相談することにした。
何せ、飛竜の念話が使えない状態で、遠く離れたナポルに到着した情報をここで議論するには、念話を使えるメンバーで相談を進めるしかないからね。その点、念話が使えて、王族で義理の母で、メイド長であるマリア様なら頼るに十分だよ。
マリア様に、砂糖の枯渇とレイさんの第一報の話をすると、「念話を使える夕食会のメンバーを全員集めなさい」とのこと。
あれ、改めて念話が使える人って、誰だっけ……
妖精の長達はおいておくとして……
ハミルトン家だと、私、フウマ、ユッカちゃん。
執事長のモリスとマリア様。
あとは、ステラ、ニーニャ、アリア。
この8人になるね。
私の近衛騎士団の隊長さん達も使えるけど、夕食会のメンバーじゃないから、今度でいいかな。
よし!久しぶりに夕食会の開催だね!
ーーーー
「ヒカリさん、夕食を食べながらで良いので、皆さんに久しぶりに集合して貰った理由を説明して」
「ハイ!」
結婚の儀の前辺りから、全員が夫々(それぞれ)の役割りを担って、そのチームの指揮を執っていたから、挨拶や食事の場で個別に会うことは有っても、この夕食会のメンバーが一堂に会するのは、前回マリア様が全員へ指示を出したとき以来かも?
予め、夕食会のメンバーには緊急事態であることを念話では伝えてあるのだけれど、傍目にはぼーっとしてるように見える、念話会議を重要な内容で長時間するには、それぞれのリーダーや家族としての役割があるから、変に怪しまれない様に、堂々と夕食の場に集まることがいいってことになったよ。
状況説明として、今のストレイア帝国を構成するトレモロさん経由の交易による砂糖の入手が困難であること。それ以外にも輸入されている香辛料や、お茶類なんかも影響を受けること。これから予定していた綿花、大豆、お米なんかも交易の筋道をつけられなくなることなんかを説明した。
第一報としては、トレモロさんの船団が襲われたこと。それも停泊している大型船に中型の船で荷運びをしている最中であったこと。更には、コウさんやカイさんのような優秀な航海士達が乗っていて、ラナちゃんのナイフなんかも持っている人たちがその場から離脱せざるを得なかった状況であったことも説明した。
「姉さん……」
「ヒカリさん……」
「ヒカリ様?」
と、フウマ、マリア様、モリスの3人から同時に声が挙がった。ステラとアリアも何か言いたそうな雰囲気。アリアとユッカちゃんは静かに話を聞いてる。
「ええと、フウマ、マリア様、モリス、同時に声が挙がりましたが……」と、一旦言葉を切る。
「姉さん、ごめん。マリア様とモリスさんを遮って申し訳ないけど、僕が説明してもいいかな?多分、他の人も同じことを考えたと思うんだ」
「あ、うん。他の人が良ければ、それで……」
マリア様とモリスが黙って頷く。ニーニャとステラもウンウンと、フウマに話を続けさせる素振りを見せる。
「皆の了解が得られたから話を続けるね。
姉さんの説明というか、コウさんとカイさんの報告が正しいとすると、状況が非常に不味いことになっていると思うんだ。
ストレイア帝国と南にあるサンマール王国は非常に良好な関係のはずなんだ。上皇后陛下も現皇后陛下も南の大陸のサンマール王国の出身なんだよ。そして、トレモロ・メディチ侯爵は主な交易相手を人族に絞って行っていることから、サンマール王国の港で海賊に襲われたと考えて良いと思う。
次に、襲われた場所なんだけど、いくら姉さんの大型船とはいえ、荷揚げの運搬の利便性から、陸地から完全に見えなくなるほど遠い所へ係留することは無いよ。だから、陸地から目撃されるだろうし、略奪後にどこかへ逃げて隠れようにも、目撃情報を元に周辺の島々や海岸を捜索される危険性が高いから、そんな人目につくような場所で海賊行為を働く訳が無いんだ。
最後に規模なんだけど、トレモロ卿の船団は数隻の船で全体で200人近い乗組員が居たと推測されるんだ。当然、一部は陸に上がって休息をとっているかもしれないけれど、荷揚げの最中を狙ったとするなら、乗組員との戦闘を想定範囲にしているだろうから、100人単位を相手にする覚悟が必要だったはずなんだ。それでコウさん達が緊急離脱しなくてはならない規模だったとすると、500人以上、20隻以上の船での侵攻があったと考えられるんだ。
ただ、襲われた場所が中継地の水や食料を補給するための諸島の小さな島だったり、入り組んだ海域で、小型船がゲリラ的に活動ができる場所だったら、今僕が述べた仮定は全部当てはまらないけどね。
コウさん達なら見間違うことは無いけど、月もほとんど出てないような、天候の悪い夜中に、松明を灯しただけの空船の船団を連結して、見かけの大軍を装って、わざと海域から離脱させたって可能性もあるけど、やはり、遭遇した場所の問題が残るんだ
たぶん、他の人達も同じようなことを考えたと思う」
と、フウマの丁寧な説明が終わると、皆がフムフムと頷く。アリアとユッカちゃんもみんなが気にしてたことを理解できて、ウンウンと首を大きく縦に振って同意を示す。
そうなんだよね~。
荷揚げしてるような港の傍なら、海兵隊のような人たちに見つかったら、折角の略奪物を闇市に流すことも出来ないだろうし。貴重な貴金属だったら、加工したり他国へ持っていって販売することもできるだろうけど……。
それにしたって、襲う側の規模が多きするよね。フウマの言う様に見間違えとかしてなければさ……。
私がフウマの説明に対して直ぐに答えずに、考え込んでいると、マリア様から発言があった。皆がフウマの説明を理解する間を取っていたのかもね。
「ヒカリさん、ここに居る夕食会のメンバーが、今回の海賊に襲われた事象が異常事態であるって認識で一致したのなら、次の段階へ進みたいのだけど良いかしら?
もし、まだ、『高価な交易をしてる大きな船を狙って、盗賊が傭兵雇って攻めてきたのかな~』とか、考えている人がいるなら、そこを否定しておきたいのだけど」
「あ、私は大丈夫です。そして、皆さんも同じ理解に到達できていると思います」
「そう、じゃ、話を続けるわね。
サンマール王国がヒカリさんの船と承知の上で、襲い掛かってきた可能性が高いわ。
そんな原因を作ったのが誰なのかは……。
まぁ、ここに居る全員のせいな気がしなくもないけれど……」
「わ、私は何もしてないですよ?そんな国には行ったこともないですし!」
と、マリア様の意見に真っ向から反対する。
だって、サンマール王国なんて名前は今日初めて知ったんだもん?ただ、まぁ、確かに上皇后であるシルビア様が南の大陸の出身とは聞いていたけど、そんなの全然関係ないじゃん?
って……。
みんなが、『ヒカリだろ』って、顔をして、じっとこちらを見てるよ。
え~~~?
いや、違うって。
それにマリア様の、「ここにいるみんな」って言ったって、流石にモリス、アリア、ユッカちゃんは関係ないでしょ。当然私もなんだけどさ?
「ヒカリさん、まだ気が付かないのかしら?」と、マリア様。
「いや、でも、私は南の大陸へ行ったこともありませんし、あの船が私の船だって知ってる人も居ないでしょう?私は関係無いと思います……」
「ヒカリさんは子育てで疲れている様ね。
ゆっくり、順を追って説明をするから、ゴードンさんにデザートでも頼んでゆっくりお話ししましょ」と、マリア様。
う~ん。
まあ、久しぶりにみんなでゆっくり話をするのはいいかな……。
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