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1-06.砂糖不足

「ヒカリ、ゴードンから苦情が出てるが、一体何をしたんだ?」


 と、リチャード。


 ゴードンはこの領地に元から居た優秀な料理長。料理長っていっても、最初のころは奴隷を含めて30人足らずの食事を作ってくれてる賄い担当の人だったんだけどね。私と交流を深めるうちに、居なくてはならない腕利きの料理長になったよ。


 それで、いきなり何よ?

 今日はみんなで勉強会と空気を液化させただけで、台所には入ってないし。 それとも、あのことかな?


「リチャード、私は特に何もしてないけど?

 ただ、確かにゴードンと離乳食の準備について打ち合わせはしてなかったから、それで待たせてて悪いと言えば悪いんだけど……」


「いや、そうじゃない。


 綿菓子というお菓子の話だ。

 ユッカ嬢とラナちゃんとシルフの3人がおしかけたせいで、台所がべとべとになってしまってるらしい。

 もし、問題がそれだけなら、ヒカリのお陰で布類も潤沢にあるから掃除をすれば済む話なのだがな?」


「はい。すみません」


「問題は、砂糖が大量に消費されたらしい。

 面白がって、大量に綿菓子をつくって、台所中をべとべとにして、出来た綿菓子を初等教育に参加してる子供たちに配ったり、ユッカちゃんの知る限りの人に配り歩いてしまったらしい」


「リチャード。

 綿菓子はとても細い砂糖の繊維なので、長時間持ち歩くと空気中の水分で融けて、しぼんじゃうよ。密閉せずに長距離を持って運ぶのはあまりお勧めできないんだけど……」


「だから、融けて小さくなっても大丈夫なぐらい大きな棒で、大きな綿菓子を作って、それを配り歩いていたらしい」


「そ、それは不味いね。いろいろ想定外だよ。

 クッキーとかは純粋な砂糖じゃなくて、小麦粉とかと混ぜるから体積の割に使ってる砂糖も少ないし、お腹も膨れるけど、綿菓子は砂糖100%だもんで、お腹も膨れないし、砂糖の消費が激しいんだよね」


「砂糖は貴重な物のはずだぞ?ヒカリと最初に会ったときのことを思い出すな」


「あ、ああ。うん。

 すっごい貴重な物をリチャードからプレゼントされたよね。あれのおかげでクッキーを作ったり、パンの酵母の発酵が良くなったりと大活躍だったんだよ」


「で、その砂糖をおもちゃの様に贅沢に使う訳だ?」


「あ、ああ……。

 む、昔よりは手に入りやすくなったよ?

 トレモロさんから樽で2個分ぐらい貰ったし。

 ただ、帝都の方では砂糖不足で価格が高騰してるっぽいね」


「ヒカリ。

 トレモロ・メディチ侯爵殿のことを呼び捨てにするのは、二人だけの場であれば良いとしよう。

 そして、どうやって二樽もの砂糖を入手したかも、この際聞かないでおこう。

 ただ、我々の結婚の儀でお土産にクッキーを大量に配布したため、その二樽あるはずの砂糖がほとんど残ってなかったそうだ。


 そして今日の事件な訳だが……。

 事態の深刻さが判ったか?」


「じゃ、多少高価でもメルマまで買い出しにいく?」


「メルマの方でも、既に砂糖が高騰していて、金貨では入手が困難らしい。金貨は消えて無くならないが、砂糖は簡単に消えてなくなるからな。


 結婚儀で配ったクッキーの評判が影響が非常に大きいらしい。

 レシピや販売権の入手は無理でも、クッキーそのものを入手したいという要望が各所から届いている。


 更には、クッキーを独力で作って売り出そうと、商人や宿屋、料理屋が挑戦し始めているらしいからな。多少高値でもクッキーを売れば元が取れると考えているようだ。


 ヒカリが、トレモロ殿に手紙をしたためれば、優先的に買い付けできるのか?」


「うん。たぶん。

 私の船を預けてるから、今までより1回で大量に交易できてるはずだよ。南の大陸なら片道で1ヶ月も掛からないって聞いてるし」


「往復で2ヶ月も待たされたら、完全に枯渇する。今すぐにでも荷を押さえたいぐらいなんだが?」


「そ、そんなに?」


「結婚の儀に参加できなかった人たちや、結婚の儀の各種お土産の噂を聞きつけて、製造や販売の利権を得ようと訪問者が後を絶たない。

 そして、必ずクッキーとガラスの器の話題がでる。

 ガラス容器は現物や工房を見せることで何とかなるが、クッキーは実際に食べて貰わないといけないからな」


「そんなに枯渇してて、緊急に必要なら飛竜に乗って頼んでこようか?」


「ヒカリは子育てが最優先だ。あんなかわいい子達を置いていく気か?」


 まぁ、実際にはトレモロさんの妻であるレイさんに念話を通せば、レイさんがトレモロさんに伝えてくれるから、手紙なんか出さずに、直ぐ済むんだけどさ。

 念話のことは、まだリチャードには秘密なんだよね。使いこなす訓練も必要だけど、それ以上にエスティア王国が軍事技術で目立つのは何かと不味いもんね。


「ああ、じゃぁ、手紙を書いて、早馬で届けてもらうよ。たまたまレイさんが飛竜でこっちに向かってくれれば、直接お願い出来て良いんだけどね」


「ヒカリ、レイ殿も侯爵夫人となられた方だ。人前では呼び方に気を付けた方が良いと思う。

 それよりだ。レイ殿も妊娠して、出産間近のはずだが、聞いてないのか?」


「聞いてないよ?ついでに手紙で聞いておく……」


「そうか。

 トレモロ殿宛の手紙にレイ殿の様子も確認するといいな。

 ひょっとして、レイ殿の妹のレミ殿も妊娠されているのを知らないのか?」

「え?結婚したのも知らないよ?」


「そうか。

 私は結婚の儀の建屋を作るためにレミ殿から多くの石材を提供戴いていたから会話する機会も多かった。

 どうも、獣人族の執事と結婚した様子だったぞ?レミ殿であれば、飛竜の念話を利用させてもらえるのではないかな?獣人族と飛竜族で仲良くやってるらしい。」


「そっか~。じゃぁ、後で聞いてみる。

それにしも、私たちだけじゃなくて、みんなが幸せだねぇ~」


「ヒカリは本当に幸せか?」

「え?なんで?」


「寝不足だと聞いてる。それになんだかんだで、子育て以外にも忙しくさせてる。 それに加えて、私も思った以上にヒカリを助けてあげれてない……」


「子供の夜泣きはしょうがないよ。リチャードも接待やら交渉事で色々大変そうだし。


 あ、そうだ。

 リチャードも毎朝体を動かしておいた方が良いよ。クロ先生に話をしておくから、一緒に稽古をしてもらうと良いよ。

 子供たちも小さくても良いから朝から起こして、昼間目が覚めているリズムを作らせると、夜中に起きて不安になったりしないんだって。

 

 だから、朝の稽古を子供たちを連れて見せておいてあげれば良いと思う」


「そうか。確かにな。

 体もなまっているし、子供らの生活リズムを整えることが大事なのであれば、そこは父親としても協力したい。明日からでも実行しよう」


「ありがとね。私もトレモロさんと連絡しておく」


「ああ、よろしくな。

 それと、もし船が必要なら、空気搬送システムで街道を切り拓いたときに出た大量の丸太がある。今ならまだ丸太も腐ってないはずだから、造船に用いられるならぜひ検討して貰いたい」


「船ならイワノフかな?私の船も元はイワノフさんが作ってくれたらしいし。ニーニャとイワノフに聞いておくよ」


「ヒカリ?」

「うん?」


「さっきから、『私の船』って言ってるよな?」

「あ……」


「『あ』じゃなくてだ。いつ造ったんだ?」

「落ちてたから拾ってきた。」


「ヒカリ、船は落ちてない。落ちてたら沈んでるだろう?」


「誰の領地でも無いところで難破してたんだよ?だから、私の領地マーカーで囲ってから、拾ってきた。イワノフさん達がメルマで造ったんだって」


「元の持ち主から苦情の訴えは無いのか?」

「メルマの商人組合でつくったらしいけど、メルマには寄港させて無いから、私が持って行ったってことは、ばれてないと思う。

 っていうか、難破して放置されてたんだから法律上は良いんでしょ?」


「ああ、法律上は構わないな。

 ただ、船員たちが見放すような難破した船を、最寄りの港であるはずのメルマを通さずに修理を終えて、トレモロ・メディチ卿の住むナポルまでどうやって運んだのかが不明だがな」

「気になる……?」


「いや、良い。今度で良い。子供たち一緒のときに、お母さんの英雄譚えいゆうたんを語ってくれれば、それで良い。

 それより、砂糖を何とかしてもらいたい」


「分かった。至急連絡とるね」


 綿菓子器が砂糖不足を引き起こすとは思ってもみなかったよ。

 今日は収穫が多い日だったのか、それとも損失が大きかったのか……

週一程度で更新予定。

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