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地味・ボンヤリの伯爵令嬢、俺様系王太子殿下と魔女討伐に抜擢される ~残念鈍感美少女が単にイロイロ巻き込まれるだけの話  作者: buchi


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第49話 真実の愛

すっかり黙りこくったエドワードに案内されて、アレク達一行は前回と全く同じ宿に入れられた。


すでに早馬が(つか)わされ、王城へは知らせが行っていた。


「しばらくこちらでお休みくださいとのご伝言でございます。エドワード様は、少しお眠りになるそうです。風呂と昼食の支度が整い次第、ご案内いたします」


アレクはうなずいたが、ローザに向かって言った。


「町の仕立て屋を呼んだから、後でアリス嬢に服を見立ててやってくれ」


「結構です。私は修道院に戻ります」


アリスは冷たい調子で断った。

アリスの服はさすがに二十年前のものらしく、時代遅れもさることながら、生地が黄ばみ、薄くなって糸が見えているような状態だった。


「にしても、数日はかかる。費用なら俺が払うから、とりあえず仕立ててもらえ。仕立て代もだが、修道院への入会金も新たに必要だろう。それも出そう。その間、裸で暮らすわけにもいかん。ローザ、手伝ってやれ」


アレクは部屋を出ていってしまった。


「アリス様、とりあえず言う通りにしておきましょう。準備の時間は必要だと思いますし、少しは服もいるでしょう」


アリスは黙っていた。


否応なく、元の世界に、それも時を(へだ)てて帰ってきてしまった。

彼女が言っていたとおりなら、本当に誰もいないのだ。家族もいない。愛する人も愛してくれる人も。


それでも、なんとか生きていかなくてはならない。


「あなたは白の魔女なのね」


アリスが言った。

ローザはうなずいた。


「どこに力があるのか、わかりませんが」


ローザは正直に答えた。


「白の魔法は、目に見えるものではないから、認識されにくいのよ」


「でも、私には見えましたわ。あのきらびやかなお城。あれほど美しいものは見たことがありませんでした」


「あなたのアレクは、おそろしい魔法使いね。その完璧な白の魔法に完全なまでに影響を受けなかった。すごいわ」


ローザは、自分が()められたように照れた。


「すごい鈍感力ですよね?」


「ええ。あなたもだけどね」


「え?」


一度も笑わなかったアリスがクスっと笑った。


「あなたの魔力も膨大よ。きっとあなたは今幸せなのね。なんの悪のエネルギーも感じないわ。白の魔法は、持ち主が不幸になると暴走を始めるの。今を大事にしないとね」


ローザは首をかしげたが、


「仕立て屋が参りました」


外から声がした。


うやうやしい様子で仕立て屋の女達がぞろぞろローザたちの部屋に入ってきた。


ちょっと驚きだ、とローザは考えた。仕立て屋達は、誰に言いつけられたのか、最上等の服地に最高のデザインのものを勧めてきたからだ。


どうも仕立て屋側の儲けたい意向ではないらしい。上質のものにせよと命じられている様子だった。


「もっとハッキリした色の方がお似合いでは?」とか「アリス様は、どちらがお好きですか?」と言った質問をして、アリスの意向を引き出すのがローザの役目らしかった。アリスはどうでも良さそうにしていたからだ。


「これだけは、明日朝にお届けします」


そんなに急ぐ必要はないでしょう? とアリスとローザは、言いかけたが、仕立て屋は忙しそうで彼女たちの意向を聞く気はないらしかった。


まあ、確かにアリスの格好はみすぼらしく着替えもなかった。服は必需品だが、頼る人がいないそうなので、お金もないことだろう。当面はどうやらアレク殿下が払うらしいが、その理由がまたわからない。


エドワードとアレクは、あんなに派手に殴り合いをしたくせに、ローザとアリスの前では一致して黙りこくっていた。何かあるらしい。


大勢の騎士たちは安堵あんどしたようで、交代で休んでいるようだった。大規模な捜索が繰り広げられていたことは、何も説明はされなかったが、ローザにも雰囲気でわかった。


エドワードの顔のすさまじさは、ちょっと寝ただけで回復するようなものではなかったからだ。



門の中にあれほど入ってはならないと厳命されていたのに、とことこ中に入ってしまったのは自分としても信じられない思いだったが、どうしても行かなければならないような、そして中に入っても大したことはならないと言う確信めいたものがあったのだ。


でも、うまく説明できない。そして、本来ならその点についてネチネチ追及して、しつこく説教するはずのエドワードが、アレクと一緒に黙りこくっていた。何か、ほかのことに気を取られているようだった。



夕食の席でも、彼らは黙って居た。


「アリス、明日からは仕立てたドレスが着れるな」


アレクがアリスに話しかけたのはドレスの件だけだった。


「昼食の時には、見せてくださいませ」


エドワードも言葉を添えた。


男のくせに、どうしてそんなにドレスに興味があるんだろう? ローザとアリスは顔を見合わせた。



*************



翌日、町一番の、しかし、王太子が滞在するには地味な宿が震撼した。


すばらしく大きくて豪華な馬車が地響きを立てるようにやって来て、まん前に停ったのだ。


「ローザ、見ていよう」


いつのまにか、アレクがローザの後ろに来ていた。ローザは自分たちの部屋の窓から、立派な馬車を見物していたのだ。


アリスはエドワードにいざなわれて、新しいドレスに身を包み、階下で客が来るからと言われて立って待っていた。


朝食の時、急に人が来るので着替えて玄関で待っていて欲しいとアリスは頼まれたのだ。


「どなたも知り合いはいないと思いますが」


カトラリーを手にしたまま、アリスはちょっと不審げだった。


エドワードがいつもの無表情で、確認のために会って欲しいだけですと言い、いつもは表情が豊かなはずのアレクも全く関心がないと言った顔をしていた。


出来上がったドレスは、上品で美しく高価な物だった。これ一枚しかないと聞かされたアリスは、黙って女たちに着せ付けてもらい、髪を結われて玄関の間に不安そうに立っていた。



そして、朝食の席では全く無関心を装っていたアレクは、今は、興奮しているようだった。


「ねえ、どういうことなの? 一体、誰が来ると言うの? 教えてよ、アレク様」


「いいから。見ていよう。これは見るだけの価値がある」


アレクはローザの背中を包み込むように立って、同じ窓から、馬車の扉が開き中から人が出てくるのを待ち構えた。


「きたな」


アレクが興奮気味にローザの耳元で言った。


「見てろよ」


中から出て来たのは、一人の立派な貴族の服を着た男だった。


「すっかり気合の入った服に着替えてるな! 次は階段だ! 急ごう!」


ローザの手をつかみ、アレクは部屋を出て廊下を走り、階下を見渡せる階段まで急いだ。


「アリス!」


大声が叫んだ。


「アリス!!」


玄関の間に入るなり、もう一度声が響いた。声の主が走って行って、アリスを抱きしめた。


レオ殿下だった。


アリス嬢は、何も聞かされないまま玄関で待機させられていたらしい。


「アリス……」


レオ殿下は無理やりアリスを抱きしめた。


「レオ……」


アリス嬢がゆっくり殿下の背中に細い手を回すのが見えた。




しばらくして、エドワードが出てきて二人を別室に案内していた。




「アリスの婚約者はレオ殿下だったんだ」


アレクが言った。


「え……」


「すごいな。叔父上は。真実の愛だ。叔父はアリスを待っていた。何年、待ったんだ」


「レオ殿下がずっと独身だったのは、それが理由?」


「そうだ。フィロッツイ侯爵令嬢、義妹のエメリンの方との結婚は徹底して断った。他の縁談も受け付けなかった。アリス嬢を愛していたのだ。いつか取り戻そうと必死だった。アリスのフルネームを聞いた途端に思い出した」


アレクが鼻をぐずつかせた。


「なんか、感動した。エドワードは、俺たちの無事を伝えるための早馬のすぐ後に、叔父にアリス嬢の無事を知らせるために馬を走らせた」


「それで、ドレスを急がせたの?」


アレクはうなずいた。


「再会を最高の舞台にしたかったんだ。あの服で辛い話を叔父上に思い出させたくなかった。あのボロ服は修道院の作業服だ。どんな思いで修道院にいたのだろう。そのあとも」


ローザは大きな目を見張った。アレクが続けた。


「アリスは一人じゃなかった。ずっと愛して待ち続けていた婚約者がいたんだ」

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