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地味・ボンヤリの伯爵令嬢、俺様系王太子殿下と魔女討伐に抜擢される ~残念鈍感美少女が単にイロイロ巻き込まれるだけの話  作者: buchi


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第47話 地図と魔法の城

「「地図?」」


アレクとローザが声を揃えた。


おとなしそうなアリスと名乗るその女はうなずいた。


「きっと信じられないと思いますが、その地図は、このお城への地図だったのです。

『ようこそ!』とまで書いてありました」


アレクとローザは顔を見合わせた。


「それで?」


「不思議に思った私は、修道院の告解師さまにお尋ねしました。でも、告解師さまには、白紙にしか見えないとおっしゃるのです」


ローザとアレクは息を呑んだ。


「でも、私はその地図を信じました。全てを忘れられるところ、そんなところがあるなら行きたいと。そして、ある日、苦行のために畑へ出された時、物陰に隠れて逃げ出しました」


「修道院からって逃げられるの?」


アリスは首を振った。


「厳しい修道女が見張りについていますから、そんなことは絶対できないはずです。でも、頭の中で声がしました。


『地図の柱まで走りなさい』


私には魔力があったのです。誰にも見えない白い柱が()えました。私の言うことは信じられない、やっぱり、狂女だとお思いでしょうが」


「いいえ! 全然、信じられるわ!」


ローザがアリスの手を握った。


「続きを聞かせて!」


アリスは驚いたようだった。まさか信じてくれる人がいるとは思わなかったらしい。


「追っ手の修道女たちは柱の奥へは来ませんでした。そのあとは地図の教えのとおり、あなた方が壊したあの城に着きました。モルダナ様が迎えにきてくださいました」


「モルダナ? どの女だ? 俺が先にやっつけた方が? あとの年寄りの女か?」


アリスは首を振った。


「やっつけられたことは存じませんでした。それは、死んだと言う意味ですか?」


「死んだ……のかどうかわからない。そもそも、生きていたのだろうか? 一人は死体が残らなかった。もう一人は白骨になった」


アリスはアレクの目を見つめた。彼女はしばらく考えてから言った。


「モルダナ様は三百年前からここの城主様でした。あの城を作り上げた方です。そしてソフィアナ様は、百年前に来られました。お二人とも膨大な魔力の持ち主でした」


「そんなにすごい魔力なら、なんで缶詰なんかで……」


「いいえ。白の魔法です。人の心に作用します。すばらしい城や装飾は、全部心の中にあるだけです。大抵の人は惑わされ、魔女に逆らおうとなどとは、思わなくなります。私だって、最初は本物だと信じていました」


「途中から偽だと気が付いたのか?」


大人しそうな女は首を振った。


「いいえ。モルダナ様が教えてくださいました。全部、魔法なのだと。そして、私にも手伝って欲しいと。もっと、住みやすく、居心地よくするために」


「それで手伝ったのか?」


アレクは、まるでアリスを(とが)めるような顔でアリスを見ながら言った。


「もちろんですわ。私はあの城に住んでいたのです。義務を果たすのは当然でした。その代わり、私は痛い思いをしないで済んだのです。あそこにいた人々は、あの魔法に救われていました。強い影響下にいました。あなたが惑わされなかったのは、本当に不思議」


叔父の言った通りだった。不本意ながらアレクは叔父を少しだけ尊敬した。


「お二人は膨大な魔力の持ち主でしたが、二人の魔力だけであの城が持ちこたえていたわけではありません。魔力が少なくても、人数が多ければ魔力量としては同じだけの力になる。異世界からも大勢の人を集めていました。でも、あなたが……」


アリスはアレクを眺めた。それはまるで、自分の手に負えない何かを見るかのような目つきだった。


「あなたが全て破壊してしまった……」


「なんだよ、悪いのかよ、それ」


もしもし? 王太子殿下の品はどこへ行った。ローザは密かにアレクの袖を引いた。


「俺は俺の世界を守るんだ。あいつらはあいつらの流儀でやってってた。俺は俺の道を行く」


アリスは途方に暮れたような顔をしていたが、仕方がないと言った様子を示した。


「本来なら、あなたには見えない世界のはずなのです。永遠に交差しないはずでした。私はあの城で暮らしている間、婚約者を忘れ、父を忘れ、義母と義妹を忘れることが出来た。悲しみも苦しみも何も感じなくてよかった」


「それ、本当の幸せなのか?」


「アレク、人の話に口をはさまないで!」


ローザが言った。


「アリス様、なんだか私、あなたの気持ちがよくわかる気がする。私なんか、悩むほどのことは何もなかったけど……」


「お前に悩みなんか何もないだろ。それに、不幸自慢なんか、本当に意味ないからな、言っとくけど」


「さあ、アレはほっといて、話の続きをお願いします」


アレ呼ばわりされて、アレクはムッとしたようだったが、とりあえず黙った。


「でも、当時、私はどうしたらいいかわかりませんでした。私は婚約者に愛されていると信じていたのです。父にも。義妹のこともあんな真似をする人だとは夢にも思っていなかった。私は誰も信じられなくなりました。だから、修道院を抜けて、ここで暮らしました。

ここには、異世界から来た人も大勢います。私の場合は祈祷書でしたが、それぞれの世界に門は有ります。門のありかはいろいろな方法で広報されていました。最近は、広報方法が様々になって来て、モルダナ様があなろぐ人間には大変だとよくおっしゃっておられました」


「それは、何のことでしょうか」


「私も実はわかりませんが、宗教施設は食いつきがいいらしいです。世界によってはチラシの裏書きや壁新聞も効果的だとか」


アレクは、あることに気づいて、青くなった。


「ちょっと待ってくれ。すると、この城には大勢の人が住んでいたことになる」


アリスはコクンと素直に(うなず)いた。


「すると、その人たちはどうなったのだろう。もしかすると、城が崩れたその衝撃に巻き込まれて……」


アリスは肯定した。


「はい。巻き込まれたと思います」


アレクはいよいよ青くなった。魔女はとにかく、関係ない人を殺してしまったのかも知れない。


「では、では、生き残ったのはあんた一人で、他はみんな死んでしまったのか? 俺が殺したのか? 小さなガソリン一缶で?」


「いえ、それはないと思います」


「だが、あのご大層な魔女たちは死んでしまった」


「違うと思います。元の姿に戻っただけでしょう」


「元の姿? 元々バケモノだったのか?」


「いえ。経年劣化だと思います」


ローザが経年劣化とは何だと聞きに来るのがわかっていたので、アレクはうるさいと言わんばかりに、ローザを追い払うように手を振ってさらに聞いた。


「三百年前に生きていた人と、百年前に生きていた人の、今の本当の姿になったと言うことか」


「そうでしょう。魔法で形だけ保っていたのかもしれません。あなたに攻撃されて依代よりしろが破壊されたのかもしれません」


三百年前の人間が何も残らないのは、そうかもしれない。百年前の人間は骨だけになっていた。当たり前だろう。


「じゃあ、お前は?」


「多分、そんなに時間がたっていないのでしょう……」


アリスは淋しそうに言った。


「他の人間どもは、みんな年寄りばかりだったんだな?」


「それも違うと思います。みんな元の世界に帰ったのでしょう。きっと、あなた方と同じ世界の住人で、まだ寿命が残っていたのが、私だけだったのでしょう」



その時、遠くでばさり……と妙な音がして、城が倒れた。


途端に、遥か向こうでも微かなドーンという音が響いた。



「なんだ?!」


アレクが半分腰を浮かせた。


「きっと、柱ですわ」


アリスが悲しそうに言った。


「城と柱の2点を結ぶ一帯が幻の世界でした。結界が壊れたのでしょう。私たちは元の世界に戻されたのです」

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