第27話 家からの手紙
その日、寮に帰って、ローザは家からの手紙を見て震えていた。
ケネスの婚約者を妹のヴァイオレットに差し替えると言う知らせだった。
『ヴァイオレットが、ぜひにと頼むのです。レミントン家としては、姉妹のどちらでも構わないと言うことなので、本人たちの意を汲むことにしました。元々、正式な婚約ではなかったのですが、これをもって正式な婚約として発表しようと決められました。あなたには、別な縁を探そうと考えています』
呆れたような、当たり前なような、ローザは思わず空を仰ぎ見た。
子どもの頃から、婚約者として育てられてきた。
それが、ここ一年くらいの間に、そう、ヴァイオレットが大人になっていくにつれて、事情が変わった。
そして、自分は見捨てられたのだ。
魔道具の装身具はよく効いた。
最近のローザは、あわてたり、物忘れをしたりしない。
静かに物事を考え、判断できる。
「それでは、私は、別の方を探さなくてはいけないのか」
手紙には追伸が付いていた。
「なお、学園の親善パーティーは、外部参加も出来ます。婚約者のいる場合は参加が認められるので、ヴァイオレットもパーティーに参加する予定です」
親善パーティーのことは、すっかり忘れていた。
どうしよう。
ローザは欠席すると返事を出してしまっている。
まるで、妹に婚約者を取られ(それも、結構大物の、条件の良い婚約者だった)、それを見るのが嫌で欠席しているようだ。
そういえば、アレク様は親善パーティーをエスコートしようと言っていた。あれは本気なのかしら。
王太子殿下にエスコートされても、いいことなんか何もない。
何の取り柄もない、たかが伯爵家の娘と王太子が結婚するなど考えられない。
特に、婚約者がいなくなったことが確定した今、殿下なんかにエスコートされたら、それこそ誰とも縁がなくなってしまう。どこの男性にも遠慮されてしまうだろう。
「私を結婚させたくないのかしら?」
アレクに対して猛烈に腹が立った。
エドワードに頼んで、エスコートは遠慮してもらおう。事情は変わったのだ。
「私も頑張って相手を見つけなくてはいけなくなったのですもの」
「これで、心置きなくエスコート出来るな」
アレクは嬉しそうに、ローザの婚約破棄を伝える報告書を読んでいた。
カチリと茶器の触れる軽い音がして、エドワードがアレクにお茶を出した。
「私はひどいマネをと、思いますが?」
エドワードは苦々しげな顔をしていた。
「なぜだ。ケネスも妹の方を憎からず思っていたのだろう? なにせウォルバート家へ行くたび、ローザとではなくヴァイオレット嬢の相手をしていたらしいから」
「学園での様子を聞く限りでは、そんなことはなさそうでしたよ? 家族がどう感じたかはわかりませんが、王家からローザ嬢との婚姻よりヴァイオレット嬢との婚儀を勧めるだなんて……」
「私のせいじゃない」
「何、トボケてんですか」
エドワードがアレクをにらんだ。
「どうせ、裏で手を回したんでしょう?」
「何もしてない。今回のこれは、叔父上の仕業だ」
エドワードは心底驚いてアレクを見た。
「ケネスが邪魔だったんだろう」
「どうしてでしょう?」
王弟殿下ともあろう身が、一介の伯爵家の縁談などに興味を持つはずがなかった。
いかにレオ殿下が、王族としてはいささか変わり者だと囁かれていたとしてもだ。
王族は、おおむね皆結婚していたし、才能のある者は王家を補佐していた。
軍に所属したり、外交に携わったり、何もせずゆっくり領地でスローライフを楽しむ者もいた。だが、王弟殿下は、最も王家に近い成年の王族だったのに、魔法の研究に熱中していた。
「なんだかわからない。何かあるんだろう」
とは言うものの、アレクはちょっと悪そうにニヤッとせずにはいられなかった。
「俺的にはこっちの方がいいしな」
「気の毒に」
エドワードは、わざと大きなため息をついてみせた。
「なにが?」
「ローザ嬢ですよ。あなたがエスコートしようものなら、他の貴族の令息たちが声をかけられないではありませんか。ご縁が遠くなります。気の毒に」
「ほお?」
アレクは、それしか答えなかったが、口元がゆるんでいるのをエドワードは見逃さなかった。
この王子、ダメである。バレバレだ。
他の令息が手を出さないのは大いに結構じゃないか。
伯爵令嬢くらいなら正妃に迎え入れられる。
アレクはほんのり嬉しかった。
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