来々々世
「おいおいおいおい、以前にもまして殺人的な顔色してるね」
返事をするのが煩わしくて、僕は目だけを動かして大賢者を見る。
「ついに君との付き合いも百年近くになったのか。長いもんだね」
うれしくないな、と思う。
「で、また現れたんだろ」
顎を引いて肯定を示す。
僕は邪神を殺さなければならない。
「君のそのぶっ壊れっぷりはあれかな。王政が崩壊して国中がぐっちゃぐちゃなことにも起因してるのかな。王族が税金を使って私腹を肥やしまくってたことがわかって、民衆がクーデター。暴動。鎮圧に軍が動く。血の粛清。新王が立ったけれどもこれがまたろくな王じゃなかったね。身内の暴走を止めれなかっただけの前王の方が全然ましだった。それで、口車に乗せられて外国勢力の参戦を許して、共和制への移行って名目でほとんど乗っ取られてる。そしてまた内乱。
——けどあえていうけどさ、人間なんてのはこんなもんだぜ」
そうなのだろうか。
そうかもしれない。
「君は強くなった」
大賢者が僕の髪をなでた。
「百年近い戦いは君を強くした。いまや君の力は私を遥かに凌ぐ」
そんなことはない。
むしろ僕は弱くなった。僕はこわい。ミコトに恨まれるのがこわい。死にたくないというミコトの悲鳴を聞くのがこわい。もうミコトを殺したくない。
殺さなければ何億という人々が邪神の犠牲になるというのに。
僕はミコトを殺した。
アンを殺した。
マリナを殺した。
次に僕は誰を殺すんだろう。誰が僕に死にたくないと願うんだろう。
「ねえ、私も一緒にいってもいいかい?」
大賢者が言う。僕は顎を引いた。一人で行っても殺せないと思った。
邪神は修道院にいた。
雑用をこなす娘の中の一人だった。
大賢者が人払いをしてくれる。
僕は震える声で彼女に名前を訊ねた。
「ミコトです」
彼女は言った。
ああ、ミコト。僕の愛しいミコト。声も姿も彼女の生き写しだ。なにもかも彼女そのものだ。僕はうなだれた。がっくりと膝をついた。わかってしまった。僕にこの娘は殺せない。もう殺せない。世界なんか知ったことか。ミコトを犠牲にしないと生き延びることができない世界なんて滅びてしまえばいいんだ。
ふぁっきゅー、せかい。
僕は中指を立てた。




