来世
僕は未だ残る邪神の軍勢を殺し続けた。
何も考えたくなかったらただ戦い続けた。邪神を倒した英雄の僕に言い寄ってくる女はたくさんいたし、恋人を殺さざるを得なかった僕を誰もが慰めようとしてくれた。でも僕は慰められたくなんてなかった。深い虚のようなこの悲しみをずっと持っておきたかった。気まぐれに女と寝ることはあっても、心を預けることはなかった。
僕の心の半分はミコトが持っている。
そうして三十年の月日が流れた。僕は邪神の鼓動を感じる。邪神が復活しようとしている。
「一緒に行ってやろうか?」
大賢者が言う。
「いいよ、一人でいく」
「そっか」
さほど興味はなかったらしい。あっさりと引き下がる。
「お前は歳を取らないんだな」
僕はなにげなく尋ねた。
大賢者は少年にも少女にも見える不思議な容姿をしている。
「ずっと前に封印を喰らってね、魂を失って以来、この肉体は時間が止まっているんだ」
大賢者は肩を竦めた。嘘かほんとかわからないことを言う。
僕は一人で邪神の元へ向かった。
さびれた山奥の村に彼女はいた。
「ミコト」
僕は思わず溢した。そこにいた少女はミコトにそっくりだった。瓜二つだった。並べてみても違いはわからなかっただろう。
「だぁれ?」
倦怠感に満ちた目と棘のある口調だけが、ミコトと違っていた。
僕は彼女に邪神の話をした。復活する前に殺さなければならないことを話した。「ふぅん」と彼女は言った。
「驚かないのか」
彼女は首を振った。聞けば以前にこんなことがあったんだという。
村長の孫が彼女を強引に押し倒した。合意を得ずにことに及ぼうとした。彼女は強い恐怖を感じた。心の底から目の前の男を憎んだ。すると彼女の影から無数の黒い手と凄まじい魔力があふれ出て男をぐずぐずに引き裂いてしまった。
それ以来彼女は村で鼻つまみものとなった。言いふらしたわけでもないのに、どこからか漏れ出してみながその話を知っていた。みなが彼女を恐れ、疎外し、隔離した。
「そんな事情だったのね、よりによって邪神だなんて」
彼女はさみしそうに言う。
「いいわ、殺しなさいよ」
彼女は言う。僕はまた震える手で剣を握る。
「その代わり、あなたを恨んでやるわ。想いだけであんたを殺せるくらいに恨んでやる」
彼女は口端を吊り上げようとしたけれど、震えていたからうまくできなくて泣き笑いするようなおかしな顔になる。
最後に僕は彼女の名前を尋ねた。彼女は「アン」と名乗った。
僕はアンを殺した。




