決闘
決闘の日がやってきた。
場所は王宮の中庭。バルコニーからも見える広場にて、馬上の人となった二人が向かい合っている。
「……」
無言で視線を交わす二人に遊びはない。
私に何度も愛をささやいてきたディートフリート様さえ、まだ始まってもいない決闘の決着が今この瞬間にも決まるかのように、ライアルを油断なく見据え続けている。
「あらあら。あの子ったらなんだかんだ言って根は武人なのね。こんなに可愛らしいお姫様が居るのに見向きもしないなんて」
「アハハ……」
女王陛下――クリスティアネ様の言葉に、私は渇いた笑いで返すことしかできなかった。
この決闘の原因であり、ある意味景品とも言える私は特別にクリスティアネ様と一緒にバルコニーから決闘を観戦している。
景品らしく、華やかに装飾されて綺麗に飾られた状態で。
何故髪にべたつくほど油を塗られなければならないのだろうか。
何故コルセットとやらを内臓が出そうなほど締め付けねばならないのだろうか。
ドレスというのは何故これほど無駄に丈が広がっていて座りづらいのだろうか。
世の少女たちはお姫様に憧れるらしいが気が知れない。
こんな窮屈な思いをするくらいなら私は田舎娘でいいです。
「大丈夫よシルヴィア。人は慣れる生き物だから」
「慣れる予定はありません」
本当に、これっきりにしてほしい。
「始まるわよ」
「……」
クリスティアネ様の言葉に視線を向ければ、今まさに審判役が始まりの合図を下すところだった。
「――始めい!」
「行くぞライアル!」
「……」
同時にディートフリート様がライアルの名を呼びながら馬を駆け、ライアルもまた無言で馬を進める。
狭まる二人の距離。それに反比例するように二人がそれぞれ手にした槍を振りかぶり――。
「ハアッ!」
「ゼアっ!」
同時に振りぬかれた槍は火薬でも爆ぜたみたいな轟音を響かせ、その衝撃で両者の馬がたたらを踏んだ。
「まだだ!」
「フッ!」
そして馬が態勢を立て直すや否や、ディートフリート様がすぐさま槍を突き出し、ライアルがそれを予期していたようにいなす。
突き、払い、叩きつける。
次々と繰り出される二人の攻撃は嵐の中の豪雨のような密度で相手に降り注ぎ、しかし二人はその雨に身を濡らすことなく回避し、防ぎ、打ち返す。
まるで相手に呼吸を合わせた演舞のように、二人の攻防は均衡を保っていた。
「これは珍しい展開になったわね」
「珍しい?」
クリスティアネ様の言葉の意味が分からなくて思わず聞き返す。
「普通騎乗の一騎打ちというのは、お互いに馬を駆けてすれ違いざまに打ち合うものなの。でも二人の力が強すぎたのね。どちらの馬も踏みとどまるのが精いっぱいで動くことができないみたい」
「……それはまた」
馬も大迷惑というか、もう馬いらないのではないだろうか。
私がそう言うと、クリスティアネ様は面白そうに笑う。
「決闘というのは落馬しても負けなのよ。つまり馬のダメージもうまく軽減しないとが倒れて負けるわね」
「なるほど」
「まあ、普通馬の心配をするような状況になるわけがないのだけれど」
「……なるほど」
要するに、二人とも普通ではないのだ。
今の攻防だって、騎士たちにはともかくご婦人方にはとても目に追えるものではないだろう。
「……くくっ」
「ん?」
不意にディートフリート様が笑みを浮かべたと思ったら、それまでの縦横無尽に駆け巡る槍の軌道が姿を変え、打ち下ろしが主体となる。
「どうやら馬のダメージを蓄積させるつもりみたいね」
「うわあ……」
上からの打ち下ろし。まともに受ければ当然足元の馬へ衝撃がダイレクトに伝わる。
その分攻撃が限定され対処しやすそうにも思えるけれど、二人の実力は伯仲しているので、本人より馬狙いの方が早く勝負がつくと判断したのだろう。
「あっ」
そしてその目論見は成功したらしく、ライアルの馬が前足を折り態勢を崩す。
「もらった!」
当然そのすきを見逃すはずもなく、それまでの振り下ろしから一転ライアル自身を狙って突きを放つディートフリート様。
馬の上で態勢を立て直そうとしているライアルは避けることもできずそれを受け――。
「……待ってましたよ」
踊るように身をひねらせると、左手で掴んで思い切り引いていた。
「何ィッ!?」
同時にディートフリート様の馬も前のめりに態勢を崩し、ライアルに槍を引かれたディートフリート様はあっけないほどあっさりと馬から足を離して宙を舞っていた。
「自分の馬も限界が近いのに油断するから。何ともしまらない落着ね」
「……」
馬から投げ出されたディートフリート様は超人的な反射神経で受け身を取って着地したけれど落馬は落馬。
そのまま膝をつくと、くやしそうに地面を握り拳で叩く。
クリスティアネ様の言うとおり、何ともしまらない決着だった。




