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五十年前の私とライアンさん

 ライアルが大怪我をした。

 それを知らせてくれたのがライアンさんならば、慌てて村へと戻ろうとしたのを止めたのもライアンさんだった。


「まあ落ち着きなさい」


 ただ慌てて村に帰ろうとした私を、猫の子みたいにつり下げて止めるのはやめてほしい。

 何だか聞き分けのない悪ガキにでもなった気分だ。


「落ち着いて紅茶でも飲みましょう。マーサ……は今は買い出し中ですな。どれ、私が淹れましょうか」


 そう言ってテキパキと茶の準備をするこの老人が伯爵様だと聞いて誰が信じるだろうか。

 まあ爵位は既にライアルに譲っているらしいけれど。


「心配するほどの怪我ではないということですか?」

「腹に風穴があいた程度ですな」


 大したことがないような調子で言ってるけど重傷だ。

 少なくとも目の前で人のお腹に穴があいたら私ならパニックになる。


「何。相手が相手ですからな。私も昔は苦労しました」

「ライアンさんも?」


 というかそんな魔力を食べるような化け物が以前にも出たのだろうか。

 そんな私の疑問に、ライアンさんは紅茶で唇を濡らすと懐かしむように話し出す。


「魔力食いは定期的に王国内に発生するものでしてな。神父が言うには魔力の塊が生物のふりをしているようなものらしく。どちらかというと現象と言ったほうが正しいそうです」

「魔力の塊……」


 なるほど。そんな怪物が居るのかと疑問に思っていたけれど、どうやら生物ですらなかったらしい。

 しかし何故そんな現象が定期的に起きるのだろう。


「それは神父にも分からないそうです。ただ五十年前。私がまだ半人前だった時分にも現れました。その対処を任され神父へと相談に行ったときにシルヴィア様とお会いしたのです。その頃のシルヴィア様はまだ見た目は十二、三歳といったところでしたな」

「え……?」


 五十年前。どうやら本当に私はライアンさんと面識があったらしい。

 しかし五十年と言えばエルフな私にとってもそれなりに長い時間だ。さすがに神父様に会いに来た人間全てを覚えているわけではない。

 それでもこんな入口のたびに頭ぶつけそうなほど大きい人は忘れないと思うのだけれど。


「というかライアンさん魔術は使えないですよね。それなのに魔力の塊の対処を?」


 ヴィルマがシュティルフリート家の人たちは魔術に詳しいと言っていたし、その辺りを見込まれたのだろうか。

 しかしライアンさんはそんな私の予想を裏切るように首を横に振る。


「それが彼奴には魔術では対抗できぬのだそうです。一時的にダメージは与えられるものの、魔術によって周囲に散った魔力を吸収して決定打にはならぬのだと」

「じゃあどうしようもないじゃないですか」


 相手が魔力の塊なら実体のない幽霊みたいなものだ。

 剣で斬ったって何ともないだろう。


「要は魔力で攻撃をしながらも周囲に魔力を散らさねばいいのです。そしてその手段こそが魔剣や聖剣といった魔力を物質に留め置いた武器となります」

「魔剣ですか?」


 ならディートフリート様でもよかったのではないかと思ったけれど、実はあの魔剣それほど強力なものではないのだろうか

 私やライアルの結界を切れるくらいなら、それなりの業物だと思うのだけれど。


「魔剣でも構わぬのですが、奴は様々なものを取り込むうちに黒い泥のようなものへと変質しております。故に最も有効なのは邪を祓う聖剣。そしてこの王国内には凪の時代より三本の聖剣が継承されております」

「三本も?」

「はい。三つとも本来の所有者は王家ですが、内二本は相応しい担い手へと預けられています。それこそが我がシュティルフリート家。そして神父となります」


 神父様がなんか伝説の剣っぽいものを持ってた。

 ちょっと待って。それ私初耳なんですけど。


「神父が剣を使う所などここ数百年は見た者も居ないでしょうからな。知っているのは歴史家以外は女王陛下と私くらいではないでしょうか」

「えー。じゃあ五十年前はライアンさんと神父様が魔力食いを倒したんですか?」

「いえ。神父に相談したところ『あれくらいあなた一人で何とかなるでしょう面倒くさい』と言われ、私一人で何とかしました」


 神父様。何て無責任なの神父様。


「恐らく本当に面倒くさかったのでしょう。何せ生物ではありませんから、斬っても斬っても与えるダメージは極わずか。かといって休む時間を与えればどこぞから魔力を持ってきて回復してしまうので、三日三晩聖剣を振り続けようやく倒せました」


 それは確かに面倒くさい。

 というか倒すのにえらい時間かかってるとは思ったけど、もしかして相手を探してるんじゃなくて、今までずっと戦ってたのだろうかライアル。


「恐らく私の時より長引くでしょうな。ライアルは無意識レベルで魔術を使えるほどのレベルですから、恐らく咄嗟に防御魔術でも使ってしまえばそれを吸われて回復してしまうでしょう」

「それディートフリート様に行かせた方がよかったんじゃ……」


 マスタークラスの魔術師でもあることが完全に裏目に出てる。

 そりゃ魔術要塞と化してる神父様は戦いたくないだろう。神父様にとって結界や障壁の類は息すれば勝手に出てくるレベルだし。

 負けることはないだろうけど本当に千日手になりかねない。


「まあライアルも治癒魔術は使えますからな。長引いても負けることはまあないでしょう。むしろ魔力が尽きてからが本番やもしれません」


 何その消耗戦。

 というかライアル治癒魔術使えたっけ。

 じゃあお腹空いても大丈夫か。痛いだろうけど。


 そうやって楽観的に考えていたのだけれど、結局ライアルが魔力食いを倒したという報告が来たのはそれからさらに三日後のことだった。


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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました
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