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私は拒絶した

 私は一度だけ恋をしたことがある。

 きっかけは百年ほど前。村に引っ越してきた一人の少年。

 長い間傭兵として各地を転戦してきたという少年の一族は、少年の父の代になりようやく普通の生活というものをする気になったらしく、神父様を頼り村を訪れた。


 少年は色々なことを知っていた。

 異国の文化。生活。海の臭い。戦い。死。そして生への感謝。


 幼くして様々な経験をした少年は、少年とは逆に長く生きていながら単調な生活しか知らない私にはまぶしく映った。

 何より少年はそれを自慢げに話すようなタイプではなく、必ず私が外に憧れを抱きすぎないように戒めた。

 私が自分を年齢のわりに子供だと思ってしまうのは、彼という歳に似合わない大人びた少年を知っているからだろう。


 そして私は少年に恋をした。

 当時私はようやく見た目は十歳くらいになろうかというほどだったので、自分で言うのもなんだけれど色気づいていたのかもしれない。

 見た目ではなく実年齢が十歳くらいの少年も、私の好意を受け入れてくれて私たちは何とも微笑ましい恋人となった。


 けれどそれを見て微笑んでいた神父様は分かっていたのだろう。


 私が恋に絶望することも。

 そして孤独になることも。



「納得いかん」

「はい?」


 三日ほどたち監禁されるのにも慣れてきたころ。

 いつものように結界を叩き切って入ってきたディートフリート様が、それを無視して本を読んでいた私に向かってそう言った。


 ちなみに最初はソファーに座っていたのだけれど、ディートフリート様が当たり前のように隣に座ってきたので一人がけの椅子に移動した。

 ソファーよりも座り心地は悪いけれど、親兄弟でもない男と肌が触れ合うような距離に居るよりはマシだ。


「何故少しも俺になびかない。まさか男に興味がないというわけでもあるまい」

「少なくとも貴方に興味はないです」

「……」


 私の言葉を聞いてディートフリート様が無言で俯いて動かなくなった。

 もしかしてこの人意外に打たれ弱いのだろうか。

 相手が惚れてる私だからかもしれないけど。


「まさか本当にライアルと恋仲だというのではないだろうな!?」

「ないです。弟ですよライアルは」


 まあそうは言っても、十年間会っていない間に成長したライアルを弟扱いしきれていないのも事実だ。

 私が村の大人たちどころか老人たちまで子供のように扱えるのは、その成長を見守っていたからこそ。

 一度私の手の届かないところまで飛び立ってしまったライアルを、あの頃の物静かな子供と同じように見るのは無理なのかもしれない。


 まあだからと言ってそれが即座に色恋沙汰に結び付くわけがないけれど。


「ならば誰だ!? 村人の誰かか? それともあの魔法ギルドの小娘か!?」

「何でヴィルマが出てくるんですか」

「ならば誰だ!?」

「今は恋してる人なんていません。この先も……恋はしません」


 そう。私は恋なんてできない。

 そう二十年前に思い知らされた。


「私はエルフです。人間と共に生きることはできても、人間と恋に落ちることはない」

「やってみなければ分からない」


 いつかと同じような言葉をディートフリート様は紡ぐ。

 自信満々に、己ならできると言わんばかりに。

 それこそが私を一番傷つける道だと思いつきもしないで。


「やってみなかったと思うんですか? 貴方の何倍も生きている私が」


 だから私はその言葉を、自分でも驚くくらい冷たい声で言い放っていた。

 おまえに私の何が分かるのだと。憎悪すら込めて目の前の男を睨めつけていた。


「シル……ヴィア?」


 驚いたように、捨てられた子供のように、ディートフリート様は私を見ている。


 今私はどんな顔をしている。

 今私は何を考えている。

 何故私はこれほどまでにイラついている。


「ほっほ。そこまで」

「……え?」


 凍り付いたような空間に、ひょいと気軽に入ってくる影がある。


「相変わらず女の扱いがなっとらんなディー坊。おまえさんの立場で押して倒しも心は手に入らんといつ学ぶ?」

「な、何故貴方がここにいる!?」


 ディートフリート様が目に見えて狼狽えた。あのいつでも自信たっぷり傲岸不遜な王子様が。

 もしかして王族の方だろうか。

 そう思いながら視線をあげると、そこには白髪を短く刈り込み、口元にお洒落な髭を生やしたお爺さんがいた。


 ただその顔は予想よりかなり高い位置にあった。

 すごく背が高い。私が立ち上がっても頭が肩にも届かないかもしれない。


「ほう。久しぶりですなシルヴィア殿。と言っても貴女は覚えておられないだろうが」

「……え?」


 どうやら私はこのお爺さんと会ったことがあるらしい。

 しかしまったく記憶にない。こんな特徴的な人なら忘れるはずがないのだけれど。


「すいません。どちら様でしょうか?」

「私はライアン・シュティルフリート。まあ気軽にお爺ちゃんとでも呼んでくだされ」


 そう言うと、ライアンさんは口ひげを撫でながらくしゃりと笑った


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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました
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