養父
神父様の下には様々な人が訪れる。
それは例えば将軍のような軍の指揮官や、有力な貴族の後継者だとか。
王国になくてはならない存在となっている神父様との顔合わせのために、国を動かす立場にある人は一度は村を訪れる。
とはいえさすがに王族の方々には神父様のほうから会いに行くのだけれど、たまにやんちゃな王子様や王女様が王宮を脱走して神父様に会いに来ることがあるらしい。
何せ相手はお伽噺の英雄だ。英雄譚に憧れる子供ならそれは会いたいと思うだろう。だからと言って脱走するような王族はこの国以外には居ないだろうけれど。
神父様がこの国の王族をいい意味で馬鹿が多いというのも納得だ。
決して頭も人格も悪い方々ではないのだけれど、行動力が無駄にありすぎる。
そんなわけで、突然現れたライアンさんと私に面識が会ってもおかしくはないのだけれど、すぐには思い出せなかった。
ディートフリート様をやり込め、ライアルの部下であるザシャさんと会わせてくれたのだから味方だと思っていいのだろう。
ザシャさんが今にも腹を切りそうなのを止めてくれたし。
「いやはや申し訳ありません。本来ならわしが迎えに行くべきだったのですが、隠居してからは気ままに各地を巡っておりましてな。お助けするのが遅くなってしまいました」
「いえ。こちらこそご迷惑をかけて申し訳ありません」
ひょろりと長い体を折り曲げて謝ってくるライアンさんに、私も手間をかけたことを詫びる。
ライアンさんに連れられてやってきたのは、ディートフリート様の屋敷に比べれば質素な屋敷だった。
それでも庭の木々はよく手入れされていたし、室内も余計な調度品がないので私みたいな庶民は逆に落ち着いた。
寝室にと通された部屋も、最初の部屋にくらべたらウサギ小屋みたいでよく眠れそうだ。
それでも教会の私の私室に比べたら五倍くらいの広さはあるけれど。
しかし本来ならライアンさんが迎えに来てたってどういうことだろう。
ライアルに頼まれたのだろうか。ディートフリート様の様子からして年上の部下というわけでもなさそうだし。
「頼まれはしましたが、そもそもライアルの手が空いていないならば先代であるわしが動くのは当然ですからな」
「……はい?」
言われた言葉の意味が分からず間の抜けた声が漏れる。
先代?
もしかしてライアルの前の女王陛下のロイヤルガードだろうか。
いやでもそれならライアルの代わりに私を迎えるとはならないはず。
「神父様から聞いておりませぬか? 私はライアルの父です」
「……はい?」
予想外の答えにまたしても間の抜けた声が漏れた。
父親? ライアルの?
あの子孤児出身の成り上がりじゃなかったの?
というか孤児じゃないなら何で神父様に預けられてたの?
「もちろん本当の親子ではありませぬ。私は若くして妻に先立たれ子がおりませんでした。このままではお家存続の危機と、恥ずかしながら神父様に泣きつきまして。そこで神父様が養子にと寄越したのがライアルなわけです」
何やってんの神父様。
貴族の養子に何でその辺から拾ってきた子供寄越してるの。
「まあ我が家自体が元を辿れば平民出身の成り上がりですからな。一部の貴族からは『傭兵貴族』などと揶揄されておりますので今更です」
「えー? 貴族って元を辿れば全部成り上がりじゃないですか」
違いがあるとすれば歴史があるかないかだ。
まあそれだけ歴史というものに重みがあるとも言えるのだけれど。
「だからこそ陛下がライアルをわしに代わりロイヤルガードに指名したときの連中の顔は見ものでしたな。大口を開けて間抜け面が並ぶものですから、吹き出さぬよう苦心しました。陛下は腹を抱えて笑っておりましたが」
「笑っちゃったんですか」
どうやら女王陛下もこの国の王族の例に漏れず中々愉快な人らしい。
本当に大丈夫だろうかこの国。
「ともあれわしが来たからにはディートフリート殿下の好きにはさせませぬ。ライアルが戻るまで安心してお待ちください」
「それこそ大丈夫なんですか? 相手は王族で将軍なのに」
「大丈夫ですとも。何せディー坊の剣の指南役は私ですからな」
そう言って得意げに胸をはるライアンさん。
なるほど。身分を越えて完全に上下関係ができているらしい。
「とはいえ普通なら師弟関係とはいえあのような無礼は許されませぬ。ディートフリート殿下が立場をわきまえられないから敢えて子ども扱いをし、それを陛下も理解しておられる故に咎められないのですが。当の本人があの有様でして」
「なるほど」
要は陛下公認で「身分笠に好き勝手する前にわきまえろや」と言われているのに、ディートフリート様はまったく理解してくれないと。
一度痛い目にあわせたほうがいいのではないだろうか。
「あわせようにも剣の腕だけは確かですからな。今度ライアルをけしかけようかと陛下と相談しております」
ライアルが鉄砲玉に!?
「大丈夫なんですかそれ?」
「ハハッ。大丈夫ですとも。ぶつかり合う内に気心も知れるでしょう。何せ王国の明日を担う若者たちですからな」
そう言って笑うライアンさんだけれど、その言葉の端々から「ディートフリート様の面倒はライアルに見させよう」という魂胆が見え見えだった。
ある意味ライアルの未来は約束されているのかもしれない。
胃が痛むのも約束されてそうだけれど。




