表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下野小山戦国異聞 関東八屋形の復興  作者: Rosen
関東享禄の内乱編
69/347

動揺する親子

 一五二九年 初秋


 わずかな供を率いて密かに古河城を脱出し、小山犬王丸の祇園城に迎え入れられた晴氏は態勢を整えた後、諸大名に対し古河を蝕む高基・高実親子を排除すべきと大号令を発した。この大号令に反応したのは下野では晴氏を迎えた小山、忠綱死後高基と関係が微妙になった宇都宮、下総では結城、簗田だ。


 下野の佐野や那須、常陸の佐竹や小田は今回中立か内部のゴタゴタがあり、動くことはなかった。これは晴氏の人望の問題ではなくて今の古河が影響を与えられる範囲の限界なのかもしれない。全盛期の古河だったなら下野を中心に北関東の大部分の大名を動員することができた。しかし永正の乱の影響で徐々に弱体化した古河には家督争いで大名を動員できるほどの力は残っていなかった。常陸の大掾や芹沢は晴氏の支持を表明しているが兵は動員できないという。


 だがそれでも下野と下総の有力な外様が兵を挙げたことは晴氏の中でも大きな収穫といえた。小山は騎馬一五〇を含めた約八〇〇の兵を、宇都宮は芳賀率いる一〇〇〇、結城は五〇〇、簗田は支族の兵を含めた三五〇の兵を古河城攻略のために陣を敷いた晴氏のもとに集結させた。


 これに驚いたのは高基・高実親子である。晴氏の古河城脱出をすぐに気づけなかった高基だったが、自身の経験から晴氏が反旗を翻したことに勘づいた。すぐに反乱者晴氏を鎮圧するために諸大名に手紙で兵の動員を要請するも、その多くの答えは芳しくないものだった。なぜなら多くの大名が晴氏を支持しており、残りの一部も内乱など家中が統一できていないという理由で参陣ができる状態ではなかった。そのため高基に味方するのは一部の譜代と国人程度と極少数に過ぎなかった。



「この不忠者らが……!」


「父上、どうしましょう」


「仕方がない。四郎に手紙を出す。あの裏切り者の手を借りるのは癪だがやむを得ん」



 あてにした救援を望めないとわかった高基は仕方なくほぼ絶縁状態だった山内上杉家へ救援を求める。しかし高基に返ってきたのは彼を絶望させるものだった。



「なんということだ……」



 山内上杉家では内乱が発生していたのだ。まず事の始まりは一五二九年正月に重臣白井長尾家当主長尾景誠(かげのぶ)が暗殺されたことだった。まだ二十三だった景誠の死により白井長尾家は断絶。この解決に乗り出したのは箕輪長野家で最終的に総社長尾家の景房を当主に据えて事態は一旦収束した。


 しかし重臣の暗殺が示唆するように山内上杉家では家臣間での対立が深刻化しており、若い当主の憲寛にはそれを解決できる能力はなかった。そして内乱が起こるきっかけを生んだのは憲寛自身だった。


 八月、憲寛はかねてから対立していた被官の安中家を攻撃することを決意した。だがこの決定は家臣の多くから反対を招き、同盟者でもある扇谷上杉家当主上杉朝興からも制止の声がかかったほどであったが、憲寛は安中攻めを強行し、家臣の高田家や箕輪長野家など憲寛を支持する勢力を率いて安中で陣を張った。この蛮行に反発したのは日頃箕輪長野家や高田家と対立もしていた重臣の小幡家や西家らだった。彼らは前関東管領憲房の遺児竜若丸を擁立して安中の陣に構えていた憲寛を奇襲し、敗走せしめた。


 敗走した憲寛は安中攻めを中止。軍を後退させて反乱勢力と対峙せざるを得なくなり、高基へ援軍を送る余裕はなくなったのだ。


 最後の希望ともいえる山内上杉家からも救援の要請を退かされたことに高基は意気消沈する。別勢力に救援を求めようとも各地の情勢は高基たちを不利に働かせていた。


 扇谷上杉家は北条の圧迫を受けており、寧ろ周囲から救援を求めたいほど追い込まれていた。その北条を頼ろうにも、北条は扇谷上杉家の他に房総半島を巡って小弓公方と対立しており、古河に兵を送れるほどの余裕はなかった。小弓公方はそもそも敵対しているうえ、内乱で援軍を求めるという自ら弱みを握らせるような真似はできなかった。


 高基が必死で工作を練っていたこの間、高実は右往左往するばかりで何も役に立つことはなかった。庶子という生まれと日頃の振る舞いから高実を支持する者は少なく、その多くは家禄が少ない者だったため援軍にもならない。


 高基はこのときにようやく高実に公方の素質がなかったことを痛感するも時すでに遅し。こうなることだったら大人しく晴氏に家督を譲るべきだったと思う反面、自分に反旗を翻した晴氏に家督を渡すのなら多少素質がなくても高実に家督を継がせるという思いも存在していた。


 高基・高実親子が浮足立っている最中も事態は進んでいく。晴氏軍が進軍していく中、高基は僅かな家臣らと城下の農民を無理矢理動員させてようやく軍勢を五〇〇近く揃えることができた。しかし敵は三〇〇〇近くと六倍の差があった。これでは到底野戦することはできない。そもそも戦の経験の浅い高基に野戦の指揮をとることなどできなかった。必然的に城側は籠城策を余儀なくされたのだった。


 しかし晴氏軍に古河城を包囲された際に高基軍に新たな問題が発生した。



「な、なんじゃと!も、もう一回申してみろ!」


「申し訳ございません。し、城の兵糧が残っておりませぬ!」

「面白かった」「続きが気になる」「更新がんばれ」と思ったら評価、感想をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ