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奥大道と足利学校

 下野国 祇園城 小山晴長


 小山法度式目の制定に続いて下野国内の街道整備に取り掛かることにした。


 下野には鎌倉時代以来続く鎌倉街道のひとつ、奥大道と呼ばれる重要交通路が存在しており、下野からは小山・児山・宇都宮・喜連川・黒羽・伊王野・蘆野を通り、陸奥の白河へ抜けていく。


 古くから使われ続けてきた街道ということもあり、基本的に道幅は広く、宿場町も点在しているが、その奥大道を更に改善するためにいくつかの策を講じることにした。


 まずは道の平坦化だ。奥大道は基本的に平坦で広いが、場所によってはそうでない箇所も残されていた。それを修繕することで更なる人の流れを呼び込めることだろう。


 次に街道の両隣に一定間隔で樹木を植える。これは夏の時期に陰をつくるのが目的で、街道の利用者はそこで一休みできるようになるはずだ。この樹木は松か柳を想定している。


 樹木を数多く植えるので、まずは成熟した物より若木を植えさせることにした。そうすることで手間と時間が省略できるからだ。若木を植えるので、すぐに効果は見込めないが、数年後以降は成熟した樹木が街道に現れることだろう。また同時に箒を配置して付近の村人に定期的に掃除をさせる。これは織田信長が安土で実施した政策でもあった。


 そして最後に流通と物価を妨げる余計な関所を廃止する。余計な関所は人の行き来を妨げ、物価の高騰などの要因でもあった。本来なら全ての関所を廃止したかったが、反発と影響を考慮して一部の関所の廃止から始めることにした。それでも抵抗はあったが、代わりに宿場町や市場の拡張の支援を約束することで声を鎮めることができた。



「奥大道の整備は数年かけておこなうつもりだ。これが上手くいけば下野全体の更なる発展につながる。必ずや成し遂げるぞ」


「しかし御屋形様、道を整備することで敵の軍勢が進軍しやすくなってしまいますが」


「たしかにそういった面はあるだろう。だが、それ以上に人の往来を増やすことで国が豊かになるのならそちらを取るべきだと思っている」



 芳賀高規の疑問も尤もだ。俺はそれを認めつつ、それ以上の利点として領土の繁栄を挙げる。これからは堅牢だが交通の便が不利な土地ではなく、商業が発展しやすい交通の便が良い土地が中心になってくる。


 それに敵が進軍しやすくなるということは、同時にこちらも進軍しやすくなるということ。領内での進軍速度が上がれば他領への進出も楽になるのだ。


 いずれは奥大道だけでなく、他の街道を整備して下野東西の流通も発展させていきたいと思っている。そうなれば隣国の上野や常陸への移動もより容易くなるだろう。


 数日後、ひと段落した俺のもとへ足利学校の人間が訪れてきた。ひとりは年配の、残り数人はまだ若く、十代後半から二十代前半あたりの僧たちだ。



「本日は面会を許していただき、感謝に堪えません。足利学校、今代の能化を務めております日新と申します」


「下野守護の小山下野守だ。義弟殿の紹介と聞いたが、まさか能化本人がやってくるとはな」



 能化とは足利学校の責任者のことであり、言わば足利学校の長だ。その能化本人が自ら足を運んできたということは、つまりそれほど重要な議題があるということ。



「後ろの若い衆は小山家に仕官する者たちのようだな。彦右衛門殿からは話は聞いているぞ」



 そう言うと、足利学校の若者たちは恐縮したように頭を深く下げる。



「さて、日新殿、率直に聞こう。今回の目的は足利学校の保護を求めてのことだな?」


「左様でございます。今まで庇護してくださっていた長尾様が滅び、我々は新たに学校を保護してくださるお方を探しております」


「足利は今、佐野と桐生が治めていたな。だが、其方がここに来たということは、ふたりに断られたか」



 日新は深く息をつき、頷いた。



「その通りでございます。佐野様も、桐生様も学校を保護する金銭的な余裕はない、と。そこで佐野様から守護様を紹介していただいたのです。どうか、お願いいたします。学校が存続できるか、できないかの瀬戸際なのです」



 日新の必死な表情に、彼は本当に学校のことを考えて行動しているように見えた。


 足利学校はこの時代において貴重な存在だ。小山の台頭で存亡の危機にあるというのなら、手を出さないわけにはいかない。



「頭を上げられよ。日新殿、小山家は足利学校を保護することを約束しよう。義弟殿を通じる形にはなるがな」


「まことでございますか?」


「ああ、足利学校は坂東が誇る学問の宝。それを無くすわけにはいかないだろう。出来る限りの助けをしてみせよう」


「……ありがとうございます。これで学校を、生徒たちを守ることができます」



 日新だけでなく、若者たちも地面を擦る勢いで頭を下げている。彼らはこれから小山に仕官するが、学校に対して十分な愛着もあったのだろう。


 足利学校の存続は学問的な意義だけでなく、実は小山家にとっても利点があった。


 今回の件で小山家は足利学校と直接の関わりを得ることができた。接点が生まれたことで小山から足利学校に人を送ることも可能になったわけだ。


 と言っても、送り込むのは小山家の人間ではなく、学問を志したい小山の民だ。元々足利学校自体の学費は無料だが、環境的に足利まで行けない者も多い。そこで小山家が希望者を募り、足利学校に入学させることで彼らに学問を学ばせることができる。


 学問を修めた彼らが今後小山に戻り、貢献してくれれば小山はもっと発展することだろう。中には別の場所に流れる者もいるかもしれないが、そこは仕方ない。


 だからこそ義弟の豊綱が日新に小山家を紹介してくれたのは渡りに船だったりする。



「日新殿、安心なされよ。足利学校が未来まで続くよう力を尽くそうではないか」

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― 新着の感想 ―
強い集権体制と常備軍を備えられるなら、道は広く平らな方が良いのはローマ帝国が実証してるからね 逆に小規模領主が乱立する封建制なら道は荒れてる方が良いというのも、ローマ崩壊後のゲルマンヨーロッパが証明し…
更新ありがとうございます。 内政の回も面白いです。 新章突入で新たな展開を迎え益々続きが気になり楽しみにしてます。
街路樹の説明じゃああまり必要性を感じなかったけど、他にも理由があったりするのだろうか。 小山家が支援?して足利学校に通うのに小山家以外に流れてもしょうがないって、主人公も下野を統一して大分余裕が出たと…
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