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半助らの謀反

 下野国 祇園城 小山晴長


 半助の家臣から密告が届く。不審な動きをしていた半助らはやはり謀反を企てていた。



「八郎に右衛門尉も加担していたか。それにしても左近という男、何者だ?」



 密告してきたのは土佐守家の古参の家臣たちだった。彼らが言うにはどうやら半助は相羽左近という男を重用しており、今回の謀反も左近が唆したものだという。


 左近は土佐守が生前に召し抱えた新参だったが、その風貌とは裏腹に話術や実務能力に長けており、瞬く間に土佐守の信用を得たらしい。左近は半助の側近に選ばれ、半助からも重用されていた。その左近が土佐守の死が俺の陰謀だと半助に吹き込んだという。土佐守の真意を知る他の家臣はそれを否定したようだが、傷心中の半助は左近の言葉を信じ切っており、逆に諫言する古参の家臣を遠ざけてしまった。


 父の死の原因を俺へ向けた半助は復讐を遂げるために謀反を起こそうとした。それは見当違いな理由で本来なら誰も半助の手をとることがないはずだった。だが左近は俺に反発し、榎本城主の座を失った八郎に目をつける。そして小山家の重臣である八郎を味方につけて、そこからさらに水野谷右衛門尉、遠藤四郎右衛門などといった賛同者を増やしたのだ。



「御屋形様、これは事実なら猶予はありません」


「まさか八郎殿が加担されるとは……」


「八郎殿が御屋形に叛いたと広がれば同調する者が現れかねませぬ」


「代わりに御屋形に任じられた右衛門尉殿まで加わっていたとな。これで水野谷家はおしまいだな」


「しかし水野谷家は古参ですぞ。下手に扱えば動揺が生まれてしまいますぞ」



 家臣らは古参の八郎が謀反に加担したと知ると動揺し、各々が意見を出し合う。



「静まれ」



 俺の決して大きな声でない言葉で家臣たちの口は閉ざされる。家臣たちの注目が自分に集まっていることを確認すると周囲に視線を向ける。



「謀反が明らかになった以上、首謀者が誰であろうと静観するわけにはいかぬ。祇園城、鷲城、長福城の兵を榎本城に差し向けろ。迅速にだ」


「はっ、ははっ」



 最近俺と対立していたとはいえ、古参の重臣である八郎の離反は家中に動揺を呼んだ。


 今まで重要な働きを見せていただけに水野谷家には情状酌量の余地があるのではないかと周りは見ているかもしれないが、問題は俺が代役に任命した右衛門尉までもが謀反に加担していることだ。俺の任命責任もあるが、本来後任として水野谷の道を正す役割を期待された右衛門尉が八郎と同じ道を辿った責任は大きい。水野谷はもはや癌でしかない。


 慌ただしく家臣たちが出陣する様子を見送った俺は大きく溜息をつく。八郎め、なぜ半助の見当違いな謀反に加担しようと思ったのだ。もしや城主の座を剥奪したことで彼を追い詰めてしまったのだろうか。俺のせいなのか。


 ふとそんな考えが一瞬頭をよぎる。だがそれは違うと俺は強く否定する。


 仮に城主剥奪が八郎を追い詰めたとしても、それ以前の八郎の行動は決して許されるものではなかった。たしかに八郎は小山家で重要な役割をこなしていた重臣だったが、彼の職務放棄や俺が出した使者への振る舞いは重臣のそれを逸脱していた。


 もし俺がその行動に厳しく対応しなければ小山の当主は重臣の行動を制御できない、あるいは八郎の振る舞いが許されると思われて統治に大きな支障が生じていた。そうなれば生まれるのは規律の崩壊と当主の権威の失墜だ。それは戦国時代の大名として致命的な終焉を意味していた。


 だからこそあのときの判断を悔やむべきではないのだ。それが仮に信用していた家臣の喪失だったとしても。


 謀反の平定には三郎太を向かわせた。榎本城に八郎や半助がいることはすでに判明している。彼らが動く前に先手を打つ形で兵を向けたが、まさか身内との戦いが常備兵の初陣になるとは思いもしなかった。


 まだまだ成長途上ではあるが右馬助や藤蔵の指導を受けた彼らは並の農兵より頑強だ。これもまた経験としてひとつ成長してほしい。



「五郎はいるか?」


「はっ、ここに」



 加藤一族がひとり五郎を呼び出すと俺はひとつの密命を言い渡す。すでに段蔵にも動いてもらっているが、五郎に与えた役割はまた別だ。



「なるほど、承知いたしました。この五郎、必ずやお役目を果たさせていただきます」


「頼んだぞ」



 五郎が影に溶けるように姿を消す。もう三郎太は榎本に到着しただろうか。

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― 新着の感想 ―
話術で人を操ることに長けた人物… どこかで聞いたような気がします
更新ありがとうございます。 一体左近は何者なのか? 新キャラか? それとも過去に退場したと思っていた人物が素性を隠しているのか? 続きが気になる。
左近は怪しいよなあ どこかの忍びの可能性ありそう
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