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内憂外患

 下野国 祇園城 小山晴長


 家中に不穏な空気が漂う中、事前に警戒していたとおり、不作に苦しむ那須高資が食糧目当てで小山領に襲撃をかけてきた。狙われたのは高資の領土に近い塩谷領と沢村城。しかし事前に襲撃に備えていたことと烏山城を追われて高資の戦力が激減していたことも相まって大きな被害が出る前に撃退することができた。


 とはいえ高資もこれに懲りずに再び小山領を狙ってくるだろう。元々那須領は米の収穫量が多くない。そこに飢饉と病が重なったことで致命的な打撃を受けている。下手すれば高資すら飢えに苦しむ可能性すらあった。


 一方の小山は他領同様に病と蝗害に苦しんでいるが、備蓄米や種痘などによって被害はまだ抑えられている。当然飢えている相手からしたら、そんな小山領をどんな犠牲を出したとしても狙わないわけがない。今後も高資の襲撃に備えるよう警戒を呼びかけるつもりだ。


 備蓄米といえば、最近頭を悩ましているのが食糧目当てで小山領にやってくる民の存在だ。当初は炊き出しなどをおこなっていたが、どこからか備蓄米の噂を聞きつけた炊き出し目当ての他領の民が入り込んでくるようになった。


 そもそもこの備蓄米は小山の民が収穫した米であり、最優先で与えられるべきは小山の民だ。数も限度があり、余所者が手にすれば本来与えられるべき民に渡らなくなる。そこで炊き出しは一度中止にして村単位で米を配給すること方針に改めた。手間ではあるが、そうすれば余所者が入り込む隙がなくなって適切な場所に米を与えることができる。


 実際、効果は出ており、備蓄米を巡る余所者との諍いは激減した。その代わり、その余所者の中から小山家への不満が高まっているらしいが、小山としては年貢も納めていない余所者に米を恵む理由なんて存在しない。未曾有の大災害の中で自領の民たちを救うだけで手一杯なのだ。


 各地の家臣らに不穏分子になりつつある余所者たちの排除を命じている中、どうやら不穏分子は小山の内部にも潜んでいたようだ。



「小山半助だと?」


「左様でございます。どうやらこの頃、一部の人間と密談を重ねております」


「ほう」



 段蔵からの報告に俺は半助という人間を思い出す。


 小山半助とは先日疫病によって他界した小山土佐守の遅く生まれた嫡男だったはずだ。土佐守の死後、家督を継ぐために元服はしたがまだ年齢は十三ほど。そんなほぼ子供の半助が密談とは一体何を企んでいるのやら。



「段蔵が自ら報告する事案だ。他にも何かあるのだろう」


「はっ、これは土佐守殿の遺臣、つまりは半助殿の家臣からの密告になりますが、どうやら半助殿は御屋形様を快く思っていないご様子。それと密談相手がややきな臭い者たちのようで」


「半助が、か。奴とは面識は元服したときの一度しかなかったはずだが、何が理由だ?」



 すると段蔵はわずかに言いづらそうにするも口を開く。



「それは土佐守殿の死についてです。どうやら半助殿は御屋形様が土佐守殿を見殺しにしたと思い込んでいるようです」


「馬鹿な、土佐守は疫病での病死だ。それに彼は自身の年齢を理由に貴重な種痘を他者に譲るようにと断っていたはずだぞ。それこそ自身よりも半助にと言っていたではないか」



 土佐守は種痘の存在に肯定的だったが、自身の老齢を考えて老いている自分より若者が種痘を受けるべきだと辞退していた。もちろん周囲も説得していたが、彼の意思は固く結局種痘を受けることなく疫病に罹りそのまま亡くなってしまった。


 だが土佐守が種痘を自ら辞退したのは周知の事実だ。少なくとも重臣以外の人間も知っていた話で、身内である半助が知らないとは考えづらい。


 いや、待て。土佐守は半助ら若者に種痘を譲るために辞退した。それをそのまま半助に伝えるだろうか。もし自分が半助の立場なら罪悪感に襲われるはず。もしや土佐守は種痘しなかった本当の理由を半助に伝えなかったのか?


 それが事実であれば面倒なことになった。



「逆恨みの可能性もあるか。これは半助の誤解を解くのは手間がかかりそうだ。とはいえ俺が見殺しにしたというのは随分と悪意のある認識だな。半助がそう判断したのか、あるいは誰かに吹き込まれたか……」


「御屋形様、事はそれだけではございません。その半助殿が密談した相手というのが水野谷八郎殿、水野谷右衛門尉殿、遠藤四郎右衛門尉殿なのです」


「……ここにきて八郎か」



 八郎は父との折り合いは悪かったが、俺には長年忠実に従ってきてくれた。だが年貢の件以降、急速に関係が悪化して八郎は急病を理由に評議の場すら出なくなっていった。はじめはこちらも急病の見舞いの使者を送ったが、やがて八郎は使者を追い返しはじめるなど粗雑な対応をとるようになり、俺も八郎を呼び出そうとしたが八郎はそれを無視する始末。


 度重なる警告を無視した八郎に対し、ついに俺は水野谷八郎から榎本城主の座を剥奪した。代わりに一族の水野谷右衛門尉を榎本城代に任命したが、まさかその右衛門尉も八郎と同じ動きをしていたとは。できるだけ周囲からの反発を抑えるために水野谷一族から選出したつもりだったが、これは判断を誤ったな。



「半助に、八郎か。余計な事を企んでいなければいいが期待薄か……」

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CK3というRPG要素もあるグランドストラテジーゲームというのがありまして、領国、国を統治する方法は何万通りあるんですが 自分がやってる統治方法は単純明快「スターリン」になるだけです。 恐怖と鉄拳…
主君の心、家臣知らず 家臣の心、主君知らず もしかして那須の謀略か?
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