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蝗害と懸念

 下野国 祇園城 小山晴長


 疫病の蔓延によって大きな戦がないまま収穫の時期を迎えたが新たな厄災が襲いかかる。去年に引き続き、蝗害が発生したのだ。


 去年のこともあり、すでに蝗害の対策をいくつか立てていた。そのひとつがいわゆる注油法だ。


 注油法とは油を水田に撒いて水面に被膜をつくり、そこに稲などを揺らして害虫を落とし窒息死させるというもの。史実では江戸時代に発見された方法で主に鯨油が使用されてたようだが、中には植物油も使っていたらしい。


 とはいえ、この時代において油は貴重品であり、すべての水田に油を撒くことは非現実的だった。そこで祇園城下の一部の農民たちに油の負担をする代わりに注油法を試してもらうように協力してもらった。皆、水田に油を撒くことに抵抗を覚えていたが、最後は蝗害の対策になるならと承諾した。用意できる油の量もあり、数は多くないが注油法を実施できたことでどれだけの効果が出るだろうか。


 そしてもうひとつは原始的だが晩に火を焚いて虫を寄せ集める手法だ。こちらに関しては特別大きな効果があるとは思えないが、やらないよりマシだろう。


 去年の経験から民も警戒していたことが功が奏し、早い段階で蝗害の発生に気づくことができた。だが気づいたとしてもそれを食い止める方法はない。早めに駆除を進めていたが、やがて害虫たちはそれを上回る速度で増加していく。



「田畑の様子はどうだ?」


「残念ながら、かなりの被害が出ております。今回は特に下野西部での被害が甚大です。皆川や岩舟では虫が空を覆っているとの報告が」


 疫病にやられなかった動ける加藤一族が必死に集めた情報は総じて悲観的なものだった。今年の蝗害は去年を上回っており、各地から悪夢のような報告が上がってくる。家臣たちは皆顔を青白く染めている。俺も溜息をつきたいくらいだ。病や蝗害によって家中の空気も重苦しいものになっている。



「注油法をやった水田の様子はどうだ?多少は効果は出たたか?」


「そのことですが、油を撒いた水田はしていなかった他の水田と比べて被害は抑えられております」


「なんと!?」



 僅かな希望の光が差したことに家臣たちがどよめく。油を撒いても三割ほど食われてしまったようだが、効果がでていないのと出ているのでは大きい差がある。


 問題は油の消費量が尋常ではないことだ。さすがに領地の全ての水田に注油法は実施できない。夜に火を焚いてはいるが、こちらは効果は限定的だ。



「御屋形様、これでは今年の収穫は絶望的でございます。下手すれば種籾すら残りませぬ」


「……今年も年貢は引き下げる。それと備蓄していた米を解放する用意も。このための備蓄米だ」


「お待ち下され!」



 俺の言葉に待ったをかけてのは水野谷八郎だった。八郎は立ち上がると他の家臣の制止を振り切ってズカズカと俺の目の前まで迫るとドスンと音を立てて座り込む。



「御屋形様は去年も年貢を引き下げましたぞ。さすがに二年連続での引き下げは反対いたす」


「八郎、お前の言いたいことも理解できる。だが報告を聞いただろう。下手すれば例年の年貢の量にすら届かないこともあり得る。引き下げなければ民が飢えることになるぞ」



 しかし八郎はまったく納得していない。



「年貢を引き下げれば苦しむのは我々ですぞ。去年は我慢いたしましたが、二年連続となれば話は別。これでは来年戦ができませぬ」


「別に年貢を取らないわけではない。だが民が飢えてしまえば来年以降の働き手がいなくなってしまう。それに今、例年通りの年貢を課せば必ず民は反発してくる」


「そんなもの力で抑え込めば良いのです。それに働き手がいなくなれば他所から持ってくればいいこと」



 八郎の言葉に思わず重い溜息が漏れる。



「他所だと?どこも病に苦しんでいる。人など見つからん。それに無理矢理連れてきたところで逃散するのが関の山だ。民あっての小山であることを忘れるな」



 八郎は返事することなく、憮然とした表情を浮かべながら部屋を後にする。何人かの家臣が彼を追いかけていったが、俺は八郎を呼び戻すことはなかった。



「御屋形様……」


「八郎の危惧もわからんわけではない。二度の年貢引き下げは間違いなく財政に影響を与えるからな。今は気持ちを整理すべきだときだろう、お互いに」



 一度息を整えると、俺は残った家臣らに那須高資の小山領への襲撃に警戒するよう呼びかける。病と蝗害は間違いなく下野中に波及している。米がとれない那須地方では致命的な打撃を受けているはずだ。高資がそのまま大人しくしていることはないだろう。必ずや小山領で略奪を試みてくる。


 八郎への懸念もある中、病と蝗害に直撃された小山家は少しずつ試行錯誤を繰り返しながら対策を進めていく。しかしながら死人は増加傾向にあり、蝗害も未だ収まることはなかった。

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― 新着の感想 ―
大きな兵力を動かせないなら数より質の常備兵の使いどころかな あと洪水、疫病、蝗害で敵の領地は小山以上に地獄だから忍び使って謀略を仕掛けるのもいいな
水野谷八郎………うーん誰だっけコイツ…………(笑)
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