結城と常陸
下野国 祇園城 小山晴長
常備兵の創設に向けて家臣らと細部について話し合う。
常備兵は基本的に家督を継がない武士の次男、三男などを中心に据えるつもりだが、希望者であれば他の身分の者の登用も考えている。また褒美に土地を与えない代わりに俸禄は金銭での支払いになる。ある程度の年齢に達した希望者は予備役として一度除隊してもらい、人員の入れ替えも促す予定だ。
常備兵には高練度の兵士になってもらうために戦闘技術以外に土木などの作業にも従事し、より専門性を高めた集団になってもらう。
家臣の何人かは実現性に疑問を呈していたが、教官役に小山右馬助が就任することを伝えると、ある程度納得はしてもらった。右馬助の兵士は屈強で小山家有数の精鋭でもある。そんな右馬助の手腕は誰しもが認めていた。右馬助の補佐には農家の倅から出世した横倉藤蔵を本人の希望もあって抜擢した。
藤蔵はまったくの素人から家中屈指の武辺者として成長しており、その成長速度は小山家の武術師範である塚原彦右衛門も舌を巻くほどだ。
すでに右馬助は西方城を後任の城代に任せて祇園城に帰還している。藤蔵は東部戦線で活躍しており、東部戦線を任されている長秀叔父上から名を覚えられているほどだったが、こちらも祇園城に戻っている。
「ふたりにとってこれから色々と苦労する仕事になると思う。右馬助、藤蔵よろしく頼むぞ」
「お任せください。この右馬助、小山家に恥じない精鋭に育てて見せましょうぞ」
右馬助は自信たっぷりと自分の胸を叩く。藤蔵はやや緊張した顔つきだったが不安の色はない。
同時並行で進めている足利学校の人材発掘も段蔵や九郎三郎らによって介入可能ということが判明して足利学校出身の彦右衛門に交渉を担当してもらうことにした。どうやら旧知の人間が指導役として残っていたようで足利学校の内情も持ち帰ることができた。
足利学校の学生は様々な家へ仕官するためにあらゆる専門的な知識を身につけている。その中でも下野最大勢力である小山家への関心は高く、有望な人材も揃っているという。その中には軍略を学んでいる人間も含まれており、近いうちに候補を選ぶことができそうだ。
そして内政で常備兵への準備を進めている最中、結城家からの使者が祇園城を訪れる。
使者である結城家の重臣山川直貞は小山や結城と同族で数代前までは結城や小山へ大きな影響力を誇っていた山川家の人間だ。とはいえ小山と結城の躍進により今の山川は結城の一家臣に落ち着いており、直貞も義兄上と同世代ということもあって結城には従順である。
「下野守様にご報告がございまして、結城家は先日常陸の笠間殿と手を結ぶことになりました」
笠間というと常陸国笠間城の笠間高広か。たしか宇都宮の一族のひとつだったな。昔芳賀や益子と手を結んでた時期もあったらしいが。
「ほう、それは小田や府中の大掾を見据えてのことですかな?」
「結城家としてはそうなります。笠間からすれば小田より佐竹への牽制でしょうが」
「なるほど。だがそれを笠間との関係が深くない小山家に報告する必要はあるとは思えないが」
疑問を呈すると、直貞はここからが本題だと言う。
「実は笠間家から小山家に取り次ぎを依頼されました。目的は小山家と笠間家の同盟です」
同盟、同盟かあ。笠間は常陸の国人で真岡に近い位置にはいるが、わざわざ同盟を結ぶまでかと言われると微妙だ。おそらく佐竹を念頭に置いた同盟を結びたいのだろう。
かつて同盟を結んでいた芳賀と益子はすでに小山に従属しており、常陸の反佐竹勢力は笠間と変わらない規模の国人が多い。ということは小山という後ろ盾が欲しいということなのだろう。従属なら応じたが、同盟となると話は別だ。
現状小山家への利点が少ない。強いて挙げるならば常陸内に佐竹の防波堤ができることだが、那須に集中したい手前、常陸に手を出す予定がないだけに軽率な動きは控えたいところだ。これは要相談だな。
「山川殿、申し訳ないが笠間の件に関してはしばらく保留させていただきたい」
「かしこまりました。ですがあとひとつ、下野守様にお伝えしたいことがございます」
「なにかな?」
「この度、主君左衛門督様のご子息である若王様の元服が決まりました」
ほう、あの若王丸の元服が決まったのか。こちらに静養しにきたときはいかにも病弱そうだったが、治療の甲斐もあってその後は健康に過ごしていると聞いていた。
「つきましては是非下野守様に若王様の烏帽子親になっていただきたく」
「俺が烏帽子親に?それは義兄上の希望か?」
「はい、左衛門督様と若王様本人のご希望でございます」
ついに俺も誰かの烏帽子親になる歳になるとはな。それも義兄上の子供。つまり富士の甥っ子か。今後の結城との関係をより強固にするためにもここは是非烏帽子親を務めさせてもらおうか。
「是非に。烏帽子親の件、承った」
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