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飛騨とのつながり

 下野国 祇園城 小山晴長


 実は祝言前に喜子一行から喜子の父業賢からの手紙を預かっていた。その内容は以前清原家に依頼した江馬家とのつながりを得ることについてだった。


 業賢は都で姉小路時秀・時親親子と接触し飛騨守護代でもある三木家とのつながりを得ることに成功していたが、肝心の江馬家までは手を伸ばせなかったようだ。それでも姉小路から三木までつながったのは十分と言える。業賢には礼をしないといけないな。


 ただ朗報なのはその三木が小山について興味を抱いているということだ。三木は都での小山製の商品の評判を耳にしており、こちらとの接触に好意的だという。


 当主三木直頼は北飛騨の江馬時経の娘を息子良頼の嫁に迎えていたが、残念ながらその娘は病で亡くなってしまったらしい。三木と江馬の婚姻関係は消滅してしまったが、三木側が時経の心情を慮って能衆に城下での興行を許可しないなどまだ関係性は良好そうではあった。


 俺は下野屋や谷田貝民部らを呼び出して清原からの情報を共有する。



「俺は三木と江馬の婚姻関係が消滅した今、状況が変わる前に三木と接触して江馬とのつながりを得たいと思っている」


「同感ですな。向こうが手切れになる前に動くべきでしょう。蔵右衛門殿、その際は使者とともに同行してもらうことはできるか?」



 民部の問いに下野屋はしばらく思案したのち、首肯する。



「そうですな。もし三木家から江馬家の紹介を受けた際、そのまま向かう方が良いかもしれません。そうなればあとはこちらの役目ですゆえ」


「護衛は十分な数を与える。だが、おそらく三木家に向かうとき飛騨では飢饉や病が起こっているかもしれん。そう考えると今の時期行かせるべきではないのだが」



 俺の言葉に民部が一歩進んで唱える。



「いえ、是非とも三木に向かうべきです。三木と江馬が敵対状態になれば神岡は諦めなければなりません。それに神岡欲しさに三木を蔑ろにすれば清原様のご尽力を無駄にしてしまいます」


「ああ、清原には大分骨を折ってもらったからな。というわけだ。下野屋、もちろん無理にとは言わんが、飛騨に向かってくれるだろうか?」



 下野屋は普段と変わらない笑みを崩さないまま膝に手を打つ。



「御屋形様、それはこの下野屋をみくびり過ぎではございませんか?我々は商人です。そこに商機があれば戦場だろうが飛びつくのが本能。たしかに病は厄介ですが、すでに牛痘とやらを打っております。それならば神岡の利権を得られるのに臆する理由はどこにあるのでしょう」



 下野屋の瞳がギラギラと怪しくゆらめく。そうだ、下野屋はこういう男だった。



「ふっ、愚問だったようだな。ならば十分な護衛と外交役とともに飛騨へ向かってくれ」


「承知」



 下野屋の覚悟も受けて俺は外交役と護衛を選んで飛騨へ向かわせる準備を進める。外交役は今回山河弥三郎を選出する。この弥三郎、小山の中でも古参の部類に入り、主に裏方で小山家を支えてきた重臣の一角だ。小山家でも目立つ存在ではなかったが、都の清原への使者を何度もこなしており、外交面では信頼できる人間だ。清原との接点がある人物の方が交渉はしやすいだろう。


 江馬が支配している神岡から採れる鉛は今後鉄砲が出現した際に必要となる銃弾の材料だ。摂津の多田からも買いつけるが、入手先は多いに越したことはない。ただ飛騨は山で囲われており輸送方法も考える必要もある。



「御屋形様、山本様が登城なさいました」



 大俵助三郎から上三川城の山本勘助が祇園城に登城してきたことを知らされると俺は勘助を部屋に呼ぶように伝える。



「こうして一対一で話すのは随分と久しぶりですな」



 やがて助三郎とともに部屋に現れた勘助は腰を下ろすとチラリと助三郎に視線を向ける。



「助三郎は部屋の外で待機していてくれ」


「はっ」



 助三郎が退室したのを確認すると俺は勘助にある図面を見せる。



「御屋形様、これが儂と話したかったやつか?」


「ああ、今のところ勘助なら理解してくれそうだと思ってな」



 俺が上三川城から勘助をわざわざ呼び出した理由がその紙には記されていた。


 書かれているのはいわゆる古代ローマの基本陣形のひとつである三列陣の図であった。



「これは横陣を三列に並べておりますな。しかし先陣の右翼だけは他と比べて兵力が二倍になっている。なるほど……」


「これをどう思う勘助」



 勘助は図をじっくり眺めると一度図を置いて息をつく。



「合理的な布陣ではありますね。図を見た限り、右翼が孤立するようですが、それを見越して兵力を偏らせていますな。しかしただの横陣ではありませぬな。御屋形様、これは一体?」


「どうやら異国で使われる陣形らしい。昔どこかで聞いたやつを最近思い出してな。図に書いてみたのだ」



 嘘は言っていない。その昔が前世だったというだけで。



「今回勘助に来てもらったのはこの陣形が実際使えるかどうかを聞きたかったのと」



 そして、と続ける。



「常備兵について話し合いたくてな」

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農民から徴用するだけでは兵法を上手く使えないから常備兵を必要とするのは仕方ないね 問題点は常備兵は金食い虫になる為それを補う金稼ぎが必要になるよね
私の意見採用してくれてありがとうございます! 斜線陣(ロクセ・ファランクス)以外にも、レギオーというローマ式陣形というものもありまして、ウィキペディアなどで調べるとわかると思いますが、3列で1列を新…
飛騨から下野となると輸送ルートなかなか大変そう 梓川で日本海に出て越後から上杉謙信の侵攻ルート使って上野に出るか 上高地突っ切って松本盆地に出て東山道で陸路か 尾張に出て太平洋航路か東海道で南回りする…
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