表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
298/343

千本資俊来訪

新章開始です。

 下野国 祇園城 小山晴長


 那須政資の死、そして高資の山田館奪取。関宿からの帰還後にもたらされた情報に俺は頭を抱える。政資め、最期の最期で余計な情けをかけてくれたな。これで高資は一時的に息を吹き返してしまった。


 山田館を新たな拠点にした高資は早速上那須衆を中心に力を貸すよう呼びかけ、烏山城を奪った森田資胤の討伐を声高に唱えた。


 一方烏山城の資胤は下那須衆の掌握に動いており、すでに那須の重臣千本資俊は資胤に味方している。また政資の三男が養子入りしている上那須の福原家は政資を討った高資に反発し敵対の姿勢をとった。


 那須七騎のうち千本、福原が高資に与さなかったのは僥倖だが、大関は高資の味方をするだろう。大関は大俵の領土を奪っており勢力は那須七騎の中でもひとつ抜けている。蘆野、伊王野の動向は不透明でどっちに転ぶかわからない。


 そんな折、資胤に従う千本資俊が祇園城を訪れてきた。本来なら資胤の側で補佐をしなければならない資俊が自ら祇園城に赴くということはよほど人材が不足しているのだろうか。



「お初にお目にかかります。那須次郎が臣、千本常陸介資俊でございます。この度は下野守様にお願いがあって参りました」



 那須次郎か。自身こそ正統な当主と誇示するために名乗っているのか、あるいは森田と併用しているのか。



「願いというのは那須修理大夫の討伐か。実父を騙し討ちにして城を乗っ取ったと聞いたぞ」


「そのとおりでございます。修理大夫様は壱岐守様のご厚意を仇で返したのです。しかしながらそんな者でも大関をはじめ、従う人間がいるのも事実」


「なに、もともと次郎殿の保護という約束をしていたのだ。是非とも次郎殿の力になろうではないか。だが今年は厄災が起こるかもしれんぞ?」


「厄災ですか?」



 資俊は俺の言葉に首を傾げる。助力を求めにきたのに急に厄災の話になったことに疑問を抱いたようだった。だがこの話は那須も無関係ではないのだ。



「常陸介殿が存じているかはわからんが、今年の正月に東寺の弘法大師像が発汗したというのだ」


「はあ……」


「人々はこれを凶事の前兆として恐れているらしい。まあ、この話は置いといて、要するに俺は今年に厄災が起きると考えている。おそらくは飢饉と流行り病だ」


「なんと!?」



 最初はピンとこなかったようだが、今度こそ資俊の表情が驚愕に変わる。飢饉と流行り病となれば那須も他人事ではないからだ。



「飢饉なら去年の蝗害のことをよく覚えているだろう。あれで何割かの米が駄目になったことか」


「よく覚えております。元々烏山をはじめとした場所は米の収穫が少ない土地。冬場は悲惨なものでした。修理大夫様と壱岐守様の和睦もこれが原因でしたから。しかし流行り病もですか……」


「常陸介殿よ、今年は雨が多くなかったか?」



 そう問うと資俊はたしかにと頷く。年明けから小山でも大雨が降った日は例年より多かった。



「河川の氾濫によって病が蔓延しやすくなってしまった。夏場以降が山場になるだろう。多分だが過去に類を見ないほどの被害になる」


「そ、そんな……それでは我々は今年を越えられませんぞ」


「こちらもできる限りのことはしているが、相手は自然だ。少なくない犠牲者は出るだろうな。下手すれば戦どころではなくなる。まあ、食糧目当ての襲撃はありそうだが」



 特に高資。奴のことだ、飢饉の対策などしていないだろう。奴からしたら飢饉の備えをしている小山は餌でしかない。もし飢饉になれば何の躊躇いもなく周辺の村を襲ってくるはずだ。


 一方でこの千本資俊という男は那須に置いておくのが惜しい程度には話が通じる。厄災の話もすぐ納得していたし、領土の現状も理解できている。


 惜しむべきは彼を資胤から離せば資胤陣営が自壊しかねないことだ。彼らの地盤はまだ脆弱だ。山田館以南までは支配下に置いてはいるが、資胤に求心力があるかといえばそういうわけではない。



「改めてだが小山家は次郎殿の支援に協力するつもりだが、厄災が起きれば兵を派遣することは難しいかもしれん。そこは念頭に置いておいてほしい」


「かしこまりました。たしかにお話のとおりの厄災が起きればこちらも戦どころではありません」


「ああ、次郎殿にもよろしく伝えてほしい」



 資俊が祇園城を去ると家臣らを呼んで那須について話し合う。



「さて彼を見てどう思う?」



 そう尋ねると、まずは三郎太が口を開く。



「彼自身は聡明そうではありましたな。ですがその主君たる次郎殿の人となりはわかりかねます。まだ若年とは聞きますが、人を束ねる器量があるという話は耳にしたことがありません」



 続けて芳賀高規。



「真岡の叔父上からは常陸介殿は評判が良く、あの修理大夫からも信頼されていたと聞きました。たしかにあの受け答えを見ると納得です」



 やはり家臣たちの資俊への評価は高い。一方で主君の資胤については情報が少なく判断に迷っていた。高資一派から虐げられていたとも聞いているので果たして人の上に立つ器量が本当にあるのか不安な一面もある。


 だが資俊らの支持を受け、謀反を成功させたことから愚物というわけではあるまい。ここからどう家中を纏められるかが今後の判断材料になりそうだ。

もしよろしければ評価、感想をお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
新章開幕おめでとうございます! いよいよ下野統一編ですか・・・やっとここまで来た感じですね! 下野統一に邪魔な敵対勢力は、那須と足利長尾だけですかね? 無難な感じならまず古河遠征の傷を癒してから…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ