古河城奪還戦
しばらく更新できずに申し訳ございません。
諸々の事情が重なり更新が遅れてしまいました。
下総国 小山晴長
古河城奪還に向けて兵を下総に進める。だが太日川沿いに築かれた古河城は川が天然の堀と化しており、祇園城での軍議では兵力に任せた単純な力攻めで落とすのは難しいと結論づけられた。
そのため軍勢を俺が率いる主力が陸路を、三郎太率いる別動隊が筏で思川を通る二手に分けることにした。とはいえ向こうも川からの攻撃は想定していることだろう。三郎太の方は兵こそこちらより少ないが、その代わりに歴戦の将を配置しているので万が一の事態にも備えている。
「……小四郎、少し良いか?」
「公方様、どうかなされましたか」
進軍中、晴氏は俺の方へ僅かに馬を寄せると周囲に聞こえないように声を潜ませた。
「古河を取り戻すことが先決だとはわかっているが、幸千代王についてどう思う?」
「どうとは?」と聞き返せば晴氏は幸千代王丸の今後を憂いているようだった。
「幸千代王は祇園城まで儂についてきてくれたが、奴の母親は簗田高助の娘だ。もし古河城を簗田から取り戻したとしても公方家に反逆した家の血を引いている幸千代王は嫡子に相応しいだろうか?」
「……本人の素質云々についてはわかりかねますが、簗田の血を引いている点においては公方様のお考えどおりでしょうな。仮に簗田を滅ぼしたとしても簗田の血を快く思わない者は出てくることでしょう」
しかもよりによって公方への反逆というのが問題すぎた。幕臣や国人たちが口で従うと言っても心から信用できるかと言われれば否だ。もちろん後継が幸千代王丸しかいない現状のままなら彼が公方に就任することに表立って否定する者はいないだろう。だが実家が災いの種になっている状態を解決しなければ幸千代王丸が要らぬ心労を抱えることになる。
「はっきり申し上げて、今の状態では幸千代王様が嫡子で居続けることは要らぬ火種を生むことでしょう」
「……小四郎も幸千代王を支持できぬか」
晴氏の小さなつぶやきに俺は何も返せなかった。
正直今の幸千代王丸を積極的に支持する利点はない。簗田の件が解決して、他に男児がいなければ皆も幸千代王丸を後継として支持するだろうが、もし別の妾から男児が生まれれば話は変わる。その母の実家次第にもなるが、簗田の血を引く幸千代王より支持を得やすいと考えている。実家の後ろ盾がないどころか謀反を起こした幸千代王丸の立場は脆い。
晴氏が周囲の目を気にせず幸千代王丸を嫡子から外さない姿勢を貫くならばまだどうにかなるが、少なくとも今の段階では幸千代王丸を支持することは明言できなかった。
下総に入り、古河に放った斥候が戻ってくる。敵は数で劣るということもあって古河城に籠る選択をしたようだ。敵の数は簗田の兵に加えて古河城にいた幕臣らも含めて八〇〇余。こちらが三五〇〇なので戦力差は大体四倍強か。城攻めは十倍の戦力がいると言われているだけにやや心許ない。各々の奮戦に期待しなくてはな。
「公方様、古河城への木砲の使用の許可を」
「うむ、躊躇いなく使うが良い。謀反を起こした輩には苛烈な仕置が必要だ」
晴氏が古河城の損壊を嫌うかやや不安だったがそれは杞憂だったようだ。正式に古河城に木砲を使用する許可を得ると古河の城下まで進軍して軍勢を展開させる。但し北の大手門と東の御成門以外は水堀で囲まれているので主力はそこに集中することになる。思川から太日川に侵入する別動隊は南に下って川手門へ向かう予定になっている。
古河は古河足利の初代成氏が選んだ要地なだけあって堅固な城だ。簡単な攻城戦にはならない。だがこちらには修繕かつ改良した木砲がある。向こうも木砲の存在は知っているだろうが、実物の威力はまだ把握していないはずだ。もちろん木砲の火力を過信するつもりはない。最悪木砲が使えなくなる事態も想定しているが、木砲の有無次第では攻略の難易度が変わってくるにもまた事実。
今回は相手が晴氏に謀反を起こしたということと晴氏の意向もあって事前に使者を立てることはしなかった。一応加藤一族に内応すれば助命されるという噂を流させたがどこまで有効かはわからない。幕臣も反晴氏派だった者も多く、寝返り自体はあまり期待できない。
先陣は水野谷政村ら結城勢が務めることになった。
「では公方様、よろしいですね」
「うむ、頼んだぞ小四郎。古河を奪い返してくれ」
家臣に合図を出すと、彼らは鏑矢を太日川に向けて放つ。それが合戦の合図だった。
「放てえええええ」
そして鬨の声とともに木砲の轟音が響き渡り、弾丸が古河城に一直線に進む。
悲鳴と柵などが破壊される音が聞こえた。
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