表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
237/345

奉加

 下野国 祇園城 小山晴長


 田代三喜の協力を得られると俺は小山家が毘沙門天のお告げとして医聖とともに疫病対策に乗り出したと領内に広める。すると最初は医聖が変わったことをしていると不安がっていた民衆もお告げのことを知ると手のひらを返して積極的に協力するようになったというではないか。


 三喜は村八分にされるどころか毘沙門天のお告げの体現者として民衆からの支持が高まった。そして小山家もお告げを領内に広めたことで皆が飢饉に危機感を抱き、こちらの政策に協力してくれるようになった。特に水田の見張りについては念入りに人を配置するようになったという。村の長老たちは蝗害の恐ろしさを知っていたようで若者たちにその危険性を説いて回っている。河川工事も佳境を迎えており、順調にいけば雨季には間に合う予定だそうだ。これで飢饉や疫病が発生しなかったら色々問題だが、備えることに越したことはないだろう。


 そんな中、祇園城にある大名から書状が届いた。それは伊豆、相模、南武蔵、河東を支配する北条氏綱からだった。北条は小山家にとって石鹸の大口の取引相手ではあるが、これまで相模と下野という距離もあって直接的な交流はなかった。だが俺が下野守護に就任したことで本格的に接触してきたのだろう。


 書状の内容は俺の下野守護就任の祝いの言葉が遅れた非礼の詫びと北条が主導している鶴岡八幡宮再建事業の奉加を求めるものだった。北条は十年以上前から鶴岡八幡宮の再建に着手しており、当時から関東の諸大名に奉加を求めていたらしいが、山内と扇谷の両上杉をはじめとした北条に良い感情を抱いていない者たちは奉加を拒絶していた。それでも北条は妻の縁で京の近衛家を通じて大和の寺社職人を呼び寄せたりと着実に再建を進めていた。


 しかしこの世界の北条は史実と異なり房総半島に進出しておらず、財政面でも史実ほど豊かではなかったらしい。ここにきて資金繰りが厳しくなってきたようで俺に奉加を無心してきた。



「小山家が守護になった途端に犬のように擦り寄ってくるとは。他国の凶徒め」



 書状の内容を知った大膳大夫ら古参の家臣たちは北条に良い感情を抱いていないようで奉加には難色を示していた。



「まあ、それに関しては思わないこともないが、鶴岡八幡宮への奉加はしようと思う」


「なんと!?それはなぜなのですか」


「お前たちの感情はまあ理解はできる。だがな、たとえ北条の主導だろうが鶴岡八幡宮の再建は関東武士の悲願でもある。それに奉加についても上杉は拒絶しているが、公方様は奉加なさっておられる。小山家が奉加を決めても大きな問題にはならないだろう」



 それに資金難とはいえ北条ならば遠くないうちに自力で鶴岡八幡宮を再建することだろう。ならば先に奉加して北条に恩を売るのも悪くはない。この時期に接触してきたということは守護になったことで北条から利用価値があると見なされたと考えるべきか。ここで恩を売って交流を深めていければ飢饉の際に何かしらの助けになるかもしれない。


 問題は家臣の心情だが、古参こそ北条に良くない感情があるが、新参や若手はそこまで強い拒否感はないようだ。


 俺は大膳大夫ら古参を説得してなんとか鶴岡八幡宮の奉加を決めた。少なくない出費だったが必要経費だ。ちなみに小山家が奉加したことで結城も奉加を決めたらしい。そしてその後日、今度は俺の鶴岡八幡宮への奉加を知った晴氏から久々に書状が届く。房総半島を支配する晴氏は押し問答の末、来年に北条の姫を迎えることが決まっていた。


 書状には自分が主導で鶴岡八幡宮再建ができなかったことは無念だが、主導した北条には感謝をしている。しかし北条に関して油断はしていない。だがもし自分に力がなければ北条に縋っていただろうと書かれていた。


 たしかに史実では晴氏は北条に足利義明討伐を依頼していた。そしてその勢いに押されて北条の勢力拡大を招いていた。しかし今の晴氏は自力で義明を討伐しており、北条の力を頼っていない。北条に姫を押しつけられたが、今の晴氏の勢力は北条に劣っていない。それでももしも力がなければ北条の力を頼っていたと考える先見性に俺は舌を巻く。史実では名将とは言い難かった晴氏だが、この世界では様々な経験を得たこともあって名将と言っても過言ではなかった。


 この調子ならば北条に勢力拡大の大義名分である関東管領の補任もさせることはなさそうだ。俺としてもこれ以上の北条の勢力拡大は小山家にとって都合が悪い。扇谷上杉と山内上杉には悪いが北条への防波堤として頑張ってもらおう。ただし下野の山内上杉家の家宰である足利長尾に関しては話が変わるがな。以前の約束もあり、佐野家と敵対している足利長尾とは遠くないうちに相まみえることになるだろう。

もしよろしければ評価、感想をお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 反北条のおじいちゃん達は未だに伊勢って呼んでそうw
[良い点] 更新ありがとうございます。 史実では、前年の1538年に第一次国府台合戦で北条が勝利して氏綱は隠居後、家督を氏康に継がせていますが、晴長の物語ではまだ現役何ですかね? まあ久々の北条の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ