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君島広胤、挙兵

 下野国 祇園城 小山晴長


 船生城主君島広胤との交渉は成功に終わり、晩秋には広胤が周辺の国人を従えて塩谷義尾の救援のために兵を挙げた。今の塩谷領西部は元々宇都宮に従っていた国人が治めており、塩谷に侵攻された後に塩谷に下った新参が多い地域だった。またその彼らを下に見る塩谷家の重臣とは折り合いが悪く、広胤の声があったとはいえ、義尾に味方することに躊躇いはなかった。


 広胤らの援軍を得た義尾陣営は息を吹き返し、防戦一方だった戦況を五分の状況にまで戻すことに成功した。理想を言えば優勢に傾いてほしかったが、仕方あるまい。


 報告を聞く限り、どちらかと言えば義尾より広胤の活躍ぶりが目立つ。君島家は宇都宮家に従っていた頃から多功と並んで武功を誇っていた武闘派だった。塩谷に攻められた際は孤立無援だったこともあり、塩谷に降ったがその武は衰えていなかった。


 広胤は援軍およそ七〇〇の兵を率いて川崎城に参陣すると瞬く間に川崎城や義尾側の城を攻めていた岡本正重ら反義尾派の軍勢を返り討ちにした。反義尾派は重臣らが中心となっていたが所詮寄せ集めに過ぎず、敗北を喫すると川崎城からの撤退を余儀なくされる。それでも兵力だけはあるため各々の城で立て直しを図っていた。


 一方で義尾側も敵を退けたはいいが、そこから攻勢に転じるほどの余裕は残されていなかった。そのため今はそれぞれの睨み合いが続く膠着状態となっている。



「ある意味予想どおりの展開となったか。となると反義尾派の人間も状況打破のために外の勢力に援軍を求めるだろうな」


「外というと那須でしょうか」


「那須もだが、飛山宇都宮にも警戒をしておけ。それと反義尾派が国外の勢力に助けを求める可能性は低いがないとも言い切れん」



 仮に那須に助けを求める場合、前当主那須政資と現当主那須高資のどちらに動くだろうか。塩谷家は宇都宮家に反旗を翻した際に那須家と同盟を結んで宇都宮領に侵攻した過去がある。そのとき結んだのは高資だったが、その後、政資が高資を攻め始めたことがきっかけで高資は那須領に引っ込んでしまった。那須の助力を失った塩谷家は拡大路線から領土の保全に切り替えざるを得なくなった。


 それからしばらくして那須との同盟は解消されている。今でも交流自体は続いているようだが、軍事同盟は結んでいないようだ。噂によれば高資が塩谷家を下に見ていて無礼な振る舞いをしたのも原因のひとつだったとも聞く。那須から見れば宇都宮家の一族に過ぎない塩谷家は格下であっただろうが、独立性の強い塩谷家は那須との対等な関係を望んでいたらしい。


 対して那須の前当主である政資は現当主高資とそれを裏で支える大関宗増に反発しており、政資の伝手で常陸の佐竹や小田と結んで高資に挟撃を仕掛けていた。高資はそれの対応に追われており、居城の烏山城から動けない状況になっている。高資も陸奥国南部に勢力をもつ白河結城や母の実家である岩城と結んで対抗しているが戦況は政資がやや有利と言ったところ。


 そういった状況も相まって俺は段左衛門らに那須高資・政資親子、飛山宇都宮元綱の動向を中心に探らせるように命じた。那須に関しては反義尾派が動けない高資ではなく政資に救援を求める可能性が十分にあり得た。それに飛山宇都宮にとっても北部の塩谷の内紛は勢力を拡大させる好機であった。現在は塩谷と争った程度で目立った動きがなかった飛山宇都宮だがこのままではジリ貧になるのは理解できているはずだ。


 小山としても飛山宇都宮をいつまでも放置しているつもりはない。塩谷の件が落ち着いたら飛山宇都宮との決着をつけるつもりだ。宇都宮の正統後継者と騒がれても迷惑であるし、元綱が籠っている飛山城は芳賀家の城でもある。芳賀孝高や高規からしても高経の最期の地である飛山城はなんとしても取り返したいはずだ。


 俺としてもいつまでも宇都宮家のことで頭を悩ませたくない。もし大人しく降るのであれば家臣のひとりとしてしばらく僻地に置くつもりだが、多分抵抗してくるだろうな。


 そして年末が近づく頃、情報収集をしていた段左衛門から報告を受け取る。



「なるほど、内匠頭は修理大夫ではなく、壱岐守に助けを求めるつもりか。それに飛山の弥三郎も動きを見せていると。想定の範囲内ではあったが、下手に介入されれば面倒なことになるな」



 正重は高資ではなく政資に援軍を申し入れるつもりらしい。後手を踏んでいる高資より勢いのある政資の方が頼りになると読んだのだろう。もしくは高資では援軍を派遣してくれないと思ったか。元綱も好機が見えない愚者ではなかったようだ。内紛で疲弊しているところをかっさらうつもりなのだろう。


 当初は来年に兵を動かすつもりではあったが、予定を早める必要が出てきたな。俺は小姓らに今すぐ重臣を集めるように指示する。



「集まってくれたか。たった今、段左衛門からの報告で内匠頭が那須壱岐守に援軍を要請するつもりであることが発覚した。それに飛山宇都宮も動きを見せているという。このままでは他勢力が塩谷の内紛に介入して事態は悪化することだろう。そこで小山は事態の悪化を防ぐために時期を前倒しにして兵を動かすつもりだ。皆の者、戦の準備を急げ」


「ははっ!」


「孫四郎殿の救援には俺自ら兵を率いて参陣することにする。それと同時に宇都宮弥三郎の動きを封じるために芳賀刑部大輔と山本勘助に別動隊を率いて飛山城に牽制をかけてもらう」



 当初の予定では総大将は大俵助九郎改め備前守に任せて俺は出陣しないつもりであったが、政資の援軍や元綱の介入の可能性を踏まえて俺が主力を率いて出陣することにした。


 資清には事前に状況次第で俺が出陣することになることは伝えていたため、大きな混乱は起きなかった。


 そして着々と戦の準備が進められていく中、俺は竹犬丸と富士のもとを訪れていた。



「また戦ですか。仕方ないこととはいえ些か多いのではないでしょうか」


「それを言われると耳が痛いな。本来なら壬生を滅ぼした後はしばらく内政に専念しようと思っていたのだが、塩谷が内紛を起こしてしまったからな。あそこは資源が豊富だ。他の勢力に奪われるのは避けたい」


「私には難しいお話はわかりません。ですがこのままですと民が疲弊してしまいますよ」


「わかっているさ。これが終わったらしばらくこちらからは攻めないさ。飛山は早めにどうにかしたいのだがな。なあ、竹犬」



 竹犬丸に笑いかけると、竹犬丸はうー、うーと呻きながら俺の顔へ手を伸ばしてくる。産まれたばかりの頃は俺の顔が怖かったのかよく泣かれたものだが、足繫く竹犬丸のもとに顔を出していたので今では俺がいても泣くことは少なくなってきた。



「ははは、竹犬は可愛いな。富士、普段の竹犬はどんな様子なんだ?」


「大人しいものですよ。あまり侍女の手も煩わせませんし。夜泣きも酷くありません。ただ年配の侍女が言うには竹犬はやはり年相応だと。御屋形様のときがおかしかったと言っていましたが……」


「あー……」



 俺は富士の疑問に曖昧に誤魔化すしかなかった。俺は赤子の頃から前世の記憶があったからなあ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 追加の感想です。 これから小山家は塩谷宇都宮家の内紛をきっかけに、史実の喜連川家精鋭16騎川崎城奪取戦が発生し下野国内外の反小山家勢力が連鎖的に呼応する大規模な大乱になり、敵対勢力は塩谷…
[一言] 下野国だと常陸国獲って国人・小大名クラスは鎧袖一触程度にならないとずっと細かい問題がついてきそう
[良い点] 更新ありがとうございます。 毎日19時頃になると、今日は更新あるか楽しみにしてます! 考察した君島広胤が活躍してるのが凄く嬉しいです、このまま評価され小山家重臣入りして晴長の物語りに登…
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