表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
230/345

君島広胤と芳賀孝高

 下野国 船生城 君島広胤


「かしこまりました。その条件でなら、我らは孫四郎様にお味方いたします」



 小山からの使者が城を後にすると、家臣たちが儂に詰め寄ってくる。



「殿、よろしいのですか。いくら相手が下野守護とはいえ、あっさり条件を呑んでしまわれて。彼らは我らを尖兵にするつもりなのですぞ」


「重々承知の上だ。たしかに小山は我らに小山への従属を表明した孫四郎様に味方してほしいと言った。だがその見返りとして米などの物資の提供、鬼怒川の治水の援助、日光への牽制を申し出てくれた。これは敵対勢力下の一国人に対して破格の待遇だ。領土の事を考えれば断るという選択肢はなかった」



 もしその援助が空手形ならば儂も簡単には首を縦に振らなかった。しかし使者は前払いとして米を持参しており、こちらの思惑を見抜いていた。また今回舅殿が小山の使者と同席していたのも大きい。元々小山に従属していた舅殿を通じて小山とつながることになったわけだが、その舅殿からは小山を侮るべからずと忠告を受けていた。


 実際前払いとして少なくない米や麦の提供だけでなく日光が塩谷領に手を出さないという書状も渡していただいたときは顔が引きつりそうだった。まさか一国人に対してここまで手厚い援助をしてくれると誰が思う。逆に言えばここまでやったのだからと断らせる気をなくさせる手段でもあるが、それにしても豪快というか大胆というか。


 儂も元々塩谷が那須と結んで小山に対抗することについて疑問を抱いていた。内紛状態の那須のどちらと結ぶのかはっきりしていなかったし、実際結んだところで那須に良いように扱われるだけだ。だが塩谷の重臣らは小山への反抗心のみで動いているため、そんな現実は見えていない。天的様はすでに塩谷の将来が見えていたというのに。


 方針を巡って塩谷で内紛が勃発した際は孫四郎様につくつもりではあったが、日光で怪しい動きが報告されたので身動きがとれずに支援要請を断らざるを得なかった。しかし今回小山のおかげで日光の動きは封じ込むことができ、小山の要請に従ったという体で孫四郎様の救援に向かうことができる。状況はあまり良くはないが大宮や玉生、風見などの周囲の者などにも話をつけて味方についてもらうとするか。鬼怒川沿いの国人らが軒並み孫四郎様に味方すれば状況はかなり変わるはずだ。



「しかし舅殿もお人が悪い。小山を侮るなとは言われていましたが、ここまでとは思いませんでしたよ」


「御屋形様はいい意味で普通の人間とは違っているからな。従属の身であるゆえ、小山家の詳細は知り得ないが、御屋形様は船生城を、そして備中守殿を高く買っているらしい」



 小山の使者には同行せず船生城に残った舅殿は緊張の糸が解けたのか大きく息を吐いて肩を回す。



「おそらく小山は小山に従属の意思を示した塩谷孫四郎殿に勝ってほしいのだろうな。だがすぐ動けないのか先に備中守殿を動かしてきた」


「ええ、小山も戦続きでしたから。来年からなら動けるでしょう。我らはそれまでの時間稼ぎに過ぎません」


「そこまでわかっているのならなぜ引き受けた?」


「ただ働けと言われたら相手が守護だろうと断ったでしょう。ですが小山は我らが欲しかった物をすべて用意してくれました。それも空手形ではなく。治水に関してはこれからでしょうが、ここまでしてきた小山が翻意にすることはないでしょう。君島の家を考えれば断ることはできませんでした」



 さすがは自力で勢力を拡大し、守護に返り咲いただけある。元主家の宇都宮家も塩谷家もここまで施しを与えることはなかった。



「舅殿のところは小山に従属して何か変化はありましたか?」


「変化か。一言で表すなら豊かになったな。小山との通商で高経のときより商業が活発になったわ。領土は狭くなったが、小山はこちらに干渉してくることはあまりないな」


「次郎右衛門殿が人質になったとは聞いておりますが」


「あれは儂の独断で送ったもので小山からは求められていない。だが小山も送り返すことはせずに側近として働かせているようだ。待遇も悪くないらしい。ああ、そういえば」



 そこで言葉を区切ると、一度咳払いをして先ほどより小声でこう漏らした。



「これは儂の推察だが、小山は塩谷をそのまま従属させる気はなさそうだ」


「っ、それはどういった意味で……?」



 舅殿は周囲を見渡して人がいないことを確認するとさらに小声になる。



「御屋形様は内紛を収められずに小山に助けを求めた塩谷を良く思っておらん。従属の意思を示したからこそ、こうして骨を折っているが、いざ従属したら塩谷領は削られるだろうよ。塩谷には資源があるからな」


「まさか……」


「他人事ではないぞ、備中守殿。そなたもその渦中にいるのだから」


「それは、我らの領土も削られるということですか」



 舅殿は黙って首を横に振る。ではどういう意味だ?



「事が上手く運べば君島は塩谷家から独立できるかもしれない。そういうことだ」

もしよろしければ評価、感想をお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 追加の感想です。 古河公方から正式に小山家が、下野守護に任命され国内の敵対勢力から小山家の飛躍は恐れられていると思いますが、下野国外にも小山家の名声は轟いていると思いますが、国外の外交は…
[一言] 広胤殿、義尾殿より遥かに役立ちそう。 君島が塩谷から独立すれば広胤を直臣に出来ると言う訳か……さすがは下野守様! まあ、御家騒動も自力で解決出来ない塩谷は今後足を引っ張りかねないからな……さ…
[良い点] 更新ありがとうございます。 考察した君島広胤を物語りに登場させて頂きありがとうございます。 君島家は塩谷西部一帯に影響力がある家ですから、近隣の国人領主達は味方になると思いますし、武勇…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ