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榛名山

 下野国 祇園城 小山晴長


 しばらくの間、祇園城に滞在することとなる結城若王丸が結城の人間を伴って俺に挨拶をしに現れた。まだ十歳に満たない年齢だが義兄上の教育が行き届いているのか年齢の割にしっかりとしていた。


 ただ気になったのはその身体だ。現代と比べて小柄なこの時代の人間ということを加味しても同年代の子供と比べて若王丸はかなり華奢で線が細い。病弱ということが影響しているのだろうが細すぎて腕など簡単に折れてしまいそうに思えた。たしかにこの体格で病弱ならば彼の未来を不安視するのも無理はない。あまり外に出ないのか肌の色も青白く、それがさらに華奢な印象を強めている。


 三喜に診てもらってどこまで改善されるのかはわからないが、義兄上も一縷の望みに賭けているのだろうな。三喜は医術だけでなく薬学にも精通していると聞く。薬膳などで体調を整えさせるのだろうか。


 若王丸との挨拶を終えたあと、俺は重臣らと榛名山確保のための最終調整に入っていた。榛名山は元宇都宮家臣の新田徳次郎の領土に含まれている。まだ一部を除いて内密にしているが実はこの山からは金が採れる。現代では篠井金山と呼ばれていた。


 まだ金が採れることが判明していない段階で俺は榛名山の確保に動いた。もし金が採れると判明すれば新田は榛名山を手放さないだろうし、他の勢力が榛名山を狙ってくるだろう。そこで榛名山を小山家の直轄地にするべく新田に交渉を持ちかけた。突然新田の領地にある榛名山を直轄地にしたいと言えば当然新田も怪しむだろう。なので俺は対塩谷、対那須のために榛名山に砦を築きたいという理由をつくり、そのために榛名山近辺を直轄地にしたいと新田に伝える。もちろん新田もただで領地を割譲するわけがないので、代替地として塩谷宇都宮良綱に寝返って滅ぼされた国人の旧領の一部を渡す条件をつけた。


 最初は新田側もそこまでこだわりがないとはいえ新田領の榛名山を渡すことに渋っていたが、代替地の貫高が榛名山より多いこと、榛名山に砦を築くという理由には納得していたこと、そして決め手に榛名山以外の本貫地の所有が認められたことでようやく榛名山を手放すことに同意し、先日新たな所領安堵状を発布したところだった。当然新田徳次郎の所領に榛名山は除かれている。



「しかし御屋形様、いくら砦を築くためとはいえ、あんなにもの代替地を与えるなど新田殿には好条件過ぎませんか?」


「いや、新田が確実に榛名山を手放させるためならあの程度の土地は安いものだ。まあ、結果的に領地が増えた新田は近隣から多少妬まれるだろうがな。統治に問題が出るならばそのときはそのときだ」


「御屋形様はそこまで榛名山を評価しているようですが、儂にはそこまで榛名山に戦略的価値が見出せませぬ。たしかにあのあたりは小山家の影響力があまり強くなく、砦が築けることに越したことはありませんが、榛名山は要害とは言い難いですぞ」



 他の重臣たちもその言葉に同意するように首を縦に振る。まあ、今の段階だとそれが自然か。そろそろ情報を解禁するとしようか。



「たしかに榛名山は要害というわけではない。だが榛名山の真の価値はそこではない」


「というと?」


「金だ」



 砦を築くために直轄地にしたと聞いていた中で出てきた予想外の言葉に重臣たちがざわめきだす。



「これまで情報漏洩を懸念して伏せてきたが、榛名山からは金が採れるらしい。密かに段蔵らに頼んで山師と一緒に探らせたところ、たしかに金が確認された」


「では榛名山は金山だというのですか!?ならば御屋形様があそこまで榛名山にこだわっていた理由はもしや……」


「ああ、下野で金山があるというのならとらない理由はないだろう。問題は新田領だったことだがそこは解決できた。本当は砦を築きたかったのだが、金が採れると判明してしまったなら榛名山に砦が築けなくても仕方がないよなあ」



 俺は今すごく悪い顔をしているかもしれない。まさか新田も手放した榛名山が金山とは思いもしなかっただろう。もし金山だとわかって返してほしいと言われてもすでに榛名山は直轄地となっている。金山と発覚したので当初の目的である砦が築けなくなっても文句は言えない。まあ、金山の守備のために別の場所に砦は築くつもりなのだが。



「今まで情報を明かせなくてすまなかったな。この情報は絶対に周囲に漏れてはいけなかったので万が一のことに備えて最後の最後まで伏せさせてもらった。決してお前たちを軽んじたわけではないことを理解してほしい」


「たしかにこの情報は危険すぎます。御屋形様の判断は賢明だったかと」


「そうでございます。もし新田殿にこのことが知られれば必ず榛名山は手放さなかったでしょうから伏せる理由も理解できます」



 重臣たちは重大な情報を伏せられたことに不快感を示すことなく、むしろ俺の判断を支持してくれた。



「だが金山と発覚した以上、榛名山の価値は一国に値する。そのため榛名山ではなくその周囲に砦は築くつもりだ。弦九郎、お前が責任者として砦を築き、金山の採掘を監督しろ。安心してくれ、山師は加藤一族に命じて確保している。どうやら鹿沼には山師が多くいたらしい」


「そんな重大な責務を私に。かしこまりました、必ずや御屋形様のご期待に応えてみせましょうぞ」


「頼んだぞ。この金山は今後小山家の重要な資源となる。絶対に死守しなければならない財産だ。皆の者もその覚悟でいるように」


「「「「「ははっ!!!!!」」」」」

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― 新着の感想 ―
[良い点] あーーー!そういえば篠井の金堀唄ってあった!!
[一言] 金山か………事は慎重に運ばなければならんな。 バレたら群がって来る連中が、まだ居るからな。
[良い点] 更新ありがとうございます! 以前考察した篠井金山を評価して頂きありがとうございます。 篠井金山守備の為に砦を作ると出ていますが、砦の建設と同時進行で篠井金山から北にある小林地区と船生地…
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