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昌安の行方

久々の投稿になります。

 下野国 祇園城 小山晴長


 それは段左衛門らに昌安のことを調べるように命じてから少し時間が経った頃だった。ある日の深夜、俺の寝屋に人影が音もなく現れる。気配を感じて浅い眠りから覚醒すると一瞬で刀を手元に引き寄せたが、その正体に気づくと警戒を解いた。



「段左衛門か。どうした?」


「御屋形様、昌安の動向がようやく掴めました」


「段左衛門にしては少し時間がかかったな。それでどうだった?」



 段左衛門は一度呼吸を整えるとゆっくりと口を開く。



「はっ、昌安はすでに死亡しており、その死は昌念らによって秘匿されておりました」


「なんだと?」



 昌安がすでに死んでいただと。しかもその死が隠されていたとは考えもしていなかった。なるほどそれは段左衛門も調べるのに時間がかかったわけか。


 桜本坊昌安は村井城の戦いが起こる数か月前にこの世を去っていた。なんでも湯治場で地元の民に狼藉を働いたところ、逆に民に殺されてしまったらしい。それを受けた昌念らは昌安が病に伏せたと偽ってその不名誉な死を周囲に隠していたという。まさか城主が狼藉を働いて地元民に返り討ちにあったなんて口が割けても言えるわけがない。昌念らが昌安の死を隠したのも当然のことだろう。


 そして昌安の跡を継いだのが祇園城に使者として現れた昌念という男なのだが、この男こそが今回の小倉城寝返りの主犯だった。昌念は以前から前権別当だった壬生綱房の次男昌膳と親交があり、彼の実家である壬生とも距離が近かった。また昌安に仕えながらも独自に壬生と接近していたようで、完全に壬生の息がかかっていた。


 反壬生派だった昌安が急死すると、小倉城主の座には昌安の右腕だった昌念が収まることになる。昌安には家族がいなかったからだ。また武辺者ながらも乱暴な一面も見せた昌安より昌安を裏で支えていた昌念の方が衆徒に慕われていたことも影響した。


 昌念は病に伏せた昌安に代わって政務を執りおこなうという名目で小倉城代を名乗ると早速壬生に密使を送り、昌安の死と後任に自分が収まったことを知らせる。その情報を得た壬生は昌念と共謀して小倉城の壬生への寝返りを画策する。しかし昌安が反壬生、親小山だったため小倉城の人間は親小山派の者が多かった。そこで昌念と壬生は城内に小山は鹿沼城の次は小倉城を狙ってくるという偽りの情報を流して小山に対し疑心暗鬼を生み出した。


 親小山派の人間に小山への不信感を植えつけると今度は側近として壬生の人間や息がかかった人物を内部に組み込んで少しずつ壬生派の人間を増やしていった。そしてついに壬生派が主流になると満を持して壬生に寝返って村井城攻めに参加したという。



「なるほど、それが小倉城寝返りの真相だったか。まさか昌念が壬生の間者だったとはな」



 結果的に小倉城は壬生に寝返り、村井城を攻めてきたわけだが右馬助らの増援によって壬生と小倉勢は敗退した。小倉勢は撤退が遅れたことと壬生に殿を押しつけられたことで大きな痛手を負うことになった。大将だった昌念は負傷し、部将格の者も何名か討ち取られたらしい。しかし小倉城の寝返りによって小山と日光が完全に分断されることになってしまった。


 後日、権別当として送り込んだ石若丸から小山に助力を求める声が届く。ただでさえ昌膳の乱で弱体化していた日光だが塩谷宇都宮良綱の南下による猪倉城落城と今回の小倉城寝返りによってさらに力を落としてしまったからだ。特に小倉城寝返りは大きく、桜本坊そのものを失ってしまったことになる。目の前には塩谷宇都宮が健在でいつ攻め込まれるか不安だそうだ。



「日光は今組織を立て直している真っ最中とは聞いております。石若もよく頑張ってはおりますが、先の乱の影響は大きい模様です」


「昌膳に与した連中を軒並み追放したからな。武闘派もそれなりに多かったらしい。周囲の支えもあるだろうが、若い石若には荷が重いだろうな」



 弦九郎は心配そうに石若丸のことを案じていた。弦九郎は石若丸が小さい頃から知っており、弟のように可愛がっていたはずだ。


 助力を求めてきた石若丸には日光の窮地には救援を向けることを伝える。しばらくは動けないが秋以降は兵を動かせる予定だ。ただ日光を救援するためにもどうにかして壬生を排除しなければならない。壬生を鹿沼城に押し込むことまではできているが、残されている家臣らは忠誠心が高く、内通させるのが厳しくなってきた。一方で周長を味方にしたことで鹿沼城の構造の情報は得ることができたのは大きい。


 しかし壬生だけでなく良綱や元綱、那須の動向にも気をつけなければならない。多気山城以南の城を奪われた良綱は那須との接触を早めてくるだろう。那須も内紛中だがこちらに手を伸ばされてはたまらない。良綱が動く前に先手を打つ必要もありそうだ。

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