深津城の軍議
難産でした。もしかしたら大幅に直すかもしれないです。
下野国 深津城 小山晴長
宇都宮良綱が動いたということで俺は今後の動きをどうするか軍議を開く。本丸の屋敷は半壊していたため軍議は本丸の庭でおこなわれた。
「御屋形様、ここは深津城を出立して民部大輔を向かい撃つべきです。兵力ではこちらが勝っております。野戦ならば十分勝機はあるはずです」
右馬助らは多気山城から出陣してきた良綱を野戦で向かい撃つべしと主張する。その一方で一部の将からは反対の声が挙がっていた。
「お待ちください。兵は二度の城攻めで疲れております。兵力で勝っていても兵が疲労していては元も子もありませぬ。目標としていた北原城と深津城は落とせました。ここは一度兵を退けるのもひとつの手でございます」
「なんと弱気なことを。ここで退けば小山は民部大輔に臆したと笑われますぞ」
「しかし戦を一日に三度もすれば兵は満足に動くことができぬぞ。疲労困憊の兵を戦わせても仕方なし。勝てるものも勝てんぞ」
「城攻めといっても大した労力はかからなかったではないか。少し休ませれば動けるはずだ」
議論は白熱していくが退くか進むかで武将たちの意見は完全に分かれていた。
「段蔵、民部大輔の動きはどうなっている?」
「はっ、そのことなのですが、民部大輔は赤川を渡河せず、赤川付近で一度進軍を止めたまま動きはございません」
「赤川を渡河せずに動きが止まった?赤川が増水でもしていたか?」
「いえ、増水はしておらず、渡河も可能な水位でした」
増水していないのに南下を止めた?深津城の落城を知ったからか?いや、それならば動きを止めずに撤退か進軍かのどっちかに選ぶはず。わざわざ赤川を渡河せずに居座っている理由はなんだ。
もしや良綱は赤川で俺たちを迎え撃つつもりか。良綱が赤川を渡河すれば深津城近くを流れる武子川に到着するまでしばらく何もない平地が続く。兵数で劣る良綱にとっては不利な地形だ。だからこそ良綱は赤川を渡河せずに動きを止めたのか。
だが俺は良綱の動きに違和感を拭えなかった。赤川付近も川は流れているがそれ以外は平地だ。何もない平地よりは戦いやすいだろうが、わざわざそこで迎え撃つ利点はさほどないように思える。それに赤川は多気山城の南を流れている川で多気山城との距離も近い。そんな場所でわざわざ待ち受ける必要があるのだろうか。まるで俺たちを赤川に誘い出しているような。
壬生の動きがないというのも気になる。多気山城を攻めた際は良綱と綱房は連動していた。それなのに今回は良綱だけが動いている。兵が動かせない事情があったとしても綱房がまったく動く様子がないのは不自然だ。もちろん良綱の独断という可能性も捨てきれないが、それ以上に綱房の存在が不気味だった。なにか嫌な予感がする。
「段蔵、壬生はどうだ?」
「依然動きはありません」
「御屋形様?」
右馬助らが顔をしかめる俺を不思議そうに見つめる。
「……よし、右馬助」
「はっ、なんでございましょうか」
「右馬助には五〇〇の兵を与える。その者らを率いて鹿沼へ向かえ」
「えっ、鹿沼でございますか?」
「ああ、攻めるわけではない。右馬助には壬生を牽制してほしいのだ」
「なるほど、かしこまりました」
俺が恐れたのは良綱の誘いに応じて本隊を北上させた隙を綱房に突かれることだった。もし良綱と赤川で戦うことになれば背後で綱房が動いてもすぐに対応するのは難しい。良綱との戦には勝てるかもしれないが、相応の痛手は負うだろうし赤川まで引き出されていれば鹿沼に向かうにも時間がかかる。
だからこそ右馬助らを鹿沼に向かわせることにした。今の壬生には五〇〇でも十分な牽制となる。もし妙な動きをしてきても五〇〇と村井城の兵を合わせれば対応できるはずだ。
「段蔵は赤川の民部大輔の動きを監視し続けろ。奴の動きを見過ごすな」
「ははっ」
「残りの兵は深津城で休息をとらせる。向こうが動きを見せれば話は別だが今日はここで待機する。十分英気を養え」
俺は赤川へ向かわずに深津城から動かないことに決めた。五〇〇を鹿沼に割くことにしたので動かせる兵力が一三〇〇ほどになるからだ。一三〇〇で一〇〇〇を相手するのは少々心許なかった。
「ついでに勘助にも伝令を。一〇〇〇の兵をいつでも動かせるようにせよと」
そして増援として宇都宮城の勘助に一〇〇〇の兵を要請することにした。一〇〇〇を動かすとなるとその分宇都宮城が手薄にはなるが、もう一〇〇〇も残っているのでなんとかなるはずだ。
右馬助は五〇〇の兵を率いて深津城を出立し鹿沼方面へ向かった。綱房が牽制を警戒して何もしないならよし、牽制を物ともせず動いてくれば右馬助が対処することだろう。鹿沼に兵力を割いたことで深津城にいる俺は鹿沼のことを気にせず良綱のことに集中できる。
俺が動かないことを知って良綱はどう動いてくるか。大人しく多気山城に引いてくるのか、あるいは赤川を渡河して深津城を目指すのか。だが予想に反して良綱は赤川から動くことはなかった。どうしてもこちらを赤川に引き込みたいのかわからないが、引くことすらしなかったということは赤川在陣に何かしらの狙いがあるのだろう。
一方鹿沼に向かった右馬助からの伝令によると、右馬助らは鹿沼城の南東にある茂呂山に陣を張って鹿沼城を監視しているそうだが、鹿沼城から狼煙が上がっているとのこと。目的は不明だが綱房が何かしら動きを見せる可能性があった。しかし茂呂山の右馬助らを警戒したのか、その日は綱房が動きを見せることはなかった。
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