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北原城・深津城攻め

 下野 小山晴長


「北原作右衛門が降伏を申し入れてきただと?」



 二〇〇〇の兵で宇都宮城を出立し、北原城を包囲すると北原城から降伏を告げる使者が現れたとの報告を受ける。



「いかがなさいましょうか」


「降伏は受けつけぬ。使者を追い返せ」



 普段なら兵の消耗を防ぐために敵が戦わずに降伏を申し入れてくれば素直に受け入れていた。しかし今回は違う。今回攻める北原城や深津城、岩原城は一度小山に下る機会を一蹴し良綱につくことを選んだ。つまり自ら小山の敵になることを選択したのだ。そんな奴らが降伏したところで信用できるわけがない。基本小山は外様や新参に寛容だが時勢も読めない奴らを受け入れるほど人材不足ではないのだ。


 降伏を受け入れられなかったことに使者は動揺していたようだが、初手の選択を誤ったことを思い知ると踵を返して慌てて城へ逃げ帰っていく。


 使者が城に戻ったことを確認すると俺は側に控えていた高規に法螺貝を吹かせて開戦の合図を送る。


 戦は一方的なものだった。元々城とは言いつつも武士の館に過ぎなかった北原城が二〇〇〇の敵に耐えられるはずがなかった。城兵も一〇〇足らずで碌な抵抗もできなかった。四半刻もしないうちに北原城は落城し城主北原作右衛門は討ち死に。兵もほとんど討ち取られたが城には女子供の姿はなかったので事前に逃した可能性がある。


 暫しの休息を取らせたあと、俺は北原城には入城せずにわずかな兵だけ置いて姿川沿いを通って深津城へ進軍を開始させる。その道中、先に深津城の偵察に向かわせていた加藤一族の者から深津城から多気山城の宇都宮良綱に救援を求めた使者を捕らえたことを知らされる。


 深津城主小林豊後守は北原城の惨状に怯えていたらしくすぐに使者を向かわせていた。しかしその動きを掴んだ加藤一族の者に使者は呆気なく捕らえられた。尋問したところ、簡単に多気山城へ救援を求めたことを吐いたらしい。特にそれ以上の情報や物品が出てこなかったようなのでその使者は処分することにした。


 良綱にも北原城の顛末が伝えられていると思うが、今のところ大きな動きはないようだ。ただ壬生に援軍を求める可能性が高く、あまり時間はかけていられないのも事実であった。


 進軍を急がせて深津城を包囲すると使者を捕らえられたことを知らない豊後守は籠城の構えを見せていた。深津城は館に過ぎなかった北原城とは異なり、小規模ながら城郭の形を成していた。城の周囲には土塁と二重の空堀が巡らされている。さすがに戦う意欲が低かった北原城より時間はかかりそうだ。


 俺は降伏勧告をせずに深津城への総攻撃を開始させる。敵はいきなりの総攻撃に動揺したようで真正面から小山の攻撃を受けることになる。深津城は主にふたつの郭で構成されており、本郭より二の郭の方が規模は大きく城の出入り口は大手口と搦手口の二カ所のみだった。


 大手口は二の郭にあるので双方の主力がそこでぶつかった。また今回は搦手に伏兵を配していて、城から逃げてきた兵をそこで討ち取るつもりだ。なぜ最初から搦手を攻めないのかというと、初めから搦手も攻めてしまえば敵は逃げ場を失い、覚悟を決めて死兵と化してしまうからだ。死兵というのは恐ろしく、兵力差があってもこちらに甚大な被害を与えることができてしまう。だからこそ先に逃げ場を用意することで敵が死兵となるのを防ぐことができる。また逃げ場があれば兵は安易にそこから逃げ出すので士気を折りやすいというのもある。


 深津城を攻め始めて少し経った頃だった。多気山方面を監視していた段蔵から報告が入る。



「申し上げます。川崎城からの増援の兵がまもなく多気山城に到着する模様です。その数、およそ八〇〇ほど」


「八〇〇か。少なくない兵を送り込んできたな。おそらく本来は多気山周辺を治めるための兵だっただろうが、今の民部大輔にとっては大きな援軍か。これは動いてくる可能性があるな」



 元々五〇〇あたりの兵が多気山城にいたわけだから増援を含めれば一三〇〇。兵を多少残すとはいえ一〇〇〇は動かせる計算となる。それでも小山の二〇〇〇には及ばないが壬生も兵を出してくれば兵はさらに増えてくる。そうなると後詰にくる可能性も大いにあった。



「段蔵、壬生と多気山城から目を離すな。弦九郎、戦況はどうだ」


「はっ、先ほど先陣の一部が城内への侵入を果たしました。敵は寡兵で士気も低く、想定より早く攻略できそうです」



 敵は大軍に包囲されて士気が低いらしい。豊後守も寡兵でなんとか攻撃を凌ごうと頑張っているが兵力と士気で負けている状態では耐えることも難しかった。ついに大手口は攻略され、先陣は城内へ突入する。また側面からも空堀や土塁を突破した兵がなだれ込み、勝敗は決した。



「小林豊後守、討ち取ったり!!!」



 そんな声も聞こえた頃には深津城は陥落し、搦手から逃げた兵も伏兵の餌食となった。


 城主の小林豊後守は大手口が突破されたとわかると我先にと搦手口から逃げ出そうとしていたが待ち構えていた伏兵に囲まれてしまったらしい。最期は命乞いもしたというが、俺が降伏を許さないことを鮮明にしていたこともあって、兵士は聞き入れることなく容赦なく槍を突き刺して首を討ち取った。


 小林豊後守をはじめ北原城同様城兵はほとんど討ち取られた。最近では俺が敵に甘いのではないかという声も聞こえていたので、今回のことで小山に仇なす存在には容赦がないと再認識させることができた。



「御屋形様、多気山城から兵が下りてきました。その数、一〇〇〇。壬生には動きはありません」



 そうか。深津城の救援に動いたのか?だが壬生が動いていないというのは気になるな。意見のすり合わせができなかったか、あるいは良綱の独断か。


 深津城にも兵を残すことと戦傷兵のことを考えると動かせるのは一八〇〇といったところか。しかもこちらはすでに二戦していて疲労もある。さて、どう動くべきか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が辺りをしっかりと警戒するようになったこと。 故に壬生が怪しげに見えるようになったのが良いですね〜 [一言] 偉そうな言い方で申し訳ないです。
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