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塩谷宇都宮と飛山宇都宮

 下野国 宇都宮城 小山晴長


「申し上げます。深津城、北原城、岩原城が宇都宮民部大輔側に転じました」



 段蔵がもたらした報せに俺は軽い頭痛を覚える。小林豊後守の深津城、北原作右衛門の北原城は宇都宮城と多気山城の中間に位置し、それぞれが多気山城の支城としての役割を果たしていた城で、高橋備前守の岩原城は多気山城から東に半里ほどの位置にある城である。


 彼らは新田らと違って小山に寝返らなかった宇都宮勢だったが多気山城陥落を受けて小山側に転じるように調略を進めていた。しかし彼らは小山より壬生綱房が支持する宇都宮良綱の方を選んだ。仇敵に仕えるくらいなら宇都宮の人間を選ぶ。彼らはそんな思いだったのだろう。


 しかし彼らが良綱──以後塩谷宇都宮と呼ぶ勢力に転じたことで宇都宮城が対塩谷宇都宮の最前線となってしまった。平城で重要拠点である宇都宮城が最前線になったことは俺にとって歓迎できない事態だった。もし三城が小山に臣従していれば逆に多気山城包囲網が完成し今後の対塩谷宇都宮で有利に働いたことだろう。


 また岩原城の高橋備前守が良綱についたことで宇都宮城の北に領土をもつ新田徳次郎は自領のすぐ隣に塩谷宇都宮領が接する事態になってしまった。当然徳次郎はその状況に不安を抱いており、俺に多気山城攻めをしてほしいと願い出る。



「多気山城攻めか。たしかにこのままではいつ新田のところを攻められて不思議ではないな」



 それにこれはまだ周囲に言っていないが新田領にある榛名山という山は史実では富井鉱山あるいは篠井金山と呼ばれる金の産出地でもあった。この段階ではまだ榛名山に金が出ることは判明していないが、なんとしても榛名山は小山の物としたい。できれば直轄地にしたいので新田徳次郎の扱いにも困るが、敵に奪われるのはさらに避けたいところ。それに今の状況だと宇都宮城が最前線になるのでなんとか多気山城の支城は落としたいのが本音だ。


 幸い宇都宮城には兵糧があったのでこのまま城攻めできる準備は整っている。しかし兵を動かすにあたって気になるのは飛山城に逃れた宇都宮元綱らの動向だ。元綱が飛山城に逃れて自身を宇都宮家当主だと唱えたことはすでに把握しているが、元綱がその後どのように動くのかはまだはっきりとしていない。


 綱房と違って那須と交渉した形跡はないらしいが飛山城とその周辺の支城のみの勢力では宇都宮城奪回ができないのは火を見るより明らかだ。力を盛り返すにはどこかしらの勢力の助力を得なければ不可能だ。だが元綱──飛山宇都宮の周囲にいるのは対立する塩谷宇都宮、小山と同盟を結んでいる益子、小山に臣従している芳賀、そして我々小山だ。この中で助力を求められるとしたら那須くらいだろうが塩谷宇都宮も那須に助力を求めている。


 また俺が下手に動けばその留守を狙って宇都宮城の奪回に動く可能性もある。元綱の器量はわからないがまだ奴には優秀な家臣が残っている。油断できない相手だ。俺は加藤一族の者に飛山宇都宮の動向を監視するように指示を出す。そして勘助ら重臣を集めて軍議を開き多気山城の支城である深津城、北原城攻めをおこなうことを明らかにする。



「一度祇園城に帰還しなくてはならないが今の状況で宇都宮城を離れるのは危険だ。規模はあるが平城の宇都宮城が最前線になる事態はできれば避けたい。そのために帰還する前に多気山城の支城だけでも落としておきたい」


「そのとおりですな。深津城、北原城、岩原城を落とせれば逆に多気山城を包囲することができますし、宇都宮城の北の守りも厚くなります」


「皆も知っていると思うが彼らは小山の誘いを蹴って塩谷宇都宮についた。二度目の温情をかけるつもりはない」



 一度こちらにつくことを拒絶した奴らが降伏してきても許すつもりはなかった。奴らは奴らの意思で小山と敵対する道を選んだ。それなら彼らの思いを汲んで小山の敵として滅ぼしてやろうではないか。



「だが大軍を動かすのは危険だ。加藤一族に探らせてはいるが飛山宇都宮の動きも気になる。手薄になったところを狙って攻めてくる可能性も捨てきれん。だから勘助は二〇〇〇の兵とともに宇都宮城の留守を頼んだ。俺は残りの二〇〇〇の兵とともに深津城と北原城を落とすつもりだ。油断するつもりはないが仮に塩谷宇都宮と壬生が救援に駆けつけても十分に対処できるだろう」


「畏まりました。こちらもいつでも動けるように準備はするつもりでございます」



 勘助の言葉に俺は頷く。周囲を見渡しても深津城、北原城攻めを反対する者はいない。岩原城に関してはできれば落としたいというのが本音だが他の二城と距離が離れているのと岩原城に向かうとなると多気山城を横切る形となるので今のところ保留だ。榛名山を確実に確保するためには岩原城も落としたいところだが優先順位的には深津城と北原城が先決だ。このふたつが落ちれば宇都宮城が最前線になることもなくなる。


 俺は準備を整えると宇都宮城を出立して深津城へ進軍を開始する。出立する前に塩谷宇都宮の動向について報告を受けたが綱房は一度鹿沼に退いたらしいが宇都宮良綱はまだ多気山城に在陣しているとのこと。壬生勢が一度鹿沼に帰還したおかげで兵数は減って四〇〇から五〇〇前後程度しかいないという。


 だが川崎城から増援らしき兵が向かっているとの報告もあった。川崎城から多気山城まで距離はあるので仮に到着しても時間はかかるはずだが警戒しておく必要があるな。多気山城まで落とせれば良いが変に欲を掻くのはやめた方がよさそうだ。しかしまだまだやるべきことが多いのに時間が許してくれないな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 小山家は現在どの程度の石高なのですか? 戦国大名の強さ=石高では無いのは理解してますが、目安にはなるので知りたいです。 史実で、1598年の太閤検地で下野国…
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