宇都宮城攻め
一部修正いたしました。
下野国 小山晴長
江曽島城を落とした小山の軍勢はついに宇都宮城の目前まで迫っていた。宇都宮城とその城下は平安からこの地を治めてきた宇都宮家の本拠らしく広大で城下の周囲には土塁が巡らされていた。
平時なら城下の守り口にも多くの兵が詰めていただろうが、敗戦の影響か城下には兵がいない状況だった。俺は奇襲に警戒しつつ城下を進軍させるが途中で宇都宮の兵に襲われることはなかった。そして何事もなく城下を通過して宇都宮城に辿り着くと背後から別の軍勢が姿を現す。それは政景叔父上らが率いる別動隊だった。別動隊は上三川城以北の石川館など宇都宮方の支城を落として宇都宮城に到着したようだ。
政景叔父上や長秀叔父上、参謀の勘助らと合流を果たしたが、その際に勘助からあることが告げられる。
「御屋形様、すでにご存知ならば申し訳ありませんが、多気山城が壬生と塩谷によって落とされたようです」
「それは真か。しかし壬生と塩谷がここで動いていたか」
「幸い両軍は多気山城で動きを止めたようですが、油断はできませぬ。いますぐ多気山に忍の者を」
「ああ、そうしよう。それと塩谷と壬生が組んだとなればこの両者に挟まれる日光が心配だな。日光が落とされるようなことがあれば状況は最悪だ。日光にも使者を送る必要がありそうだ」
宇都宮城を攻める前に壬生と塩谷が仕掛けてきたか。壬生は近年倅の方が活発に動いていたせいで綱房の動きを見逃していた。まさかあんなに引き籠っていた塩谷を戦線に引き出してくるとはな。
壬生と塩谷に斥候を放ちつつ、俺は再度宇都宮城攻略に目を向ける。残念ながら火薬と耐久性の問題から木砲は使うことはできない。だが焙烙火矢に関しては姿川の戦いで使用していなかったので今回の宇都宮城攻めでは使うことができる。
まずは先に投降を促そうと攻める前に宇都宮城に使者を送ったが城代の直井淡路守は投降を断固拒否し徹底抗戦を唱えたようで交渉は決裂する。分かり切ってはいたのでそのまま北に位置する太鼓門以外の城門に兵を配置して宇都宮城に対して総攻撃を仕掛ける。
宇都宮城は平城ではあるが田川から水を引き入れており周りは水堀で囲われている。俺は南の南館御門から、政景叔父上は西館門から、勘助は宇田門、長秀叔父上が蓮池門から攻略にかかった。
総勢四〇〇〇を超える小山の軍勢に対し宇都宮は敗戦で兵が逃散したことも響いたのか数は僅かに二〇〇を超えるか否か程度しかいなかったようだ。それぞれの門を守るとなると数十しかいない宇都宮側は圧倒的に不利で序盤こそ懸命に反撃していたが、数の差を覆すには至らず四半刻足らずでそれぞれの門が突破されて城内に侵入を許すことになる。
南館御門を突破した俺らはそのまま屋形曲輪に攻め入ると城内にいた少数の兵を蹂躙し、銅門に攻め寄せて二の丸まで侵入を果たす。他の門を攻めていた部隊も同様で蓮池門と宇田門を攻めていた部隊は北の大手門を攻めて、そこから二の丸へ侵攻していた。
南北から二の丸へ侵入を許した宇都宮勢にもはや為す術はなかった。本丸を守る伊賀門と清水門は容易く突破されてついに平安以降数百年宇都宮家の栄華を支えていた宇都宮城は落城の日を迎えた。
城代の直井淡路守と残っていた宇都宮の重臣は本丸で自刃して果てていた。宇都宮城の城兵の多くは討ち取られたが幾人かは捕虜として捕らえることができていた。その捕虜から聞き出した情報によると、宇都宮は俊綱亡き後、家臣の評議の末、忠綱の庶子元綱が当主として担がれることになった。また元綱らは多気山城の落城を受けて飛山城に落ち延びたらしい。直井淡路守は決死の覚悟で元綱らが逃げる時間を稼いでいたようだ。
飛山城は壬生が仇なした現段階で唯一宇都宮の影響力を残す拠点だ。飛山城は芳賀の城ではあったが、俊綱が高経を攻め滅ぼした際に宇都宮の城にしていた。周囲の支城も寝返りがなければ宇都宮方のままなはずだ。
「宇都宮の残党は飛山城に逃げたらしい。できればすぐに飛山城に向かいたいところだが、壬生と塩谷の動向も気になる。それに兵の疲労の色も濃い。ここでしばらく休息をとろうと思う」
「かしこまりました」
「益子信濃守殿にも残党が飛山城に逃げたことを伝えた方がいいな。彼がどう動くは知らんがもし飛山城を攻めるつもりなら同時に攻めたいところだ」
「ただ問題は壬生ですな」
勘助の言葉に俺は溜息をつく。
「壬生が塩谷を誘い出した理由が知りたいな。それに壬生のことだ。ただの空き巣で終わるはずがない。何かしら企んでいるはずだ。例えば小山包囲網を築くとかな」
「まさか……いや、十分に考えられますな。となると塩谷以外とも手を結ぶ可能性は否定できませぬ」
小山包囲網、そして勘助がそれを否定しなかったことで周囲のざわめきが大きくなる。政景叔父上も深刻な表情を浮かべていた。
「下野内で力があるとするならば那須でしょうか」
「那須か。案外それが塩谷を引き込んだ理由のひとつかもしれないな。塩谷は以前那須と結んでいたはずだ。段蔵、疲れているところ悪いが加藤一族の者を複数那須領に忍び込ませてくれ。ついでに益子にも頼んだ」
「益子ですか?益子は同盟相手では?」
家臣のひとりがそう声を上げる。俺はそれを認めつつ、懸念材料を打ち明ける。
「たしかにそうだが、問題は信濃守の後継ぎの兄弟仲が悪いことだ。信濃殿の健康に不安がある中、そこを切り崩してくる輩も出てくる可能性が高い。益子が敵に成り代わればかなり状況は厳しいものになる」
これがただの杞憂ならば良いが、勝宗の後の益子家はまだ信用できていない。特に嫡男と勝定の兄弟仲が最悪なのが痛いな。それに嫡男は勝宗ほど戦の才能はない。少なくとも結城や佐野ほどの信用はない。
その後、俺は宇都宮城に入城して宇都宮城の修復などの指示を出す。
これにて宇都宮編は終了となります。次章は宇都宮残党編を予定してます。
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