#10 そこでオレのアパレル店員魂に火がついた!
待ってる間に他の商品もいろいろ見てみたけど、本当にどれも可愛くて、全部ブランカに着てほしい。ちらっと値札を見たら、びっくりするくらい安かった。
いろんな店を覗いてわかったけど、銀貨がだいたい五千円くらいで、銅貨が五百円くらいかな。値札は何度も書き直されて、最終価格は銅貨三枚か四枚がほとんどだった。ありえない。生地代にすらならないんじゃないか?
「なあ、おっさん。商売する気ある? 安すぎない?」
「だって、売れないんだもん」
そこでオレのアパレル店員魂に火がついた。
「おっさん、ただ置いてるだけじゃ売れないぜ? ちゃんとストーリーを持って展開しなきゃ。今は冬なんだから、これとかこれとか……これはいらないな、うん、こんな感じで並べて見せたら、お客さんは選びやすいし、着たところをイメージできるだろ」
目についたものをちゃっちゃっちゃーっとウインドウに並べてみる。毛皮のコート、ベルベットのドレス、同じ生地のスカートに、合いそうなブラウスとジャケット。きちんと色味も合わせてね。
「まあ、すごい! 見違えたわ!」
おっさんは目をキラキラさせて喜んでくれた。ほら、通りを歩いてる若い女のコ達が立ち止まってる。どうだ、ディスプレイは得意なんだ。
「あなた、すごいわね。いったい何者?」
「いちおう、洋服屋の店員だよ。ここの服、すごくいいからきちんと見せたらもっと高額で売れるよ」
そんな話をしているうちに、着替えが終わったブランカが出てきた。よっしゃ、パーフェクト!
「すごい! ブランカ、いいよ! 似合ってる!」
丈の短いチェックのプリーツスカート、半袖のブラウスジャケット、ニーハイソックスにブーツ、ロンググローブ……あっちの世界で、オレが好きだった声優さんのライブで見た衣装そのまんまだ! 可愛すぎる! こんなコが本当にいるなんて!
「おかしくないかしら?」
「もう、びっくりするくらいかわいい! なあ、おっさん?」
「ほんと、こんなにイメージ通りに着こなしてくれて、感激よ!」
店の前で躊躇していた女のコ達さえうっとり見惚れて、そして我に返った途端、店内になだれ込んできた。ふっふっふ、君たちじゃブランカほどは似合わないと思うけどね。
おっさんの接客は見ていられなくて、ついつい口出ししてるうちに店じまいの時間になってしまった。ブランカも最初は戸惑っていたけど、会計とか手伝ってくれて助かった。計算早いし正確だしね。
デートは中断してしまったけど、ブランカと一緒に仕事するってのも悪くない。ずっとここで雇ってくれないかな。
「二人とも、お疲れ様。ありがとね。お礼に、その服はプレゼントするわ」
「え、これはオレがブランカにプレゼントしたかったんだ。ねえ、おっさん、お礼はいらないからさ、明日からしばらくここで雇ってくれない?」
ブランカは困ったようにうつむいた。嫌だったかな。
「働くのは嫌ではないの。洋服のことを勉強するのは楽しかったわ。でも……」
どう言ったらいいのかわからない、と苦しそうに胸のあたりを押さえた。
「ブランカが嫌ならやめておくよ」
「いえ、ごめんなさい。ハヤだってお金は必要ですもの、がんばって働きましょう。店主さん、雇ってもらえるかしら?」
おっさんはもちろんだと歓迎してくれた。
オレはブランカの洋服代を払い、おっさんはオレ達に少しだけどと今日の分の給料を払い、ブランカは脱いだ服を丁寧にたたんでスーツケースの奥に片付けた。
明日からオシャレな服に囲まれて、かわいいブランカと一緒に働ける。オレは一人で浮かれてた。
ブランカが、あんなことになるなんて思ってもみなくて……




