#9 女のコはもっとオシャレしなきゃ!
広い大通りはすごい人混みで、はぐれないようにオレはブランカと手をつないだ。手袋越しだとなんだかふわっとやわらかくて、温かくて、本物の女の子みたいでドキドキする。
昨日は時間が遅くて閉まっていた店も、今日は軒下に商品を並べて呼び込みしてる。どんなものがあるのか覗いた瞬間、店員に背後を取られて買うまで帰らせてくれない感じ。ブランカが無表情に『行きましょう』と言ってくれなかったら、無駄なものを買わされてたかも。
「何が必要かしら」
「んー、そうだなあ……」
ただブランカとデートしたかっただけのオレは、とくに何も考えていなくて。ふらふらと店先を覗いてはブランカに連れ戻される。次第にブランカの表情が険しくなってきた。
「ねえ、ハヤ。必要なものがあるなら言ってちょうだい。私、どの店に何があるか、きちんと覚えているから」
「あ、ごめん。ほら、オレ、この世界のことわからないからさ。珍しい物ばかりで、いろいろ見てみたくて」
それなら仕方ない、とため息をついた(ように見えた)
「これは旅のお守り。弱い魔物は近寄れないわ。あれはオーミで採れる薬草の店。怪我にも病気にもよく効くのよ。他の店で扱っているのは偽物だから気をつけて。……古書店があるけれど、この世界のことを学ぶのに何か必要かしら?」
歩く速度を落としたブランカは、店員を寄せ付けないほど詳しく丁寧に説明してくれた。……って、ちょっと待って! なんで今、一軒飛ばしたの? すげーオシャレな服、置いてるじゃん!
「ね、ね、ブランカってさ、服にこだわりある?」
「……ないわ」
まるで今の今まで服のことなんて気にかけていなかったみたいに、古びたマントの端をつまんだ。隙間から覗くのは、仕立てはいいけれどずいぶん傷んだブラウスとスカート。
「創造主が着せてくれたものを、ずっと着ていたわ。ほつれたら直して。なぜ?」
くそ、創造主め、うらやまし……じゃない、なんてダサいセンスなんだ。
「いま通り過ぎた店に、ブランカに似合いそうな服があったんだ。ね、ちょっと見てみようよ」
「え? ええ……」
「ブランカ、女のコはもっとオシャレしなきゃ。せっかく、こんなに可愛いのに」
あまり乗り気じゃないブランカの背中を押して、洋服屋に入ってみた。
狭い店内に乱雑に並べられた女性物の洋服。普段着からドレスまで、いろんなデザインのものが混在している。っていうか、季節感も何もない。毛皮のコートと薄い麻のワンピースが、なんで一緒に並んでんの?
デザインとか、素材や縫製はすごくいいのに、なんかもったいないな。
「いらっしゃい。あら、すごいべっぴんさん、今日はどんなのをお探しかしら?」
奥から出てきたのは……屈強な格闘家みたいなおっさんだった。ここにいなけりゃ、絶対に洋服屋の店員だなんて思わない。ブランカも警戒してる。道化人形、出さないでね。
「あの、表に飾ってあった服、見せてほしいんだけど」
「いいわよ。ちょっと待ってね」
おっさん……その口調はやめろよ。
客はオレたち以外に誰もいなくて、部屋の隅のテーブルにはミシンと作りかけの服。もしかして店じゃなくて、工房だったのかも。
「おにいさん、なかなか見る目あるわね。絶対に似合うわよ」
愛想よくオレにあてがおうとするのを華麗にスルーして、ブランカを鏡の前に立たせた。
「ね、ね、ブランカ、ちょっと着てみてよ。おっさん、試着していい?」
「誰がおっさんよ、失礼ね」
うん、きっと心は乙女なんだろうね。おっさんはブランカを試着室に案内した。




