第7話
「何を言い出すんだい」あまりの事にレッドは雲の平原にそりを止めてしまった。
「あんた、あの女の子に惚れたんじゃないだろうね」レッドが言った。
「違うよ、もう僕は夢を与えることができないからさ。
あの女の子は、夢があってもサンタクロースを信じないと言った
もう一度人の心に触れるために人間になるんだ。」
そして、サンタクロースはレッドに行先を告げた。「迷いの森に行ってくれないか」
”迷いの森”それは空の彼方のもう雲も切れた暗闇に広がる幻想の森だった。
暗くて何も見えず、中に入ると誰もが迷い外に出られなくなる。
しかし、その森を抜けると人間に生まれ変わって地上に降りることが出来るのだ。
ただ、迷いの森の中はいつも雨が降っている。その雨を浴びると記憶が溶けてしまい、
最後には記憶が真っ白になってしまうという。
「悪い事はいわない、森に入るのはやめた方がいいよ。
森の中で迷ったまま出られずに”永遠に彷徨う者”になる事だってあるんだよ」
レッドは赤い鼻を震わせた。
「見てみなよ、森の中は今日も雨だ。すぐに記憶を消されちまうよ」
サンタクロースとレッドは、森の前にいた。森の姿はそれ自体が幻想で出来ており
見る者の心の闇を映している。誰もが心に持つ暗闇の部分が森の姿になっているのだ。
目の前には、薄ぼんやりの木々が並んでいる。隙間なくぎっしりとしているように見える。
だが本当は隙間だらけのようにも見える。幻想なので定まった形すらないのだった。
森の中には道はなく、うまくいけば1日でも抜けることができる。
しかし、一度迷うと永遠に出ることはできない。
「僕は行くよ、レッド。必ず出口にたどり着いて人間になる。
そして夢を与える方法をもう一度見つけたいんだ」
「私は、いつかあんたをサンタクロースとして連れ戻すからね」
レッドの声を、背にして、それでもサンタクロースは滅多に通り抜ける事が叶わないという
幻想の迷いの森の雨の中に、たった一人で入っていったのだった。