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1-E

 その日の夜。街はまだ騒がしかったが、少し離れて建てられた建物であるそこは喧噪からは切り離されて静寂が保たれた建物であった。

 部屋に置かれたソファにはやや恰幅の良い男が葉巻を燻らせて、部下からの報告を聞いていた。仕立ての良いスーツに身を包んだその男は右目の端からこめかみにかけて古傷が走っていたが、見る者が見れば銃創であることが分かっただろう。


「エンザさま。以上により無事、海港王の像の入手には成功したとのことです」


 それを聞いてエンザと呼ばれた男は、満足げに葉巻の煙を吐き出した。


「良くやった。これで目的の第一段階達成と言う所か。やはり直接やった方が速いな。お前が言った通りだな、テッシン?」


 そういってエンザが後ろを振り返ると、そこには長身の男が佇んでいた。詰襟で丈の長衣に身を包んでおり、総髪でまとめられた髪は後頭部で一本にまとめられている。目は静かに閉じたままであり、口髭の下で口は結ばれたままだった。

 テッシンの反応が無い事に、しかしエンザは特に気を悪くすることも無く、報告を上げて来た部下の方を上機嫌なまま見やった。


「シウ家の連中はどうなった? ついでに殺せれば殺しておくと言う事だったが」

「パトリック・シウの始末には成功しました。が、ミンシャン・シウを殺すのには失敗したそうです」

「パーティ会場に残ったままだったか? 運が良い小娘だ」

「いえ、パトリック・シウを殺した場所に居合わせたそうです」

「何? それで何故殺せていない」


 終始良かった筈のエンザの機嫌が、不意に傾いたのに気づいて報告を上げていた部下の身体に緊張が走る。


「は。それが正体不明の何者かが二人で乱入してきて、邪魔をしたとのことです」

「正体不明の二人組? 何者だそいつらは」

「まだその正体は分からず、現在調査中となります」

「……ふむ。同じものを狙っている輩か? ……調査は急げよ」

「はっ」


 折角の良い気分に水をさされた気分だ、とエンザは葉巻を灰皿に押し付けながら、自分の計画に僅かに混じったノイズに顔を顰めた。


***


 少し時を前後する。

 ラウルの捜査の為にセイザンにやってきた連合捜査局の捜査官キディが、地元警察でラウル逮捕の協力を依頼したところ、逆に地元の失踪事件の調査を押し付けられた後。

 キディは宿泊先などの整理が終わり、署長に渡された資料を軽く読んだ後に、早速動き出していた。


 資料によると失踪したのは地元の青年でギン、26才。資料を読む限りでは、普通に学生生活を送り就職をしたとかで、特筆すべき経歴では無かった。しかしここ一か月の間に家に帰って来ておらず、それを心配した親が失踪したと届け出を出したのだとか。

 まだ夕方であった為、キディは早速そのギンの母親に会いに行っていた。


 キディは警察ではなかったが、連合捜査局の捜査官というと一般人にはややハッタリが効く。ただの警察だけではなくこんな立派な人が探してくれるのかと、母親は感激したようにキディを家に向かい入れてくれた。


 入れてくれたお茶を啜りながら、キディは母親から話を聞いていた。


「……すると、ギンさんがどこに就職したのかはご存じないと?」

「ええ、ええ。あまり自分の事を話さない子だったので。……でも優しい子なんです。初任給では食事に連れて行ってくれたんですよ」

「失踪する前にも、特にはおかしな様子は無かったのでしょうか?」

「それが、仕事がとても忙しいらしくて……ブラック企業、というんですか? 家に帰ってくるのも遅かったし、休日に出勤する事もあったんですよ」


 ギンは親と同居していたため、比較的新しい情報を手に入れる事ができたのは捜査の上ではありがたいことだとキディは思った。その他にも色々と話を聞き、キディがそれを手元の端末にまとめているところで、恐る恐る母親がキディに聞いてきた。


「それでそのう……ギンを、うちの子を探してはくれるのでしょうか? 成人した子供に対して過保護だとか言われて、警察に届け出をするのも旦那にあれやこれや言われたので……」


 少し悲しそうに、そして不安そうにいう母親に対してキディはとてもではないが否定的な事を言う気にはなれなかった。よって、ドンと自分の胸を叩いて自信満々に言って見せた。


「はい。自分にお任せください。自分がお子さん、ギンさんの行方を捜してみせますので」

「ああ、はい。はい、ありがとうございます、ありがとうございます」


 少し涙を滲ませながら礼を言ってくる母親に、キディはギンを見つける決意を新たにするのだった。


 ――本来は自分はラウルの情報収集をするつもりだったのだ、と言う事を思い出したのはキディがその日、ベッドに入った後だったという。


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