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侵略者に愛されて……  作者: 尾岐多聞
第1章 ソウルメイトはインベーダー!?
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第4話 もう一つの異空遠征軍

 異空遠征軍【白皇星(はっこうせい)】総帥・白琅(びゃくろう)龍侍(りゅうじ)は深い苦悩の只中にあった。


 同国人?であるがゆえに逆に宿命のライバルとして意識せざるを得ない阿津間家が率いる影神団とは決して共闘はせぬまでも、同じく信奉する闘主によって〈放界〉された闘幻境(バトルゾーン)において、その目的すら定かでない異空間種族【エクルーガ】との果てなき死闘に明け暮れる内に、彼はある重大な疑惑に囚われていたのであったが、それは“偉大なる闘主は阿津間(やつら)を我が一族の上位に位置付けているのではないか?”という人間としての誇りに関わる切実なものであった。


『たしかに放界直前に闘主立ち会いの下一度だけ顔合わせして健闘を誓い合ったものの、それ以降連中との間に一切の交流は無く、またその術すら与えられてはおらん状況だが、苦心して収集した情報から判断するに、我が軍が実に6年半もの長期間闘幻境に釘付けにされているのに反して、鳳凰陣やダークネスリングなる“傘下組織”の()()()()()こそ散見されるものの、本体たる影神団とその領袖はそれこそ影も形も確認されてはおらぬようではないか?


 一体、これはどうしたことなのだ……他ならぬ闘主が“仮にどちらかの軍団及びその統率者が完全敗北に至った際には必ずその事実を伝達する”と確約している以上、阿津間家は未だ健在であるはず……されどどう頭を巡らしても弾き出される結論は唯一つしかない──即ち、奴らは卑怯にもこの地獄の戦場から逃亡しているに違いないッ!!』


 しかし既に何年も何万回も心中で、或いは叫びとして闘主に返答を求めているにも関わらず、それがもたらされる気配すら無かったのである……。

 

 こうして多年に渡り絶望の谷底に突き落とされたままの龍侍にとって、最後に残された唯一の希望が甥・狂真(きょうま)の異常なまでの急成長であった。


 闘主によって与えられた、全長141メートル、総重量()()の“空飛ぶ秘密基地”白雷龍(びゃくらいりゅう)を家として育った現在17歳の少年戦士はその戦闘機操縦及び撃墜技術はもとより、戦装衣(バトルウェア)と呼ばれるパワードアーマーを纏っての白兵戦でも文字通り連戦連勝の鬼神的な猛威を振るっていたのである!


 そして総帥・龍侍にとって何よりも好ましく頼もしいのは、この天才児が叔父と同様の、いやそれ以上に阿津間一族に対する熾烈極まる憎悪に身を灼いていることであった。

 

「たとえエクルーガを全滅させても阿津間の奴らを一人残らず血祭りに上げるまではオレの戦いは終わらねえ……奴らがどこまでも逃げ回るなら、どんな手段を使っても地上に戻って殲滅してやる」


 この宣言は決して身の程を弁えぬ大言壮語などではなく、この悪魔的美少年の底知れぬ潜在能力と可能性を信じる者にとって遠からぬ未来に必ずや実現すべき白皇星の旗印となったのである!


           ✦


「──叔父貴、ちょっといいか?」


 このところ体調がすぐれず、艦の指揮を甥と副官の矢萩(やはぎ)に任せがちである現在51歳の龍侍は質素な寝台に取り付けた文机(ふづくえ)に寄りかかってもはや単なる日課を超えてライフワークと化した〈自叙伝〉の執筆に励んでいたが、珍客の来訪に目を丸くして愛用する手製の筆ペンを持つ手を止めた。


()()()のところ済まねえが、実はちょっとおかしなことがあってよ……」


 GIカット風に刈り上げた頭部を掻きながら8畳ほどの艦長室に入ってきたグレーのTシャツに同色のズボンを身に着けた白琅狂真は、ベッドの端に尻を乗せて思わせぶりな視線を投げかける。


「おかしなことだと?エクルーガが何か新手で攻めてきたのか?」


 ここ3日ばかり軍団が独自に設定した白雷龍の戦闘空域は敵影皆無の(なぎ)の状態が続いていたがこれは特に奇異な現象でもないため、おかしなことがあるとするならそれくらいしか考えられぬが……。


 しかし自慢の甥は微かに唇を吊り上げたものの、鋭い眼光を向けたまま小さく首を振る。


「いや、そんなんじゃねえ。

 (わり)ィが敵襲ならオレが向かってるのはここじゃなくて閃牙(せんが)(愛機)のコクピットさ──実はな叔父貴、信じられねえことだが、ダークネスリングの紺堂が何故かオレらに救けを求めてきやがったんだよ……!」


「──何ッ、何だとッ!?」


 反射的に怒鳴った後、呆然と報告者を見つめる一族の長に、尤もだとばかりに頷きながら狂真が続ける。


「驚くのもムリはねえ……大体、連中とは完全に没交渉な上に言葉に言い尽くせねえしがらみもあって、白皇星(こっち)にとっちゃあいわば立派な()()()なんだからな……!


 だがさっき艦の通信機でちょっとやり取りしてみたところでは、どうやらアイツ、ガチで影神団をお払い箱になっちまったらしい……」


「……」


 暫し沈黙し、互いの目の奥を探り合う二人であったが、やがて龍侍が錆びた声音でポツリと言い放つ。


「……たとえそうだったとしてもだ、それが我々に何の関係がある?

 そもそもあの戦士の風上にも置けぬ鬼畜野郎の阿津間が理由はどうあれ飼い犬を見捨てるのがおまえにはそんなに意外なことなのか?

 ……ここまで言えば分かっただろうが、私の指示は一つだ、放っておけ」


 腕組みしてこのセリフに耳を傾けていた甥っ子が「ああ、そうだな」と頷くが、「だけどアイツ、最後にとんでもねえこと吐かしやがったんだ──」と言葉を継ぐ。


 しかしもはや白琅龍侍の決意は石よりも固く、我関せずといった様子で自叙伝の執筆を再開したものの、()()()()が直ちにその手を止めさせたのである──!


「叔父貴、紺堂(アイツ)の話じゃ、やっぱり阿津間のアホどもは地上に逃げ帰ってるぜ……だが景之の卑劣な策略にかかって闘主の内部に引きずり込まれた時、真相を告げられたそうだ──つまり奴が率いていた軍団は次男の景充に受け継がれることが決まっているが、それはいわば闘主にとって多大なコストをかけてサイボーグ化した紺堂をフリーにするためのいわばカモフラージュで、()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!」





 




 

 

 





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