11:マリオネリカ・エスケープ 下
現代:作戦会議室
「ナガミ、お前がいなくなった空白の期間は、思っている以上に過酷なものだった。
俺はアンノーマルから認識されないために、容姿を変更し、ヘパリットとして…逃げ続けた。」
アンザは過去の出来事と共に、この世界の現状について尚も続ける。
「今日はサクフィス曰く”決別の日”だそうだ。要するに世界の終焉の日。俺が役目を果たせる日であり、同時に世界最期の日らしい。」
「さ、最期の日って…。つまり、この世界は…消えてしまうということか?」
アンザは、苦虫を嚙み潰したような…苦痛の表情をうかべた。
不本意で、こんな結末は本当に望んでいないかのような雰囲気。
「俺が、この日をどれほど待ちわびて、どれほど認めたくなかったか…。
だが、事実…この世界は消滅するほかない。」
「な、なんでそう言い切れる…?」
「聞いちまったんだ。この世界からアンノーマルを排除してもしなくても、世界は世界間の圧に押しつぶされて消滅することを…。
それにアンノーマルは、この世界に関与しすぎたこともあってな…。いつの間にか"世界を支える柱"…女神を名乗っていた。それも20年も前にだ。」
アンノーマルが女神に…?
つまり世界の一番のトップの座に、アンノーマルがいるという解釈でいいのだろうか?
女神が殺されたという話だったが…まさか、女神になり替わっているとは思わなかった。
「アンノーマルは、コールダイル神として名乗っている。普通は間違っていると認識できるはずなのだが、この20年間で"初めから女神"だったと思わせられている…。
恐らくこの世界の住人だから書き換えられてしまったようなんだ…。」
「コールダイル神か…そういえばドンテスが話していたな。アクアパレッサ王国で信仰する女神様だと。」
「ははは、やはり定着してしまっている…。もう逃げ場はないな…。
まぁ…仕方がない。このまま続きを話す。あともう少しで終わるから、話を聞いてもらえるか?」
アンザは椅子に深々と座ると、ナガミにこの世界の真実を話し始めた。
「あぁ、頼む。」
「ありがとう…。この世界は、複数の世界が…。」
…
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20年前:フレア・イントマス跡地
「複数の世界が重なっている…?何を言っているんだ?」
サクフィスの耳打ちは、予想外の内容だった。
世界が重なっている…?
「ふひひひ、今までの物語の内容を見るに、そうとしか思えないのですよぉ。
本来の物語は、大きな紙の上に国が存在し、生き物や文明などが刻まれるのですねぇ…。
だが、しかーっし!しかししかし!アンノーマルの関与で、この世界は小さな複数の紙で構成される、重なった物語になってしまったのです…!ふひひひ」
重なった物語…?
「もっとわかるように説明してくれ…。その重なった世界とやらが今、少しずつ町が変化する理由とどこに繋がるんだ…」
サクフィスは、伝わんかったことを気にも留めず、含み笑いを始めた。
何がそんなにおかしいのだろうか?
「では、紙で例えてみましょう?何枚か重なった紙があるとして…一番上の紙をどけると、2枚目の紙が見えますよねぇ。逆に3枚目の紙を重なった紙の束の一番上に置いたら、3枚目の紙が1枚目になりますよねぇ…?
それでいて、この紙をいじれるのは、世界の管理者…つまり女神ですよぉ?なんとなく推察できるんじゃないですかね?ふひ」
「ま、まさか…。街の変化は…世界そのものを別の世界に入れ替えられている証拠…ということか?
くそ…いやしかし…そんなことが…。」
サクフィスは、笑顔でアンザの周りを歩きまわり始めた。
その笑顔をアンザは直視することができなかった。それどころじゃない。
「ふひひ、全貌が分かっていないので、断言するにはまだ早いですがね…。そうそう、私と離れた後、気になることはありませんでしたかぁ?」
気になること…。なにかあったか…?
(まぁ…"あのお方"より授かっている力を持つ、この僕が!この程度の力ごときに遅れをとりません…よっと…!)
不意に拘束されたボイトが口にしていた言葉を思い出した。
"あのお方"って、誰のことだろうか…?
「そうだな…強いて言えば、ドルチンの部下であったボイトが"あのお方"って何度とか話していたのが気になるな…。」
「"あのお方…"。それは間違いなくアンノーマルでしょうねぇ…。コールダイル神が殺害されている今、世界を思いのままに動かしてそうですし。
まぁ…私が記録している限り、ほぼ確定でしょう。」
「アンノーマルが確実に悪さをしてるのはわかったが…。これまでの話を聞いて一つ疑問に思ったことがある。」
「ほぉ、なんでしょう?私のスリーサイズですかぁ?上から…」
にやにやしながらサクフィスは口に手を当てて、顔を赤らめている。
何を言っているんだこいつは。
「そんな話、一度もしてないだろう…。」
「ほー?そうですかそうですか、って冗談はさておき、疑問とはなんでしょう?」
サクフィスは、ふざけているのかふざけていないのかわからない態度を常に取りつつ、アンザの目を見て話を続ける。
アンザにとってこれほどまでにやりづらい相手はいない。2回咳ばらいをしたのち、アンザは疑問をサクフィスにぶつけた。
「アンノーマルは、世界の大半…つまりフレアイントマスの国境外を、無に変えたんだよな…?それで"世界"は"物語の境界線"…つまり、"壁"を作って壁内にいる人間とかを守っている…。
ここまでは認識あっているか?」
「はい、間違いなく。アンザさんの認識合っていますよぉ?」
「じゃあなんで、フレアイントマスだけ消さずに残している?何故アンノーマルは、一思いに全部消さなかった?」
アンザの疑問を聞いたサクフィスは、涼しい顔をしながら隠れ家へとつながる扉に向かって、指をさす。
「その疑問は、今後のアンザさんの役目に繋がりますよぉ。今回メインで伝えないといけないのは、まさにそのことです。ふひひひ。
アンザさんはナガミ様につなぐため、"擬態"の力を20年後まで隠し通すのが役目。だがしかし、実はもう一つありましてぇ。
もうすでに会ったと思いますが、アンノーマルを対峙するために必要な人材になる"世界の希望"を守り抜くことです。」
「なんで壁なんか指さしているんだ?」
アンザの言葉を聞いて、はぁ~と言わんばかりの、あきれ顔とため息をついた、
「ここまできて、なんで察しが悪いんですかねぇ…。つまり、セリオスが抱えていた赤子…ハスティ・アクアパレッサを20年間守ってください。
彼女こそがアンザさんの疑問の答えです。
彼女がいるからこそ、フレアイントマスは延命できているということです。たった1人の赤子が世界を維持しているのは、すごいですよねぇ…。」
セリオスが連れていた、あの子が…?
あの子がいるから助かっているだと…?
「あの子が…この地を守ってくれている…?何をそんな…まだ赤子だぞ?」
「赤子だから何ですかぁ…?世界が用意した最後の防衛策だと思いますよぉ~?
ふふふ、ごめんなさい…そろそろお時間の様ですねぇ…。次に会えるのは20年後でしょうか?ふひひ…。
…20年後、アンザさんが力と赤子を守り抜けたとして、この世界は消える運命にあります。ただ、どのようにして世界が消えるかは、私にもわかりませぬ。ふひひひ」
サクフィスは指を引っ込め、いつの間にか持っていたカバンから、分厚い本を取り出した。
取り出した本自体は、何の変哲もない革表紙の古そうな本に見える。
「ちょ、ちょっとまて、今サラッと言ったが、世界が消える運命にあるってどういうことだ!?」
サクフィスはアンザの声を無視して本を開いた。本を見るその表情は、慈悲さえ感じるほど悲しそうだった。
「そんな悲しい運命に、抵抗しても無意味なアンザさん…彼の者が今後20年、選択を間違えないようにガイドを授けましょう。
この本には"決別の日"と名付けます。来たる終焉の時。そこまでの道筋を記す本として…。ふひひひ
かなしいかなしい…。アンザさん。また逢う日まで。」
「くっ…まて!まってくれ!サクフィス!!!」
目の前で本が光り始めると、表紙に文字が浮かび上がり…『決別の日』と書かれた本は、地面に落ちた。
先ほどまでいたサクフィスの姿は、目のまばたきと共に消えた。まるで最初から居なかったかのように。
「くそっ、くそ!大事なところをちゃんと聞けなかった…!これから世界の消滅をただ待つためだけに、20年間守り通せってのか‼‼‼」
世界が消える運命にある…その言葉はアンザにとって苦痛ともいえる内容だった。
何のために"擬態"と"世界の希望"守る必要があるのか…?
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「はっ!?こ、ここは…隠れ家?俺、さっきまで外に…。」
「アンザ…騒がしいが、どうした?」
セリオスが心配そうにこちらに向かって話しかけてきた。
俺は、何故隠れ家のソファに横になっている?
「いや…なんでもない…。悪い夢でも見ていたようだ…。」
「そうか…。今世界は混沌を極めている、無理もない。もう少し心を休める必要がありそうだ。
これを飲んでおけ。勝手に使ったのは謝るが、まずは飲んで落ち着くんだ。」
赤子を背負ったセリオスは、隠れ家にある備品を使って、暖かい飲み物を作ってくれていたようで、
目の前のテーブルに暖かい飲み物が入ったカップを置いてくれた。
「なぁ…セリオス。一つ聞いていいか?その赤子のことだが…。」
「ん?この子か?」
「そうだ。その子のこと"世界の希望"といっていたが、それほどまでに大事なのか?」
セリオスは、アンザの隣りに座ると、背負っていた赤子をアンザに見せた。
「アンザから見て、この子はどう見える?この世界の現状など、お構いなしに可愛い寝顔だろう?」
「あぁ…確かにかわいいな…。」
「この子は特別な力を持って生まれた。恐らくコールダイル神が現状を打破するために、
何らかの力を授けて、今世に送ったのだろうと考えている。だからこそ"世界の希望"として、守り続けているのだ。
どんな未来が待っているにせよ、我々大人が未来を担う子を守るのは当然の責務だ。違うか?」
セリオスは、出会ってからは見たことの無い笑顔でアンザに語り掛けた。
いつも真剣にかつ、冷静な表情しか見ていなかったから、笑顔がとても新鮮に見える…。
その時アンザは足元に何かがあるのを感じた。
手に取ると、それは古そうな本…。
("決別の日"か…。どうせ消えちまうなら、20年後の再会まで、この子を守るとともに、成長を見ていくのもいいな…。)
「アンザ?どうした?難しい顔をして。」
「いや、何でもない。セリオスさんのいう通りだ。
この子の未来を守るためにも、俺らが今のこの状況をどうにかしないといけないな…!セリオス、これを見てくれ…。」
本を開いたアンザは、この子を守るための行動をとることに決めた。
…
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現代:作戦会議室
「その時の本がこれだ。この20年間、どのようにしてアンノーマルを騙し、ハスティを守るか…危険から回避するための、行動マニュアルの様な内容だった。
世界を何度も差し替えられ、そのたびに身分を偽装しながら耐え抜くことができたのも、この本のおかげだろう…サクフィスには頭が上がらないよ。」
鳴上の前に差し出された本は古めかしい雰囲気があるが、どこか気品を感じるものだった。
この本がアンザの20年間を支えた物…どことなく異質な雰囲気を感じる。
「この20年間でアンノーマルは…一度だけ遭遇した。
あの時は必死すぎて顔をまともに見れなかったが…黒い槍と何か荷物を持っていたことだけ伝えておく。声色も喋らずに殺しにかかってきたから、男性か女性かもわからないが…。」
「黒い槍に荷物…それが"アンノーマル"の特徴か…わかった。
20年間、精神的苦痛もさることながら、この日のために俺を待ってくれてありがとうございます。」
「いいんだ。結果としてハスティの成長を見守ることができた。俺たちは、無事成し遂げられたんだ。
後はアンノーマルに干渉できるらしい、ナガミ…お前が全てを終わらせる時だ…!
…今日、この時がアンノーマルを"この世界"からたたき出す、絶好の日であり、世界消滅の日…!本の表紙にある"決別の日"が意味する世界との決別の意味は、最期までサクフィスは教えてくれなかったが…
そんな些細なことはどうでもいい。アンノーマルにやられっぱなしのままでは、死んでも死にきれないからな…!」
アンザは、天井を見つつ高らかに言葉を放った。
まるで、どこかで見ているであろう"アンノーマル"に対し宣戦布告をしているかのように。
アンザはそのまま、ラッパの先端の様な物を咥えて息を力いっぱい吹き、ピーっという音を鳴り響かせた。
「よし、これより作戦会議に入る。目標は帝国への潜入、並びに世界を消そうとするアンノーマルの暗殺だ…!」
………




