再始動勇者13
急にアルトに対して湧き上がった感情を、何でもないということにして、一旦抑え込んだ。
しばらくすると、それは次第に収まって来て……アルトの姿を普通に見れるようになったような……そんな気になる。
それは人生初の体験で、一瞬で収まってしまったが……確実にあった。
自分がそんなにアルトのことが好きかといわれると……わからない。
そういうことに関しても、僕はやたら受け身で、でも……それと、幸せにしたいと思うことは別な気がする。
そもそもそれは、受け身ではない。
いや、違う……まず、アルトに救われた、という受け身の自分が居て……その受け身であった自分自身を経て、その上でアルトを幸福にしたいと思っている自分が居るということなんだろうと思う。
つまり……本を正せば、それは受け身の結果だといえて……僕本来の性質によるものだといえる。
アルトを幸せにしたいと思うことは、とても自然なことだ。
そう考えると、その感情に酷く納得がいく……。
しかし、冷静になってみろよ。
どうやって幸福にする?
一般的に考えて――僕がアルトと結婚し、幸せにする。
想像できなくはないが――それをアルトが求めていなければ成立しないし、むしろ不幸にするだけだ。
僕はアルトに一方的に理解されていて、逆はそうでもないというのが現状だ。
この状態でどう幸福にしろというんだ?
そもそもアルトは現状が幸福で、だからこそ僕に幸福になれといっている。
まあ、でも――そこから更に幸せにすればいいだけだと思うが――。
ただ、その欲求というのは、本当に感謝の気持ちを返上するだけのものなのかということを考える。僕は、それとは関係なく、アルトが幸福になっているところを見たいと思ってしまっている。それは僕自身の単純な欲であり、もう、そう思うに至った経緯など関係なくなっている。
「もしかして、これが、僕の求める『快感』なのか……?」
確かに、アルトを幸せにするということは、僕にとっての快感だ。
ただ言葉にするだけでもそれを感じることが出来る。
これまでのアルトと僕の関わり、それからアルトの佇まい……その存在自身を意識する。それらを合わせた上でアルトを幸福にする、と考えると……そこに快感がある。
それは一時の気の迷いではない。
一瞬で燃え上がって消える炎じゃなくて、もっと長く――それこそ永久に残り続けるような何かであることを、僕は認めなければならなくなるだろう。
それが自然なことであるのなら……。
「お前は、朝からいったい何を考え込んでいるんだ」アルトが来る。僕は朝からずっとそこに座り込んでいて、一歩も動いていない。「勇者として、次のステップに進んだと思ったらこれか」
アルトを見る。やっぱり、気持ちは変わらない。
「アルトが求めているものは?」
「世界平和」
「個人的に求めているものだ」
「……それも、世界平和さ。嘘じゃない。本当だ」
「……」
「何だ、その目は」
「想像だが……アルトは、何かを我慢している」
「そんなの、人は皆何かしら我慢しながら生きてるさ」
「違う。自己犠牲的な何かだ」
「……」
「僕が自分のことを片付けたら――今度はアルトを幸福にしに行く」
「私は幸福だ」
「それでも行く。僕が自己満足をするために――僕の、快感のために」
「何だそれは。私の幸福が、お前の快感なのか?」
「そうだ。お前が嫌だといっても、幸福にしに行く。地獄の底まで追いかけていって幸福にする。今は……そんな気持ちなんだ」
「すぐに薄れるさ」
「どうだろうな。今は、薄れない気がしている」
「大概の男はそういうんだよ。口から出まかせでなかったとしても、気持ちは変わるもんさ」
「かもしれない……」
「でも、正直嬉しいよ……それが叶わぬ願いでも」
「……」
「私は幸福だ。それで……この話は終わりだ」
少なくとも今引き摺る話じゃないと思ったので……僕もそこで切り上げる。
アルトの幸福だという言葉を信じたわけじゃないけど、まずは、自分のことを片付けないと、そもそも人を幸福にすることなんかできない。
そういう意味で、アルトの言い分は正しいのかもしれない……。アルトのいうことはいつも正しい、ということがまた、証明されてしまう。
「しかし、成長だよ」とアルトがいう。「人を幸せにしたいと思えるようになったということは、お前の、人としての成長じゃないか」
「まあ……そうだな……前の自分は、そうしなければならない、という強迫観念によって、世界を救わなければならないものだと思っていた。そんな風に考えている人間が、一人の人間を幸せにしようなんて思えなかったと思う」
「……」
「でも、そう思うようになるに至ったきっかけは全部アルトだったんだよ。だから、自然とそう思うようになった。アルトに対してさ……」
「……」
「だからそれは自然な流れだった。もし、全てが上手く行って……アルトが国へ帰って……そうすれば薄れていくのかな。それもまた、自然なこととして……」
「もしそうなれば、薄れていくだろうな。そういうものなんだから、仕方ないさ」
なんかこう、腑に落ちないけど……今は何も思い浮かばない。
僕はアルトを幸福にするということを、そのうち忘れ去るのだろうか?
そうして、また受け身になって――。
僕は一人になる。
いや――僕の周りには、アキやシスターもいるし、自分の中に残った気持ちが、別の誰かに向かうこともあるかもしれない。
それはあってもおかしくはない。
本当にアルトが幸せならそれでいい。
少し、怪しい気はするんだけど……。
それに関しては。
「でも、話せてよかった気がする。あんまり、自分の中に抱えていても仕方なかったというか……また、悩んじゃいそうで」
「お前の気持ちはわかったし、ありがたいよ。それに――私達の関係はとても良好なんだということが改めて判明した。それが確かめられたというだけで十分だ」
「そうだね……僕とアルトは、本当にいい関係だ。遠くに離れてしまうのがもったいないくらいの……」
「まだ当分はここに居るぞ」
「そうなんだけど……」
何か、辛いよ。
その時のことを考えてしまうと――何か、辛い――。
「最初から最後まで、世話の焼ける勇者になりそうだな」とアルトがいった。
それを聞いて、本当にそうなるだろうな……と僕は思うのだった。
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