再始動勇者9
今日は年に一度の、祭典の日だ。
この十年、僕は一度たりとも心からそれを楽しんだことはないが、(というか、その間、僕は街から離れ、全く寄り付かないようにしていたが、)今年は流石に楽しめそうな気分だった。
今考えると、相当もったいなかったな……と思いつつも、今を楽しもうと心掛ける。
(そう……僕は変わったんだ……今年、ある人物と出会って……)
で、問題は……誰を誘うかだが……実はもう決まっている。
「おいアルト」と僕。
「何だ」とアルト。
「行くぞ」
以心伝心……それだけで内容は伝わるはずだ。
「……やれやれ。もう少しまともな誘い方はできないのか」
やっぱり意識はしていたらしく、話は早かった。
それでこそ、僕の一番の仲間――。
いうなれば、相方、って感じかな……。
「何の祭りなんだ?」
「一応……勇者の……」
「歯切れが悪いな」
「この十年、逃げ続けていたからな……。だが、今年は違う」
「まあ、私も、ヒロカズの頑張りは認めるよ。今日は主役として楽しめばいい」
「周りが認めてくれるかは別だけど……。まあ、少しは勇者を肯定する人も出てきてるみたいだし……」
「変な奴に絡まれたりしてな」
「それはあるかもしれない」
「たまにはやり返してもいいんじゃないか? ロクな街人じゃないだろう、どうせ」
「ダメだ。よっぽどのことがない限りこちらからは手を出さない……。主役が、祭りを台無しにしたらいけないだろ?」
「十年不在だった奴のセリフとは思えんな……」
「まあ……そうだけど……」
十年主役が不在だったとはいえ、街中はごったがえしていた。
勇者、いらないんじゃ?……と思ったが、それは伏せておく。
「結構な賑わいだな」
「それでも、昔よりは大分減って来てるよ。まあ、誰のせいとはいわないけど……」
「お前の所為じゃないさ」
「そうならいいんだけどね……」
「一々暗くなるな。これからは変わるんだろう? お前は……」
「まあ……これまでとは違うよ。今年は。明らかに……ね……」
仲間も大勢いるし……弱気になってたらいけない。
胸を張って歩くまではいけないけど、あんまりコソコソしないようにしないとね……。
「変な奴に絡まれたら、私がやっつけてやろうか」
「大人しくしててくれよ……」
「まあ、それは嘘だが……あんまりやられっぱなしはよくないぞ。お前の悪いところは、ほとんどそういうところから来ているんだからな」
まあ、アルトのいう通りだ。
でも、街の人にやり返すってのは、違う。
やり返すべきなのは、別の存在――。
もしかしたらこの街のどこかに、今も居るのかもしれないが……。
「しかし、十年ぶりだから、勝手がわからないな。子供の頃はちょっとした晒し者だったし、祭りはあんまり好きじゃなかったような……」
「今と変わらず、暗い子供時代だったのか?」
「そういわれてみると、元から暗かったし、母さんの日記を読み返してみて、改めてそう思ったんだよな。自分って暗いなって……」
「それはもう、お前自身の変えることのできない性質なんだろう」
「それは、認めざるを得ない……。勇者だとかどうとかを認識する以前は――勇者としての自我が目覚める前は――ある程度は明るかったのかもしれないけど、あんまり人前に出るのがそもそも好きじゃなかった」
「まあでも、そんな人間は腐るほどいるさ。だから、そんな人間が勇者でもなんら不思議はない」
「でも、ちゃんとしないとっていう、プレッシャーにかなり押し潰されてた覚えはある。それで、母さんにも心配掛けてただろうな……」
「でもそれがお前なんだから仕方ない。不自然に自分を変える必要はない」
日記の中に書かれていた父さんの子供時代のこと……。
父さんは父さんで、どうしようもない「自分」っていうものを持っていたんだろうと思う。
そう考えると何も変わらない。同じことじゃないかと思う。
「私は、否定されたからといって、お前がお前自身であることをやめる方がくだらないと思うな。お前は、お前のままでいいさ。その中で何とかすればいい」
「多分だけど……僕の父も、そうだった可能性はある。比べるのはおこがましいかもしれないけど」
「いや、実際、そうだったのさ。誰かが決めた勇者になることはない。そんなのは、偽物だ」
「そうかな」
「少なくとも、くだらないね。そんな勇者なんか」
アルトと居ると、気が楽になるのと同時に……少し勇気が湧いて来る。
それが、僕にとって、一番重要なことだと思う。
「そんなことより、ほら、行くぞ――」アルトが僕を引っ張っていく。「向こうに、楽しそうなものがある」
しかし、すっかり元通りになったよな。こいつも。
一時期どうなるかと思ったけど。
「何をぼんやりしている」
「いや――アルト、元気だなと思って」
「私だって、いつも元気というわけじゃないぞ」
「そうだね……」
「ただ、私は問題を先延ばしにして――一時的に考えないようにすることができるだけだ。お前と違って器用だからな」
「問題は、解決しそう?」
「……今のところは無理そうだな」アルトは、目を細めていう。「勇者が、こんなだから」
「ごめん……」
「謝るな。お前はお前のままでいいって、いったばかりなんだから」
「アルトは、妙に僕のことを――ひいては、現勇者としての僕のことを尊重してくれるよね」
「お前が勇者じゃなかったら尊重してないかもしれないぞ?」
「そうかな」
「少なくとも出会っていない……こんな仮定の話をしても仕方ないとは思うが……少し付き合うか」
アルトは真面目な顔になる。
「そう考えると、私は、お前自身の人格を、それほど評価していないのかもしれない。いや、していない。しかしそれを悪いとも思っていない……そんなところか」
「手厳しいね」
「事実だからな。だが、そんな打算的な評価とは別に、お前のことは好きかもしれない。確かにお前はダメだけど、そのダメさに覆われた中に、時々、良いものが見える。これまでの経験として、やたら打算的に評価の高い人間は、その覆われた評価の中から、突然黒いものが見えることが多いんだ。それは、気味の悪い何かだ。つまり……人として好きになれないんだ。そういうのって」
「うーん……」
「それに、評価の低いお前が、何もやり遂げられないとは思わない。仲間は作り辛いと思うが……少なくとも、そこに打算的な仲間は集まってこない。私は、お前の周りに居る人間が好きだ。これは紛れもない事実なんだ」
「僕も、今、僕の周りに居るみんなが好きだよ。今までの孤独の裏返しみたいに感じるけど……」
「それは単に落差からくる感情じゃない。だから、大切にしろ」
「わかってるよ」
「――というか、何で私達は祭りの最中にこんな話ばかりしているんだ? 今日は何も考えないでいい日なのにな……」
「天邪鬼だからじゃない?」
「なるほど……。一理ある」
僕とアルトは、出店を転々としながら、武器屋の前までくる。
「そういや勇者の剣、ってもう店に無いよな」
「ああ、あれなら今日だけ貸し出してあるぞ。アキに頼まれて」
「そうなんだ」
実際、目立つところに勇者像は移動させられていて、その手には例の剣が握らされていた。
僕はその像を見ながら、「僕にとっての勇者の剣は、この――10Gの剣なのかもしれない」といった。
「流石にそれはないんじゃないか?」とアルト。「棒よりはましになったと思うが」
「これでいいんだ。もちろん、折れたりしたら別のやつにするけどさ。当分はこれでいいよ」
「でも、ヒロカズらしい剣かもしれないな、それは」
「そう思うだろ? 何か、気に入っちゃって……壊れないといいんだけど」
「流石に打ち直すより、買い替えた方が早いな。それの場合……」
「そうなったら、そうなった時また考えるよ。それも運命ってことで」
店番をしていたアキと少し話をして店を出る。
10Gの剣は、勇者おすすめ品ということで、目立つところに展示してあった。
それがちょっと恥ずかしくて……早めに店を出てしまった。
「あと、どこか行きたいところあるか? 劇とかやってると思うけど」
「そういうのはいい。見飽きてるからな」
「そうなんだ」
「あまり好きじゃない」
「まあ、生の勇者はここにいるし……」
「……」
「生の勇者……」
「ちょっと待て」
「?」
「何か感じないか?」
「何かって……何を?」
「視線だよ、視線」
「視線ならいつも感じているが……可哀想なものを見るような、そんな視線を」
「……気のせいか」
「何なんだよ」
「お前、周囲の視線に敏感なようで、鈍感だな」
「例のアレか? 勇者否定論者の集団……」
「まだシアーから何もないんだろ? もしかしたら、捕えられているのかもしれないぞ」
「まさか」
以前、音信不通になった時も、無事だった。だからどこかでそれはないと安心していた。
「やっぱり、気のせいじゃないな……おびき出してみるか」
「どこにさ」
「ひと気が無いところまで私を連れていけ。それとなくな」
「わかった」
僕が歩き出し、少し人通りが減ってくると、アルトが恋人のように、腕に絡みついて来る。
「ちゃんと、演技しろよ」
「わかってるよ」
そういうアレね。
「ついて来てるのか?」
「待て。あの角で曲がる瞬間に確認する」
……。
「来てるか?」
「ああ」
「で、どこまで演技すればいいんだ?」
「私を壁に押し付けろ。それから――」
「それから?」
僕は思い切り、顔をビンタされる。
「――」
「お前はそこに居ろ」
アルトは僕を置いてどこかへ行く。
僕はその場に座り込んで、それから、叩かれた頬をおさえた。
「――痛い」
妙に手馴れてるのは、尾行を撒いたりするのとかが、日常茶飯事だったからなのかな……と思った。
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