表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/37

再始動勇者9

 今日は年に一度の、祭典の日だ。

 この十年、僕は一度たりとも心からそれを楽しんだことはないが、(というか、その間、僕は街から離れ、全く寄り付かないようにしていたが、)今年は流石に楽しめそうな気分だった。

 今考えると、相当もったいなかったな……と思いつつも、今を楽しもうと心掛ける。

(そう……僕は変わったんだ……今年、ある人物と出会って……)

 で、問題は……誰を誘うかだが……実はもう決まっている。

「おいアルト」と僕。

「何だ」とアルト。

「行くぞ」

 以心伝心……それだけで内容は伝わるはずだ。

「……やれやれ。もう少しまともな誘い方はできないのか」

 やっぱり意識はしていたらしく、話は早かった。

 それでこそ、僕の一番の仲間――。

 いうなれば、相方、って感じかな……。

「何の祭りなんだ?」

「一応……勇者の……」

「歯切れが悪いな」

「この十年、逃げ続けていたからな……。だが、今年は違う」

「まあ、私も、ヒロカズの頑張りは認めるよ。今日は主役として楽しめばいい」

「周りが認めてくれるかは別だけど……。まあ、少しは勇者を肯定する人も出てきてるみたいだし……」

「変な奴に絡まれたりしてな」

「それはあるかもしれない」

「たまにはやり返してもいいんじゃないか? ロクな街人じゃないだろう、どうせ」

「ダメだ。よっぽどのことがない限りこちらからは手を出さない……。主役が、祭りを台無しにしたらいけないだろ?」

「十年不在だった奴のセリフとは思えんな……」

「まあ……そうだけど……」

 十年主役が不在だったとはいえ、街中はごったがえしていた。

 勇者、いらないんじゃ?……と思ったが、それは伏せておく。

「結構な賑わいだな」

「それでも、昔よりは大分減って来てるよ。まあ、誰のせいとはいわないけど……」

「お前の所為じゃないさ」

「そうならいいんだけどね……」

「一々暗くなるな。これからは変わるんだろう? お前は……」

「まあ……これまでとは違うよ。今年は。明らかに……ね……」

 仲間も大勢いるし……弱気になってたらいけない。

 胸を張って歩くまではいけないけど、あんまりコソコソしないようにしないとね……。

「変な奴に絡まれたら、私がやっつけてやろうか」

「大人しくしててくれよ……」

「まあ、それは嘘だが……あんまりやられっぱなしはよくないぞ。お前の悪いところは、ほとんどそういうところから来ているんだからな」

 まあ、アルトのいう通りだ。

 でも、街の人にやり返すってのは、違う。

 やり返すべきなのは、別の存在――。

 もしかしたらこの街のどこかに、今も居るのかもしれないが……。

「しかし、十年ぶりだから、勝手がわからないな。子供の頃はちょっとした晒し者だったし、祭りはあんまり好きじゃなかったような……」

「今と変わらず、暗い子供時代だったのか?」

「そういわれてみると、元から暗かったし、母さんの日記を読み返してみて、改めてそう思ったんだよな。自分って暗いなって……」

「それはもう、お前自身の変えることのできない性質なんだろう」

「それは、認めざるを得ない……。勇者だとかどうとかを認識する以前は――勇者としての自我が目覚める前は――ある程度は明るかったのかもしれないけど、あんまり人前に出るのがそもそも好きじゃなかった」

「まあでも、そんな人間は腐るほどいるさ。だから、そんな人間が勇者でもなんら不思議はない」

「でも、ちゃんとしないとっていう、プレッシャーにかなり押し潰されてた覚えはある。それで、母さんにも心配掛けてただろうな……」

「でもそれがお前なんだから仕方ない。不自然に自分を変える必要はない」

 日記の中に書かれていた父さんの子供時代のこと……。

 父さんは父さんで、どうしようもない「自分」っていうものを持っていたんだろうと思う。

 そう考えると何も変わらない。同じことじゃないかと思う。

「私は、否定されたからといって、お前がお前自身であることをやめる方がくだらないと思うな。お前は、お前のままでいいさ。その中で何とかすればいい」

「多分だけど……僕の父も、そうだった可能性はある。比べるのはおこがましいかもしれないけど」

「いや、実際、そうだったのさ。誰かが決めた勇者になることはない。そんなのは、偽物だ」

「そうかな」

「少なくとも、くだらないね。そんな勇者なんか」

 アルトと居ると、気が楽になるのと同時に……少し勇気が湧いて来る。

 それが、僕にとって、一番重要なことだと思う。

「そんなことより、ほら、行くぞ――」アルトが僕を引っ張っていく。「向こうに、楽しそうなものがある」

 しかし、すっかり元通りになったよな。こいつも。

 一時期どうなるかと思ったけど。

「何をぼんやりしている」

「いや――アルト、元気だなと思って」

「私だって、いつも元気というわけじゃないぞ」

「そうだね……」

「ただ、私は問題を先延ばしにして――一時的に考えないようにすることができるだけだ。お前と違って器用だからな」

「問題は、解決しそう?」

「……今のところは無理そうだな」アルトは、目を細めていう。「勇者が、こんなだから」

「ごめん……」

「謝るな。お前はお前のままでいいって、いったばかりなんだから」

「アルトは、妙に僕のことを――ひいては、現勇者としての僕のことを尊重してくれるよね」

「お前が勇者じゃなかったら尊重してないかもしれないぞ?」

「そうかな」

「少なくとも出会っていない……こんな仮定の話をしても仕方ないとは思うが……少し付き合うか」

 アルトは真面目な顔になる。

「そう考えると、私は、お前自身の人格を、それほど評価していないのかもしれない。いや、していない。しかしそれを悪いとも思っていない……そんなところか」

「手厳しいね」

「事実だからな。だが、そんな打算的な評価とは別に、お前のことは好きかもしれない。確かにお前はダメだけど、そのダメさに覆われた中に、時々、良いものが見える。これまでの経験として、やたら打算的に評価の高い人間は、その覆われた評価の中から、突然黒いものが見えることが多いんだ。それは、気味の悪い何かだ。つまり……人として好きになれないんだ。そういうのって」

「うーん……」

「それに、評価の低いお前が、何もやり遂げられないとは思わない。仲間は作り辛いと思うが……少なくとも、そこに打算的な仲間は集まってこない。私は、お前の周りに居る人間が好きだ。これは紛れもない事実なんだ」

「僕も、今、僕の周りに居るみんなが好きだよ。今までの孤独の裏返しみたいに感じるけど……」

「それは単に落差からくる感情じゃない。だから、大切にしろ」

「わかってるよ」

「――というか、何で私達は祭りの最中にこんな話ばかりしているんだ? 今日は何も考えないでいい日なのにな……」

「天邪鬼だからじゃない?」

「なるほど……。一理ある」

 僕とアルトは、出店を転々としながら、武器屋の前までくる。

「そういや勇者の剣、ってもう店に無いよな」

「ああ、あれなら今日だけ貸し出してあるぞ。アキに頼まれて」

「そうなんだ」

 実際、目立つところに勇者像は移動させられていて、その手には例の剣が握らされていた。

 僕はその像を見ながら、「僕にとっての勇者の剣は、この――10Gの剣なのかもしれない」といった。

「流石にそれはないんじゃないか?」とアルト。「棒よりはましになったと思うが」

「これでいいんだ。もちろん、折れたりしたら別のやつにするけどさ。当分はこれでいいよ」

「でも、ヒロカズらしい剣かもしれないな、それは」

「そう思うだろ? 何か、気に入っちゃって……壊れないといいんだけど」

「流石に打ち直すより、買い替えた方が早いな。それの場合……」

「そうなったら、そうなった時また考えるよ。それも運命ってことで」

 店番をしていたアキと少し話をして店を出る。

 10Gの剣は、勇者おすすめ品ということで、目立つところに展示してあった。

 それがちょっと恥ずかしくて……早めに店を出てしまった。

「あと、どこか行きたいところあるか? 劇とかやってると思うけど」

「そういうのはいい。見飽きてるからな」

「そうなんだ」

「あまり好きじゃない」

「まあ、生の勇者はここにいるし……」

「……」

「生の勇者……」

「ちょっと待て」

「?」

「何か感じないか?」

「何かって……何を?」

「視線だよ、視線」

「視線ならいつも感じているが……可哀想なものを見るような、そんな視線を」

「……気のせいか」

「何なんだよ」

「お前、周囲の視線に敏感なようで、鈍感だな」

「例のアレか? 勇者否定論者の集団……」

「まだシアーから何もないんだろ? もしかしたら、捕えられているのかもしれないぞ」

「まさか」

 以前、音信不通になった時も、無事だった。だからどこかでそれはないと安心していた。

「やっぱり、気のせいじゃないな……おびき出してみるか」

「どこにさ」

「ひと気が無いところまで私を連れていけ。それとなくな」

「わかった」

 僕が歩き出し、少し人通りが減ってくると、アルトが恋人のように、腕に絡みついて来る。

「ちゃんと、演技しろよ」

「わかってるよ」

 そういうアレね。

「ついて来てるのか?」

「待て。あの角で曲がる瞬間に確認する」

 ……。

「来てるか?」

「ああ」

「で、どこまで演技すればいいんだ?」

「私を壁に押し付けろ。それから――」

「それから?」

 僕は思い切り、顔をビンタされる。

「――」

「お前はそこに居ろ」

 アルトは僕を置いてどこかへ行く。

 僕はその場に座り込んで、それから、叩かれた頬をおさえた。

「――痛い」

 妙に手馴れてるのは、尾行を撒いたりするのとかが、日常茶飯事だったからなのかな……と思った。

↓で★やブックマーク、感想等をいただけると助かります。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ