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第五話

診察が終わり、経過は良好みたいだ。でもまだ無理はしないようにと言うことだった。帰りに日向さんと鉢合わせした。


「寛くん、この後いいかな?」


「少しなら構いません。真心のあまり体調が良くないので早く帰ってあげたいので。」


「そうだね。今日みたいな日は辛いかもね。」


母さんが日向さんによく相談しているからか、日向さんはうちの健康事情にも詳しい。とは言っても、病弱なのは自分と真心くらい。他の3人は少しうるさいくらい元気だ。愛に至っては風邪をひいたところを見たことがないくらいだ。精神的に弱い自分と元々体が少し弱い真心だけがよく病院にお世話になっている。


「10分くらいで済むから良いかな?時間は取らせないよ。」


「わかりました。」


2人で最上階にある医院長室に向かった。途中でいろいろな人から声をかけられた。自分の存在が病院内に浸透していることが少し嬉しかった。まあ、あんな大きな事故起こして入れば、嫌でも耳に入ってくるだろう。


医院長室に入り、出迎えてくれた佐藤さんの不敵な笑顔に少しゾッとした。自分が猫舌で熱いものが飲めないのを知っているくせにぐつぐつ煮えたぎっているようなコーヒーを用意してくれた。嫌がらせなのかな。


「で、話ってなんですか?」


「今度から病院内でしてもらうことの確認と理由だよ。まだ話してなかっただろ。君を結に進めて身近において置きたかった理由だよ。」


「そうですね。あの時はあまり時間がありませんでしたし。」


「これから寛くんにはこの病院で授業をしてもらいたいと思っているんだ。ここには本来学校に通わなきゃいけない子も多いし、この子たちの将来のためにもね。一番は学校っていう雰囲気を少しでも体感してもらいたくってね。学年も年齢も違うけど道徳とか君の得意な分野だったらみんなでまとまって一緒に勉強できるだろ。各教科の勉強は他の医師も積極的に参加させるから。」


「他の教科はおそらくですけど他の先生方にはかないませんよ。自分で言うのもなんですが勉強自体あまり得意ではなかったですし、大学で主に学んでいたのは教え方でしたから。英語や数学なんてもうほとんど残ってません。」


こっちは文系の教育学部であっちは理系の医学部。優劣をつけるわけではないが一般的には医学部の人の方が優秀だという認識がある。医学部はかなり勉強をしなければ入ることすら難しい。教員免許と違って単位を取ればもらえる資格とは違い国家試験もある。勉強と言う面であれば自分はかわないだろう。


「その教え方が大事なんじゃないか。僕たち医者はどちらかと言うと勉強ができた人だからできない人のことをわかってやれない。君はおそらく僕らと一緒なんだろうけどわからない人のこともわかってやれる。君は人に対しての理解が普通じゃないからね。」


「わかりました。高校生レベルはさすがに無理なのでお願いすることになるかもしれませんが。」


「そこは大丈夫だよ。うちにいる子たちは自分で勉強できる子たちだから。君には主に内面的なものをお願いするから。学校の雰囲気作りだけで良いから。そうしても、今のうちに体験させてあげたい子がいてね。」


日向さんの顔が少し悲しげになった。


「うちにね、白血病で入院している子がいてね。実はその子に頼まれたんだ。その子、中学校に入ってから学校に行けてなくてね。学校自体好きで成績も優秀で学校に行けなくなった今でも自主的によく勉強している子なんだよ。どうしても叶えてあげたくて君に頼んだんだ。」


話している最中も日向さんはあまり浮かない顔だった。自分的にはもうすでに了承しているのに。表情から読み取るにその子の状態を自分は察した。


「わかりました。でも、その子のことは自分には教えないでください。その子ばかり気になってしまうので。学校なら平等に接したいですしね。」


「君のそう言うところは尊敬するよ。でも、君ならみたらわかってしまうとは思うけど。とりあえず頼むよ。どうしても叶えてあげたいんだ。」


最後に手を握られて頼まれた。その手の力はかなり強かったが、暖かった。帰る準備をしていると、


「あら、コーヒー飲まなかったのね。」


「自分が猫舌なのを知っていて、熱いのを出したからですよ。とてもじゃないですけどあの温度は飲めません。」


「そうなら今度からアイスコーヒーにするわね。」


「もしそうなったとしても、あなたなら真冬にキンキンに冷えたのを出しそうですけど。」


会話中、終始ニヤニヤしていた佐藤さん。何か楽しんでいるようにも思えたが、自分にとってはいい迷惑なのでできればやめて欲しい。


「随分と佐藤君と仲がいいんだね。」


日向さんにはそう写っているみたいだが、おそらく両者とも何かあった時のために牽制し合っているだけ。佐藤さんと自分は似ているところが多々あるからこそ、怖さをお互いに知っている。また、お互いに利用できるとも思っているからだろう。前回の一件で自分には利用価値があるのだと佐藤さんは思ったのだろう。認めてもらっていることは少し嬉しかったが少し距離が近い。できればもう少し自分としては佐藤さんのことを見定めたいところだがこうも距離が近いと調子が狂う。


「では、またよろしくお願いします。今度は愛を連れて来ます。愛の卒論も終わりそうなので。」


「今時期にもう終わるのかい?随分優秀な子だね。」


「愛は自分とは比べ物にならないくらい優秀ですよ。基本的に成績を落とすこともなかったですし、就職先はもうすでにうちで働くことが決まってますから。就活も必要ありません。2年時にはすでにほとんどの単位取ってしまってましたから、学校に行く必要もありませんからね。」


「そうか。会うのが楽しみだね。君と佐々木さんにはよく会うけどそのほかは会ったことなかったからね。」


「そうですね。では予定を合わせてなるべく早く挨拶に向かいます。」


もうすでに結さんには挨拶は済ませたがお父さんにはまだだった。結さんとも問題なく話せていたから少し安心した。一家の中で最も社交的で人に好かれる愛だが、自分が関わると少し当たりが強くなる。結さんがあらかじめ自分たちの関係を知っていたからなのか、今回はそれがなかった。愛はおそらく家の中で一番頭がいい。いろいろなところに目がいき、気付き、解決する力が高い。対人は少し苦手のようだが計算高いところがある。昔、愛が話していた。『社交的なのはその方が生きやすいから。人に好かれるのははっきりしているから。その方が味方が増えてお得でしょ。』と言っていた。


「楽しみにしてるよ。予定が決まったら連絡くれるかい。」


「わかりました。ではここらへんで失礼します。」


そうこう話しているうちにすでに30分が経っていた。少し急ぎ目に医院長室を後にしようとしたが佐藤さんに止められた。


「かなり急いでるみたいね。そのくらい心配なのかしら。偏頭痛なんでしょ。」


先ほどまでの少しおちゃらけていた佐藤さんとは違い、威圧感を前面に出して話しかけて来た。


「心配ですよ。大切な人ですから。」


「そう。あなたは2人のためにどこまでできるのでしょうね。」


「愚問ですね。前も話しましたけどどんなこともしますよ。あの2人のためなら。それはあなたも同じでしょ。あなたたちの関係性はいまいちわかっていませんけど。」


「そうね。気になっただけよ。別に深い意味はないわ。ただ結ちゃんのことならどこまでしてもらえるのかなってね。」


「そうですね。自分が助けられるのも限度がありますから。真心と愛が第一。ただ自分の手の届く範囲だったらなんとかするとは思います。結さんも自分にとって大切な繋がりですから。もちろんその中でも優先順位はあります。」


「そう。優しいのね。ならこれからもよろしくね。結ちゃんのこと近くで見守ってあげて。それと真心ちゃんにお大事にって。」


「もちろんそのつもりです。では。」


佐藤さんに少し足止めをくらったが、予定よりも早く家に着くことができた。真心もまだ寝ているみたいだった。


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