第三話
真心をベットに寝かせ、近くに座る。真心からのお願いでしばらく手を繋いでいた。両手が使えないのでしばらく何もできなかった。真心が寝始めると手を離し、片付けをしに下に降りた。しかし、片付けは母さんがすでにしていた。
「片付けはしておいたよ。怪我人だし、真心にさっきは悪いことしちゃったから。ほら、あんたはさっさと真心の部屋に行って面倒見なさい。」
「ありがと。助かったよ。」
洗い物も片手でできることは限られている。真心や愛も手伝ってくれている。自分が骨折して一番負担をかけてしまっているのは母さんだろう。仕事に影響が出てないのが唯一の救いだが明らかに疲れが見える。母さんには感謝しかない。
「怪我人は変な気を使わずにさっさと怪我を治すの。せっかくの休みなんだからこれからのためにいっぱい休みなさい。」
自分が考えていたことを見透かすように母さんは言ってきた。顔にでも出てたのかな。
「そうだね。じゃあ真心のとこ行くわ。」
リビングを後にして、真心の部屋に戻った。真心は壁に背を向け丸まって寝ていた。真心のそばに座り、再び手を握り直した。自分の手を握る力が強くなった。
「おかえり。」
「起きちゃった?」
「寝たと思ったらすぐにどこか行っちゃうから。」
手を繋いだまま真心は体を起こして自分の前に座った。
「Tシャツきてくれてるんだね。これはお父さんのやつかな。」
「せっかくおみあげで買ってきてもらったしね。もらった時は驚いたけど。」
このTシャツは真心たちが父さんについていったヨーロッパでのお土産だ。3人ともいわゆる『I Love Tシャツ』というやつで地名は違ったが、ものの見事にかぶっていた。3人とも相手が何を買っているかわからない状況だったらしく、自分にお土産をあげるときに家族全員で笑った。
「面白かったよね。まさかだった。」
「とてもファッションの仕事している人間とは思えないセンスだったよ。3人とも考えることが一緒で笑たわ。」
「ここまでくると少し怖いけどね。」
真心との時間はいつもゆっくり流れる感じがする。真心の声のトーンとか、雰囲気がそうさせるのかもしれない。みんなで笑いあって少しうるさくしてしまうのも自分は好きだが、この静かな感じも好きだ。真心と自分にしか作れない空間で、他の人とはこうはならない。真心が自分の足の間にちょこんと座る。
「左手、さわれない。」
「折れてるからね。」
「早く治してね。」
「わかったよ。頑張るね。」
真心は手が好きらしい。手を繋いだり、手のひらに文字を書いたり。自分の近くにいる時は常に触ってくる。大きくて、暖かくて、包まれている感じで安心するらしい。こうして話している最中もずっと触っている。そうしているうちに再び真心はウトウトし始めた。
「眠たくなってきた?今日は午後から病院に行かなきゃいけないからあまり無理しないでね。」
「ギリギリまでこうしてる。もし眠ちゃっても時間までは一緒にいて。」
「わかった。じゃあ後1時間だけね。」
そういうと真心は体も向きを変えて自分の肩に顔をのせた。優しい香りが鼻腔をくすぐる。落ち着く。
1時間はすぐにたってしまい、いつの間にか真心は寝てしまっていた。そのまま真心を布団に優しく寝かせた。自室に戻って、服を着替えた。