第二十七話
宅配ピザを食べ終わり、左手にビニール袋を巻きながら風呂に入った。骨折していた時より不便はないが急な縛りプレイはやはり不便には変わらない。骨折していた頃は真心と愛に体を洗ってもらっていたが少し恥ずかしかった。しばらくはあんな思いはしたくない。たまにはいいけど。
風呂から上がり、部屋でくつろいでいると真心が入ってきた。
「大丈夫なの?」
「指のこと?なら心配いらないって。しっかり日向さんに塗ってもらったから。」
「そうじゃ無くて。最近様子がおかしかったし、今日病院について行ったときに悲しそうな顔してたから。」
そう言えば、真心には話してなかった。父さんと母さんには話したし、花屋で働いている愛はどこからか自然の流れで耳にしていた。
「ごめん。言ってなかった。」
「許さない。私だって心配してるんだから。仲間外れにしないでよ。」
少し涙ぐんでいるのが確認できた。真心だけが知らないという状況が嫌だったのだろう。
「少しくらい頼ってくれてもいいじゃん。私じゃ何もできないかもしれないし、気の利く言葉もかけることはできないかもしれない。でももう寛が傷つく姿は見たくないの。好きな人が日に日に弱っていくのを見るのは耐えきれないの。」
何を言っていいか分からなかった。純粋に真っ直ぐに気持ちをぶつけられた。冷静になればかなり嬉しいことを言われたが、真心をこんなにしてしまった罪悪感が増さった。最近こんなことばかりだな。
「そっちいくね。」
真心が近づいてきた。
「寛は私にとって最も大事な人なんだから。どんなこと言われても、どんなこと考えていてもそれは絶対揺るがないから。重いって思っちゃうかもしれないけど寛のためならなんでもできるよ。大概のことも我慢もできる。でもあなたが傷ついているのを見るのだけは我慢できない。待ってるだけの私じゃないよ。寛が大怪我したときからずっと考えて決心したんだ。このままじゃダメだって。ずっとあなたのそばにいたいから。もちろん愛も一緒にね。」
椅子に座っている自分の前で正座して真心は言った。涙を拭って満面の笑みで。自分は我慢できず、真心に抱きついた。たった一つしか年齢が変わらないのに真心のことが今まで以上にすごく大きく感じた。
どのくらい時間が立ったのかは分からない。少しだけ寝てしまっていたのもあるが、ずいぶん長いこと真心の肩に顔埋めていた。覚悟は決めたと思っていたが実際に現実味を帯びてくると覚悟が揺らぐこともある。精神的にかなり疲弊していたのかもしれない。それから真心に今まであったことの顛末を話した。真心は何も言わず、ただ聞いていた。
「安心した。寛自身には何も無くて。」
笑って自分に答える。
「話してくれてありがと。でも、ごめん。やっぱり私には何も言えない。」
「大丈夫。覚悟はできているんだけど、いざってなるとどうしても。最悪の状況になるって決まったわけじゃないんだけどね。」
「仕方ないよ。寛はずっと細かいことまで気にしすぎてきたから。それが全部ネガティブな方向だから。いつも自分で言ってたじゃん。そういう性分だから仕方ないって。でも、そうなら尚更話して欲しかったな。私は寛より頭の回転も人の感情を読み取ることも得意じゃないけど誰よりも近くで寛のこと見てきた自信はあるから。寛は他の人の変化にはすぐ気付くし、どう思っているのかも敏感に感じることができるけど、自分のことになると誰よりも見えてないもん。無理して背負い込んだり、体調不良にも言われるまで気づかなかったり。ほんと笑っちゃう。」
部屋に入ってきたときの表情は何処へやらで、1人爆笑してる真心。自分には分からないが何か真心の笑いのツボに入ったのだろう。
「何そんなに面白いことあったの?」
真心の笑い声を聞いた愛が部屋にきた。
「それがね。」
今まで話してきたことを笑いながら話す真心。
「わかるわかる。」
愛も笑いながら真心の話に反応する。一通り話し終えると、真心が自分の方を向いて言った。
「ともかく、1人で背追い込まないこと。真っ先に私と愛に相談すること。この二つしっかり約束できる?」
愛も真心の話に合わせて自分の方を向き肯く。
「わかりました。約束します。」
「なら約束の印。」
真心の顔が寄ってきた。少しの間だが口と口が触れた。
「ああ、いいなお姉ちゃん。私も。」
真心のことを振り払って今度は愛と。
「2人との約束だからね。」
まだ積極的になることに慣れていないのか、真心の耳は真っ赤だった。
「それにしても積極的に慣れたじゃんお姉ちゃん。あんだけ悩んでたのに。やればできるんだね。」
「愛それは言わないでよ。」
「なになに?そんなんこと愛に相談してたの?」
はたから見れば違和感だらけの自分たちの関係だけど、これが自分たちのしあわせのかたち。改めて、真心たちに相談せずに1人で抱え込んできた自分を反省した。この2人といるときだけは嫌なこともつまずいていることも忘れられる。
「俺もっと頑張るね。あいつらにも笑ってほしいから。」
「頑張んなさい。もしつまずいたり悩んだりしたら私たちのところでぶちまければいいんだから。」
「そうだな。これからもよろしくな。」
「何改って。そんなんの高一の時に覚悟できてるよ。」
「私も。」
「そっか。」
それから、一緒にゲームをしたりバラエティを見たりした。明日のことなんか考えずに3人の時間を十二分に楽しんだ。3人で長い夜を一緒に過ごした。




