第十三話
初授業から3日後。愛に今日は少し遅れると伝え、病院に向かった。あらかじめ用意されていた会議室の前には中村先生がいた。
「結構人数集まっているよ。3日間しかなかったけど準備大丈夫だった?」
「少々準備不足は否めないですけど、予め何個か授業作っておいて良かったって感じですかね。」
「そうか。僕も後ろで見てるから困ったことがあったら言ってね。もう少しで日向先生も来る予定だから。」
「わかりました。じゃあいきますか。」
話している間に時間になったので中村先生と一緒に会議室に入った。保護者の目線にあまり悪い感じはしなかった。疑いの目ではなくどこか期待されているような感じがした。
「説明が遅れてすいません。自分は渡邉寛と言います。普段はこの病院の駐車場にある花屋で働いています。保護者の皆さんからの質問には精一杯答えていきたいと思います。今日はよろしくお願いします。」
半分社交辞令のような挨拶を済ませて、深々と頭を下げた。第一印象が悪いと後々、話すら聞いてもらえなくなる
体格が良くてただでさえ威圧感が少しあるため、姿勢だけは低く、好印象を持たれることに徹した。
「頭あげてください。別にあなたを問い詰めようなんて思ってません。むしろ私たちはあなたに感謝してるんですよ。
日向先生が推薦してくれた人ですから疑う余地はありません。しかもここにいるほとんどの方があなたのこと知っていましたから。子供たちからも人気が高いので心配はしてません。今日ここに寛さんを呼んだのはお願いしたいことがあったからです。」
わかりやすく自分の頭に?が浮かんだ。自分の中ではなるべく早くということだったから説明もなく何をしようとしているのか問い詰められるものだと思った。
「はあ・・・。」
安心した。この歳になって大勢の人間に怒られるのは少々辛いものがある。
「でも一応今後どういったことをしようかの説明だけはさせてください。そこに不安を持っている保護者の方もいらっしゃると思うので。あ、一応自分は教員免許を持ってます。大学での成績は良い方でした。これが信頼の材料になると良いのですが。」
小声だったが保護者側から「なら安心ね。」という声が聞こえた。
「先にこちら側からいいでしょうか?もしこの内容が希望に沿っていれば問題ないですし、問題があれば随時修正したいので。」
あらかじめ用意しておいた資料を配った。少しだけ多めに用意しておいて良かった。2部だけ足りなかったが、中村先生にお願いしてすぐに印刷してもらった。資料には今後のことと、自分の少し詳しいプロフィールを書いた。自分の職業のことについて説明していると驚きより戸惑いの方が大きい感じがした。
質疑応答をしながら、約1時間程度授業について説明をした。自分がやろうとしていることが普通の学校ではあまりやらない内容で、さらに全ての子供達を対象にして行おうとしていることに驚いている保護者もいた。最終的には納得はしてもらえたみたいで良かった。
「今自分が考えているのはこんな感じです。」
説明を終えると保護者側から、
「丁寧にありがとうございます。あなたのプロフィールに少し戸惑ったところもありましたが、納得しました。授業についても同様です。これからよろしくお願いします。」
そういうと保護者全員が立って自分に頭を下げた。
「頭をあげてください。自分はできることをやるだけなんで。ところでお願いはどう言ったことでしたか?一応聞いておきたくて。」
保護者の中の代表のような人が話し出した。
「授業の中で納得してしまったところもありますが、わかりました。私たちの子供は今のところ学校に行くことができない子ばかりです。病気が治った時にまず親が心配するのが再発すること、次に学校や社会に出ることです。長く集団に慣れていないことで人との関わり方をあまり学べない。完治したとしても外に出ることを怖がってしまうことが多い。先生にお願いしたかったことはどちらかというと知識ではなく外の世界で使えること、適応できることを教えていただこうと思っていました。」
保護者の意見を聞く限り、おそらくだが自分が授業をすることが最適解なのだと思う。大学時代もそういった方向で授業を作って来た。今はこういったことが必要だとも思っていた。でも実際の教育実習ではその思考から逃げてしまって無難なことをしてしまった。ここに来て改めて自分がやって来たことは間違ってなかったのかなと思い始めた。
「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。」
思わず感謝の言葉を述べてしまった。保護者の方々には意味はわからないだろうが、教育に関しての思想に自信をなくしていた自分にとっては感謝しかなかった。
保護者との説明会を終えて、中村先生に一礼し、花屋に戻った。




