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第38話【小鬼の死群】

『おぉ~~りゃっ!!』


俺はダンジョンの通路に籠りながらゾンビゴブリンの大群と戦っていた。


『そぉ~~りゃっ!!』


だが俺は、最初に目論んだのとは違ってバスタードソードを振るっていない。


素手でゾンビゴブリンたちと戦っていた。


『せやっ!』


正拳突きだ。


左足で踏み込み、右足を後ろに踏ん張って腰を落とした姿勢から、力強い正拳突きを脇腹の位置から繰り出す。


肘と手首で捻れを威力に追加された拳がゾンビゴブリンの顔面にめり込み鼻を陥没させる。


夜な夜な毎晩のように読んでいる【空手家馬鹿百段】で覚えた空手道の基本技だ。


俺が拳を引くと、顔面が陥没したゾンビゴブリンが両足を揃えて前のめりにダウンする。


こいつも一撃で事切れたようだ。


すると倒されたゾンビゴブリンの後ろから新たなゾンビゴブリンが前に出て来た。


『どぉ~~らっ!!』


今度は上段前蹴りがゾンビゴブリンの顔面を蹴り上げた。


あまりの脚力でゾンビゴブリンの首が千切れてもげる。


『ひゃっは~~、たぁ~のぉ~しぃ~なぁ~!!』


もう俺は一時間ぐらいゾンビゴブリンたちと戦っていた。


細い通路でほぼほぼ一対一で戦っている。


そして、その状況は無双状態だ。


連戦に続く連戦だけど、楽勝に続く楽勝だった。


倒したゾンビゴブリンの数はそろそろ百は越えているだろう。


いくら戦っても疲れない。


いくら連勝しても飽きない。


俺は勝利を貪ることに酔いしれていた。


体力が無限っていいよね。


飽きても戦い続けられるんだもの。


『弱い~、弱いぞ~。でも無双は楽しいなぁ~!』


通路の床には頭を破壊されたゾンビゴブリンの死体が複数体転がっている。


その数は、もう百を越えているだろう。


全部俺に頭を砕かれ倒されたゾンビゴブリンたちである。


最初は剣の練習をしようと考えていたが、少々の誤算があった。


剣学に疎い初心者に良くありがちなミスである。


それは、バスタードソードで戦うには、この通路が狭かったのだ。


バスタードソードの刃幅は120センチ、刀身の長さは1.3メートルだ。


なかなかの長身の武器である。


それなのに通路の幅は、俺が両腕を広げれば手が届く程度の狭い幅である。


天井の高さも190センチの俺の頭が接触しそうなぐらいの低さだ。


要するに、ロングソードよりも長いバスタードソードを振り回せば、壁や天井に刀身がぶつかって上手く剣を振るえないのである。


この狭さで触れる武器はショートソードかダガー程度であろう。


だから俺はバスタードソードを納めて空手技で戦っているのだ。


それに俺には暗器ブレードもある。


『ほれ、ほれっ!』


俺は左右に肘を振るう。


左右の手首から伸び出ている暗器ブレードの二太刀でゾンビゴブリンの頭部を二の字に切り裂いた。


そして次のゾンビゴブリンには膝を突き立てる。


飛び膝蹴りだ。


俺の片膝から飛び出している牙のような刀身がゾンビゴブリンの眉間を串刺しにしていた。


『狭いところでの戦いだと、暗器が役に立つな~』


すると俺の後ろで豊満な胸を抱え上げるように腕を組んで寛いでいるクレアが言った。


「そうだろう、そうだろう。私の作った暗器武器は役に立つだろう。だから私に感謝しろ」


『感謝してますがな~、クレアさんよ~』


そして、もうしばらく俺はゾンビゴブリンたちと楽しく戯れるように戦った。


思う存分に無双を堪能する。


それから三十分後ぐらいに、最後のゾンビゴブリンの頭部を破壊して戦闘が終わる。


俺が少しずつ下がりながら戦っていたせいか、通路には10メートルぐらい先からゾンビゴブリンの死体が床一面に転がっていた。


ほとんど山となっている。


「アナベル、何体ぐらい倒したんだ?」


『あれ、クレアが数えてくれていなかったの?』


「百体ぐらいまでは数えていたが、それ以上を越えてからは面倒臭くなって数えるのをやめたぞ」


『あら~、そうなん……』


まあ、いいさ。


洞窟ハウスに帰ったら、ステータススクロールのログで確認しよっと~。


それにしても──。


『まあ、これでゾンビどもは全部倒しただろう』


あいつら、トコロテンのように押し出されるがままに出てきていたもんな。


相当クレアのおっぱい肉が食べたかったのかな?


そのおっぱいの持ち主が美乳を揺らしながら言う。


「よし、じゃあ先に進もうぞ」


『ほいさ~』


俺はゾンビゴブリンの死体を踏まないように床が僅かに見えるところに爪先を伸ばして先に進んだ。


死体を踏みつけるなんて罰当たりなことは出来ない。


その時である。


「うっ、がぁがぁ……」


倒れているゾンビゴブリンの一体が手を伸ばしてきた。


『あら、まだ動けるヤツが残っていたか。それっ』


俺は無惨にもゾンビゴブリンの頭を踏みつけて潰した。


グリグリと擂り潰すように踵を捻る。


『よしっと~』


まあ、ゾンビを倒すのは別だけどね。


ゾンビが活動停止するまでなら踏んでもOKである。


俺は通路から大部屋に出ると後方を確認した。


しかしまだクレアは通路の奥にとどまっている。


『どうした、クレア。早く来いよ~』


「今行くぞ」


そう言ってからクレアが数歩だけ後ろに下がった。


そして、全速力で前に走り出す。


助走をつけてからのジャンプだった。


クレアは通路に横たわるゾンビゴブリンたちの遺体を飛び越えたのである。


10メートルある死体の山の距離をワンジャンプで越えて来た。


それにしても感心である。


『ハイヒールなのに凄いね~』


大部屋内に着地したクレアが溜め息を吐いた。


「ふぅ~」


『わぉ~。すげ~跳躍だったな』


片足が義足なのを忘れるほどの脚力である。


「靴の踵を腐った血で汚したくなかったからな」


『なるほどね……』


なんだよ、靴を汚したくなかっただけですか……。


クレアが俺を一瞥してから言う。


「それにしても貴様は汚いな。全身が返り血で血塗れではないか」


俺の両拳両足ともに血だらけである。


何せゾンビゴブリンの頭を素手で何体も砕いていたんだもの。


そりゃあ返り血の一つや二つを被るわな。


「アナベル、家に帰って風呂に入るまで私に近付かないでくれよ。臭いも酷いからな」


『マジで!!』


もう、いくらなんでも、そんなに邪険にしなくてもいいのにさ。


嫌がらせに、このまま勝利のお祝いのふりしてハグしてやろうかな。


俺一人で百匹を越えるゾンビゴブリンを殴り倒したんだぞ。


見ていただけのヤツが好き勝手な事を言うなよな。


──っと、言いたいが言えない俺は小心者である。


クレアに嫌われたくないんだもの。


まあ、汚物扱いもたまには悪くないだろう。


これもご褒美だと考えて受け止めよう。


これはこれで『愛』である!!


俺の前を進むクレアが振り返って言った。


「なんだ、いきなり。【あい】がどうしたのだ?」


『いや、ちょっと心の声が漏れ出ただけだ、気にするな』


「なんだ、お漏らしか?」


『ちゃうがな……』


そう言う性癖は俺にはない。


それにしてもクレアが何も言わずに進み出したけど、どこに向かっているのかな?


ダンジョン内の構造が分かるのかな?


でも、ダンジョンのマップなんて持っていないはずだ。


とりあえず訊いてみるか……。


『ところでクレア、どこに向かっているんだ?』


「この階に生命反応も動く気配もないからな。なので地下二階への階段に向かっている」


『気配でいろいろ分かるのかよ。しかも、空気の流れで階段の場所が分かるのか?』


「普通は風の流れで読めるだろうさ。こっちから古くさい空気の流れがある。だから、おそらくこっちだ」


空気の流れが読めると、そこまで分かるのかよ……。


めっちゃ便利なスキルだな。


すると突然クレアが足を止めた。


『どうした、クレア?』


そして、踵を返して歩き出したクレアが言う。


「すまぬ、アナベル。道を間違えた。この先は行き止まりだ。引き返すぞ……」


ああ~、言うほど便利なスキルでもないようだ。


空気を読むって難しいのね……。


スキルでも、リアルでも……。




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