第拾壱話 女王降臨
「また空振りか」
俺は隣にいる翔子に声をかける。
「ええ。周辺に生体反応もありませんね」
「ななみさんが気配を感じない以上、私たちにノイヅを捉える手段はありません……」
「ハカセ、一体どうなってるんだ」
この頃、ハカセが予測した地点に行っても、ノイヅがいない事態が続いている。
以前のように獲物を待って隠れているという訳でもなく、
どうにもその場から立ち去ったような気配だ。
『うーん。これはマズいかもしれないわね』
ハカセからの通信が耳元で聞こえる。
『ななみちゃん、翔子ちゃん。一度、研究所に戻ってきてちょうだい』
「ノイヅの動きが組織化する可能性がある!?」
「……ってどういう意味?」
深刻そうに話すハカセの言葉を復唱して適当に驚いたものの、
意味はわかんなかったので聞き返す。
「いままでバラバラにあらわれて、
それぞれ好き勝手に人を襲っていたノイヅが、
協力して人を襲い始めるかもしれないってことです」
翔子がわかりやすく噛み砕いて説明してくれる。
「なんだ。そういうことね。はじめからそう言いなさいよ。」
「ノイヅが、発生すると同時に、なんらかの方法で気配を消している」
「これ自体は進化によってそういう能力を身につけたとしてもおかしくはないわ」
だけど、とハカセは話を続ける。
「発生した場所で狩りをしていない。コレが一番の問題なのよ」
「どうして?人を襲ってないならいいことじゃないの」
「ちがうんですよ、ななみさん。ノイヅはいうなれば肉食のケモノです。
個々に縄張りを持って、自分が生き残るために人を襲っています」
「そのとおり。いくら知能が高くなってきているとはいえ、
やつらは本質的には縄張りを持つ動物。
縄張りからでて、自発的に協力し合うとは思えないの。」
「つまり?」
わかるようでわからなくて頭にはてなマークがでてくる。
「要するに奴らを束ねる親玉が現れたんじゃないかって話よ。」
「ふぅん。親玉、ゲームのボスみたいな。でもなんの得があってそんなのに従うのかしら」
ノイヅがそんな強いやつにハイそうですかと従うような感じには思えないけど。
「さあねぇ。獲物を分配してくれるのか、力で従わせているのか」
ハカセもよくわかってない感じだ。
「そもそも、実際にそんな存在がいるのかもわかりません。すべては仮定の話ですからね」
そう翔子がいうので、納得した。
そうか。いると決まったわけじゃないものね。
「まあでも、そういうのがいる可能性があるってことと、
いなくなったノイヅがどこから現れるのかわからないから用心しておいて」
「はいはーい」
ま、ノイヅが縄張からいなくなったのは事実だし、そこは気をつけなきゃね。
そのあと、特にすることもないから、
研究所で翔子がパワードスーツ、猫弐号をいじっているのをボケっと眺めていた。
「これでよしっと。完成です!」
「猫弐号バージョン3!名付けて参式猫弐合です!!」
不意に翔子がそう言って立ち上がり、
海外の映画の登場人物がやるみたいに、猫弐号のボディをペンっと叩いて私に親指を立てた。
2なのか3なのかはっきりしなさいよ、と思った私だったけど、
ハカセには好評だったらしい。
「あら、さしずめメカ・レオセヴンといったところかしら」
なんていって喜んでる。
オタクの考えてることはわかんないわ。
「あんまり変わった様には見えないけど?」
と、呟いたら、
翔子がよくぞ聞いてくれるましたと眼を輝かせて、
すごい早口で喋り出した。
……きかなきゃ良かったかも。
なんとなく聞き取れたところによると、
今まで電池で動いていたのが有線でも動かせる様になって、
フォーミュラカーゴのまわりなら活動時間無制限になったらしい。
ナントカっていうアニメのロボットがどうとか言ってたけど、それはよくわかんなかった。
それから、手に持てる武器の種類が増えたとかも言ってたような気がする。
機械のコトを喋ってる時の翔子はすごく楽しそうだ。
「ま、何はともあれ、あんたに趣味がみつかってよかった」
「はい!ななみさんのチカラになる方法を考えるのはとっても楽しいです」
……なんか違う気がするけど、まあいいや。
それから数週間は、なんにも起きなくて、拍子抜け。
最初のうちは、ずっと気配に集中して、
ノイヅの気配がすればすぐにでも変身できるように身構えてたんだけど、
ハカセの予測も立たないし、ノイヅの気配もなし。
いまじゃすっかり気が抜けちゃって、
現れるかどうかわかんないノイヅよりも、
目の前に迫った中間テストのほうが大事になってた。
「チエにゃーん!!おねがーい!!テストに出そうなとこおしえてぇ!!」
と、いうわけでとりあえず親友のチエにゃんに泣きつく。
「だからいったじゃないの。あんまりサボってると後で困るって」
チエにゃんがいつものニヤニヤ笑いをしながらも、
冷やかな眼でこっちをみている。
これはちょっと、本気で怒ってる顔だ。
「ごめん!反省してます!!」
「期末は心を入れ替えて頑張ります!!」
「だからどうか中間は乗り切らせてください!!」
手をすり合わせて必死に拝む。
チラッとチエにゃんの顔をうかがうと、目に暖かさが戻っていた。
「もう。しょうがないわね。あとでプリン、おごんなさいよ」
「やったー!!ありがとー!!」
中間テストまであと3日、イヤでも気合が入る。
と、いうか、これぐらいになんないと気合が入らないのよね。
先生の授業から、すこしでもテストのヒントを得るために、
片っ端からノートを取っ……ていた手が止まる。
「――先生!体調不良です!!保健室行きます!!」
高らかに宣言する私に苦笑しつつ、行ってこいという先生の言葉と、
クラスメイトの笑い声を背中に、
カバンを引っ掴んでダッシュで教室を後にする。
「まずいまずいまずい……!なんなのよこれ!!」
中間テストどころじゃない。
私は慌てて階段を駆け下りながらゆらぎに飛び込んだ。
体調不良というのもあながち嘘じゃない。
今まで感じたことのない様な、沢山のノイヅの気配。
それを感じ取った私の身体は寒気と一緒にすこし震えている。
通信端末ネオベルを取り出して、緊急連絡モードを使う。
「翔子!すぐ来て!!マズイことになったわよ!!」
ついで、カバンからベルトを取り出して、腰に巻き、
同じくカバンから出したサンストーンを掲げて、
ベルトにセットする。
「獣装!!」
その瞬間、私の身体は光に包まれる。
身長が伸びて筋肉がつき、頭が冴え渡る。
どこからともなく現れた鈍色の装甲が全身に装着されて行く。
そして、最後の装甲、フェイスマスクが装着された瞬間、
鈍色の装甲はパッと燃え上がるように金色に煌めいた。
そして、頭部から伸びた深紅の髪がフェイスマスクの後頭部からバサリと姿を表し、
俺の身体の変化は止まった。
獣装超人レオセヴン、見参だ。
そのまま直ぐに、走って現場に向かうつもりだったが、
変身して冷静になったアタマが、体にブレーキをかけた。
未だかつてない数の敵を同時に相手にすることになるだろう。
作戦もなしに一人で突っ込むのは得策とは言えない。
一度翔子が来るのを待つべきだ。
今にも降り出しそうな曇り空の下、
校庭で翔子を待っている間にフォーミュラカーゴに出動命令を出しておく。
このフォーミュラカーとカーゴトラックのキメラは
猫弐号スーツが格納されているだけじゃなく、
どうやら電源車としての役割も得たらしい。
翔子を戦力に数えるならコイツは必須だ。
と、数分もしないうちに校舎から出てくる人影が見えた。
人影といっても、このゆらぎの世界に入れる人間は基本的に俺と翔子だけだ。
翔子で間違いないだろう。
「すいません!おまたせしました!」
俺の姿を視認して駆け寄ってくる翔子。
「ノイヅですか?」
「ああ。それも、一体や二体じゃない」
「おびただしい数の気配を感じる」
「そんな……」
一瞬愕然とした表情をした翔子だったが、
流石は俺の相棒を自称するだけのことはある。
すぐに覚悟を決めた表情になった。
「どうやって戦いますか?」
「……翔子、確か猫弐号をバージョンアップして腕に補助電源を入れたと言っていたな」
「あ、はい!より大きな出力の武器でも扱えるようになりました!」
「いや、武器はいい。索敵に使えそうなガジェットはあるか」
「ええ、もちろん。超音波を利用したエコーロケーションシステムの他に、
外部カメラを取り付けた小型ドローンが装備されています」
「よし、上出来だ。なら翔子は……」
と、そこへ、フォーミュラカーゴが校庭に入ってきたので、
話を一時中断して、フォーミュラカーゴの方へ歩いて行く。
「翔子、ここで装着して活動時間に影響はあるか?」
「いいえ、有線には再接続可能ですし、予備バッテリーもあります」
「よし、なら、ここで装着していこう」
「なにせ、今回のノイヅに縄張りは無い。いつどこから襲われるか、わからないからな」
「了解です。では、少し待っていてくださいね」
そういうと、翔子は俺と同じようにカバンからベルト――
ターゲットバックルを取り出して装着し、
フォーミュラカーゴの後部から出てきたタラップに乗って、バックルのレバーをひねった。
「獣同!!」
スキャニング コンプリート
――オールレディ。
いくつかの電子音とともに
バックル装着者の体格スキャンが完了し、
フォーミュラカーゴから伸びたアームが自動的に
翔子に猫弐号のアーマーを取り付けて行く。
最後にアームが背中に大きなバッテリーを装着し、
翔子の目の前にヘルメットが差し出される。
それを受け取った翔子は自分の手で頭に被り、バイザーを下ろした。
「猫弐号、獣同完了です!!」
そう言ってタラップから降りてきた翔子は、
さながら白銀の鎧を身にまとったヴァルキリーと言った様相だ。
フォーミュラカーゴの座席に乗り込み、
ナビに気配のするあたりの座標を入力して地形を確認すると、
路地の多い住宅街だった。
「よし。これなら、撹乱もしやすいはずだ。
なるべく敵を引き離して一体ずつ撃破していく。
翔子はドローンで索敵して状況を逐次報告してくれ。」
「わかりました。ですが、私も戦わせてください」
「かく乱には囮や足止め役が必要なはずです」
「……わかった。だが、くれぐれも無理はするなよ」
「翔子はサポートに徹してくれればそれでいい」
「交戦することがあっても、あくまで撹乱が目的だ」
「猫弐号の武装ではノイヅにトドメはさせないということを肝に命じておいてくれ」
「いいな?」
「はい!了解しました!」
フォーミュラカーゴが目的地の手前で止まる。
あたりにはもうすでにノイヅの気配が充満しており、
静まり返った住宅街は、曇り空も相まって、不気味な印象を受ける。
いつもなら、カーゴはテリトリーには入らないから
襲われる心配は無いのだが、
今回はテリトリー自体、あるのかも不明だ。
最大限に警戒しなければならない。
翔子がフォーミュラカーゴの車体の上から伸びる
電源ケーブルを背中のバッテリーに接続してから、エコーロケーションを行う。
いくつものノイヅの気配が重なって、俺の感覚は役に立たない。
猫弐号の索敵能力だけが頼りだ。
「……どうやらこの辺りにはノイヅは居ないようですね」
そう言いながら、
続けてドローンを射出した翔子はバイザーに手をあて、索敵を続けている。
「あっ!東の方に一体います!」
「……でも様子がおかしいような……棒立ちというか何というか」
「罠かもしれないが、行って見ないわけにはいかないな」
「はい。気をつけてください。引き続き、ここで索敵を続けます」
二本か三本ほど路地を越えた辺りに、
翔子の言う通り、ノイヅが立っていた。
路地の真ん中に、何をするでもなく虚空を見つめている。
が、突然。
ビクンと跳ねたかと思うと、
あさっての方向を見たまま、
こちらに向かって走り出した。
「おいおい、俺はホラーは苦手なんだ」
一瞬、怯みそうになりながらも、
横に飛んで壁を蹴り、
ノイヅの後頭部目掛けて回し蹴りを放った。
意外にも、
その蹴りはそのまま命中し、
あっけなくノイヅは地面に倒れ伏した。
ベルトのサンストーンを回転させて
エネルギーを解放し、
倒れたノイヅに、
かかと落としと共に撃ち込む。
ダメージを追い、
身体が不安定になったところに
過剰なエネルギーを与えられたノイヅは、
本当にあっけなく消滅した。
だが、訝しんでいる暇はなかった。
通信機を通じて翔子の焦った声が聞こえてきていた。
『ななみさん!そちらに4体のノイヅが向かっています!!』
やはり罠か。いや、それともただの見張りだったのか?
「どこからくる?」
『右の路地から1体!』
『正面に2体!!』
『後ろの路地に向かっているのが1体いますが――これは私が抑えるので来ません!!』
「了解した!」
俺は手早く右の路地に入り、
まだ少し先にいたノイヅと一足飛びに距離を詰め、
立て続けに2、3発の正拳突きをお見舞いする。
さっきの奴と同じで、
すぐさまグロッキーになったのを確認した俺は、
そのままストーンのエネルギーを乗せた後ろ回し蹴りをお見舞いし、
消滅させた。
そして、振り向きざまにベルトのコネクタカバーを開いて、
サターンストーンをセットし、
エネルギーバスを接続する。
「多獣装!!」
そう叫ぶと同時に、
サターンストーンのエネルギーが、
サンストーンのエネルギーと共に全身に駆け巡り、
俺の装甲を変化させて行く。
金色だった装甲は
紫がかった色になり、
両手には二本の円形状の大鎌が現れる。
レオセヴン、サターンフォームだ。
翔子が正面から来ていると言っていたノイヅが
俺を追いかけ、
この路地に入ってきた瞬間、
ストーンのエネルギーを乗せた大鎌、
サターンリングが二体同時にその身体を切り裂く。
これだけ弱いノイヅならば、
最も攻撃力の高いフォームの必殺技だけで消滅させられるのでは
という魂胆だったが、どうやら正解だったらしい。
真っ二つになったノイヅたちは、
そのまま再生せずに、光となって消滅した。
だが、この攻撃は予想以上にエネルギーを消耗するようだ。
この先、まだまだノイヅが残っていることを考えると、おいそれとは使えないな。
サンフォームに戻った俺は、
翔子のシグナルを頼りに元来た道を引き返す。
「無事か!翔子!!」
そう言いながら戻った俺の目に飛び込んできたのは、
翔子がノイヅを巨大なハンマーでボコボコにしている所だった。
「あ、ななみさん!必殺技をお願いします!」
「やっぱり、何度殴っても起き上がってきちゃいます!」
「あ、ああ」
敵とはいえ、少しかわいそうになる光景だった。
その後、ノイヅを手早く片付けた俺たちは、
索敵と攻撃を繰り返し、次々と周辺のノイヅを片付けていった。
「よし、この辺りの奴らは概ね片付いたか」
『はい。少なくとも上から見る限りでは敵は見当たりません』
「しかし妙だ。どいつもコイツも弱すぎる」
『そうですね。みんなフラフラして変な動きです……』
『もしや、例の親玉ノイヅに操られているんでしょうか』
「操られているにしても、動きが単調すぎる。まるで事前に決められた動きだけをしているような感じだ」
「なにか引っかかる……直接操らず、大量にノイヅを配置する理由……」
「……まさか」
俺はタテガミに意識を集中させ、
索敵範囲を広げる。
このあたり一帯を片付けたおかげで
ノイヅの気配をよりクリアに感じる事ができる。
すこし離れた場所に、
いくつかのノイヅの気配を感じる場所があった。
その中に、
一際強い気配のノイヅが混ざっていることに気づいた。
「あっちの方角だ。翔子、あっちには何がある」
『えーとっですね、あっ。工場があります!』
「おそらくそれだ。行ってみる」
『私も行きます!』
「……わかった。俺は先に行っている」
『はい!フォーミュラカーゴで追いかけます!』
工場に近づくにつれて、ノイヅの気配がどんどんと強くなる。
間違いない。こっちが本命だ。
どうやらまんまと時間稼ぎに付き合わされたようだな。
しかし、時間を稼いで一体何をするつもりだ。
工場に踏み込んだ瞬間。
凄まじい違和感が俺を襲った。
なんだ、これは。
いつもはぼんやりと揺らめくように見えているゆらぎの世界が、
やけにくっきりと見える。そう、まるで現実世界にいるような……
『ハカセ!レオセヴンスーツの数値をモニターしてるか!?』
慌ててハカセに連絡を取る。
専門家じゃない俺でも嫌な予感がする。
『ええ。今みてるわ』
『……おそらく貴女の想像通りよ』
『その周辺だけゆらぎの世界と現実世界との融合係数が異常に高い』
『このまま完全に重なってしまえば、ノイヅは自由に現実世界に出ることができてしまう』
「どうやってそんな芸当をやってるんだ!!」
『その辺りには、ゆらぎの世界の果て、壁があるはず』
『おそらく複数のノイヅが同時にゆらぎの壁に干渉することで
融合係数を高めているんじゃないかしら』
「要するにノイヅを見つけ次第ぶっ飛ばせばいい訳だな。任せておけ!」
"壁"は近づかなければ見えない。
とにかく工場内を探索しようと、
歩き出した途端に、"声"をかけられた。
「おやおや。もう見つかってしまったのか」
女性のモノの様に聞こえるその声の主は、
ふらりと俺の前に姿を現した。
その見た目は、
蜂の様な、
あるいは蟻のような
昆虫然とした生き物と
人間の女性を適当にくっつけたような
そんな様相をしていた。
「お前がこの辺りのノイヅを操っている親玉ノイヅか」
「ノイヅ?面白い名で呼ぶのぉ」
「妾の名はエラ。これからこの世界の支配をするものじゃ」
「……貴様、名前があるのか」
明らかな時間稼ぎだとわかっていても、
今までと違う、知能を持ったノイヅに、興味を捨てきれなかった。
「そうとも、"レオセヴン"。我らの唯一の天敵」
「俺たちは初対面のはずだがな」
「我らには生まれたときから記憶がある。
妾が生まれた時、妾の頭には自身の名前とともに、一つの使命があった」
「妾はこの世界に我らの帝国を築き、
"ヒト"を効率的に摂取できるシステムを構築せねばならないのじゃ」
「ほう。帝国ねぇ」
「みたところ、お前の帝国の国民は文字通り傀儡のようだが、それでいいのか?」
「なにを言っておる。帝国という社会システムを作ろうと言っておるのじゃ」
「システムのパーツに意思など必要なかろう」
「間違っているな。そんなものは社会でも何でもない。」
「――なによりも!俺たち人間は搾取されるだけの存在ではない!!」
話し合いで解決できる相手かもしれないという淡い期待はすぐに消え去った。
コイツらとは根本的な物が違うのだ。
「下等種族が力を手に入れたからと言って調子にのるでない。話は終いじゃ。消え失せよ」
そういうと、
エラと名乗った女王ノイヅの背後から
剣を持ったノイヅと、
盾を持ったノイヅが現れ、
剣のノイヅがこちらに斬りかかってきた。
後ろに飛び退って、
斬撃をかわす。
「そうかい。なら、こちらも拳で語るだけだ」
こいつも操られているせいか、
動きは単調で鈍重だ。
剣を振り切った瞬間を狙って、
回し蹴りを放った。
が、盾のノイヅが間に割り込み、
俺の回し蹴りを防いだ。
「なるほど。少しは考えたようだ」
俺は一度距離を取り、
銀色の石、ルナストーンを取り出した。
「剣には剣だ」
「多獣装!」
ルナストーンのエネルギーが
銀の光の線となって全身に巡り、
深紅の髪が銀色に染まる。
「レオセヴン、ルナフォームだ」
俺はシルバーエネルギーを右手に集め、
一本の光剣を形作る。
ふたたび、
袈裟斬りの様相で
斬りかかってきたノイヅの剣を打ち払い、
すかさず盾のノイヅに蹴りを入れ、
一瞬よろめいた隙きをついて、
回転斬りの要領で首を跳ね飛ばす。
それを見た女王ノイヅは、
見るからに不機嫌そうな顔になり、
剣のノイヅに手をかざした。
途端に、
剣のノイヅが機敏に動き始め、
今までとは比べ物にならない速度で、
斬撃を繰り出してきた。
それらを、すべていなしながらも、
じわじわと後退を余儀なくされている。
「やるじゃないか……だが!!」
敵の剣を弾いた瞬間に、
光の剣をムチに変化させ、
胴に打ち込む。
不意を突かれた剣のノイヅは、
ドサリと尻もちをついた。
すかさず、
ストーンを回転させてエネルギーを開放し、
投げ縄状にしたシルバーエネルギーで、
剣のノイヅを締め上げ、消滅させた。
「ええい!どいつもこいつも役に立たん駒じゃ!!」
と、怒りをあらわにした女王ノイヅが手を挙げると、
俺を囲むように四方八方からノイヅが現れた。
どうやら、"壁"に干渉していたノイヅ達を総動員したらしい。
「おっと、さすがにこの数はマズイぞ」
前には女王を含めて3体。
背後に1体。
左右に1体ずつ。
どのノイヅが飛びかかるか、
間合いを測るようにじりじり動く。
そして、
まさにノイヅが飛びかかるという瞬間――
『――ななみさん!!伏せてください!!』
という通信と共に爆音が轟き、
壁に大穴があいたかと思うと、
ガトリングガンのようなものを抱えた翔子が姿を表した。
俺は地面に這いつくばり、
翔子の攻撃に備える。
ズガガガガガッというすさまじい音とともに、
軽快にノイヅが吹き飛んでゆく。
女王ノイヅは、
左右にいたノイヅを盾にして攻撃を防いでいるようだ。
『弾が切れます!!』
その翔子の通信を聞いて、
弾切れとともにすかさず立ち上がった俺は、
エネルギーを開放したキックで、
手近にいたノイヅ2体を消滅させる。
残るは女王が盾にしていたノイヅ2体と
俺の背後で起き上がったノイヅ1体だ。
弾切れになった武器を捨てて俺の方へ走ってくる翔子。
二人で背中合わせに立ち、呼吸を整える。
「あんな武器があったのか」
「ガトリングレールガンです!!」
「なんだその非常識な武器は」
「日本では実弾はおいそれと手に入りませんからね」
「いや、そういうことでは無いんだが……まあいい。助かった」
俺の正面に立つ女王ノイヅが2体同時にノイヅをけしかけてきた。
と、同時に背後のノイヅも動いたらしく、
翔子がハンドガンのような武器で応戦している。
「翔子、先にそっちをやる」
言いながら翔子と腕を組む。
「了解です!」
翔子は俺の意思を汲み取ったようで、
ピッタリと背中を合わせてきた。
「行くぞ!」「はい!」
掛け声に合わせて、
俺は翔子を軸にして回転し、
後ろのノイヅを捉え、
エネルギーを乗せたスライディングからの蹴り上げ
―サンライズキック―
で消滅させた。
「翔子!さがれ!手前をやる!!」
「はい!」
翔子を下がらせた俺は、
若干手前にいた方に照準を合わせ、
ストーンのエネルギーを乗せた飛び蹴りを放つ体制に入った。
同時に、
翔子は奥側のノイヅに
腕から槍のようなものを射出。
動きを止める。
飛び蹴りが命中すると同時に
さらにエネルギーをチャージして
回し蹴りを続けて放ち、
もう1体のノイヅも消滅させた。
残るは女王ノイヅだけ、
そう思って、女王ノイヅのいた方を見やると、
いつの間にか女王ノイヅは
右手を鋭い針のような形状に変化させ、
こちらに突っ込んでくる体制をとっていた。
しまった。
ヤツにも攻撃手段があったのか。
だが、
あの攻撃ならタイミングを合わせて
弾くことができる。
女王ノイヅが地面をける。
右手の針で
俺の身体を貫くべく
飛んでくる。
が、コースが僅かにずれている。
――狙いは俺じゃない!!
「翔子!!」
気づいたときには
反射的に身体が動いていた。
鋭い針の様な腕が、
翔子を庇う為に前に出た俺の
腰のあたり――
――サンストーンに直撃した。
「嘘……でしょ?」
砕け散るサンストーン。
ベルトに逆流したエネルギーが
目に見えるくらいの光になってバチバチ飛び散る。
私を覆っていた鎧が光の粒子となって霧散する。
安全装置が働いて、
身体から離れたベルトは地面にゴトリと落ちて、煙を上げはじめた。
「そんな、ベルトが……サンストーンが……レオセヴンの力が……」
元の姿にもどって、呆然とする私に、翔子が駆けよってくる。
「ななみさん!一度撤退しましょう!!」
翔子が女王ノイヅをハンドガンで牽制しながら、私を抱え起こす。
女王ノイヅが高らかに笑っている。
「なんじゃ!お前、そんな弱そうな見た目じゃったのか!ハハハ!!」
「よい。よい。見逃してやろう。妾はまた駒を集めねばならんからな」
「なぁに。ゆっくりあつめるさ。もはや我らの天敵は絶滅したからの!!」
なにも。言い返せない。
翔子に抱えられながら、ぼんやりと空を見ていた。
もう、戦えない。
だって、ベルトがないから。
だって、ストーンが無いから。
だって、――わたしは、レオセヴンじゃないから。




